第12話 郡山ダブルヘッドドラゴン(3)
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今川達の窮地を救ったのは孝弘と水帆、蓼科達。二つ首の龍は高度を落としていき、それを蓼科達は追撃していく。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「あと数秒遅かったら助けられなかったですから。攻撃が届いて良かったです」
「確かにギリギリでした。でも、それでも間に合った。生きた心地はしなかったですけど、今はもう大丈夫です。高崎中佐」
「今川大佐。魔力が消耗している所すみませんが、地上の方でも動きがあります。早めにアレを倒しましょう」
「そうですね、米原中佐。恐らくDHDの奇襲に合わせてでしょう。地上でもCTの攻勢が始まりました。余程大丈夫だとは思いますが、二つ首が白河北部に向かわせてはいけません」
今川達がドラゴンと交戦している間に、地上でも戦闘が行われていた。今川の言うように二つ首が奇襲を仕掛けてきた直後、須賀川・鏡石方面からCTの一群が白河方面に向かってきていた。その数、二個師団相当。地上部隊は二つ首出現直後こそ多少の混乱があったもののすぐに態勢を立て直し応戦。激しい戦いが繰り広げられつつあった。今川達が二つ首の針路を逸らしたのはこういった状況もあったからである。
「今川大佐の仰る通りです。ただ、西特大選抜部隊は消耗している者もいます。余裕のある方を除いてここからは撤退して頂いた方がよろしいかと。何せあれです。我々も助勢しなければ」
孝弘が指差す方には、まだしぶとく抵抗を続ける二つ首がいた。速度は低下し今は七五〇を出すのがやっとで、旋回半径も長くなっていた。回避能力だけでなく法撃能力も明らかに鈍っているが、それでも脅威に変わりはない。消耗した隊員達では継戦は危険だろう。
今川は首を縦に振ると、
「残存魔力四割以下の者は即時撤退。任務を墜落した戦闘機パイロットの救出に変更。まだ余裕のある者はこのまま任務続行。ただし後方からの支援法撃に徹するよう」
『了解!』
「それじゃあ行きましょうか。私はまだ余裕がありますから、戦いますよ」
「助かります、今川大佐」
「礼はいりませんよ、米原中佐。私はただ、怪獣モドキにコケにされたまま引き下がるなんて真っ平御免ですから。部下を傷つけられているのですから、なおさらね」
唇の端を少しだけ曲げながら戦意旺盛なさまをみせる今川に、この人も璃佳側に近い人だなと思いつつも敬礼し、蓼科達が交戦してる方へ向かった。
「SA1よりノースマジシャンへ。ウェストウィザード及び西特大六名は戦線復帰します。これより合流します」
『ノースマジシャンよりSA1。ありがてえ! このドラゴン、二人の攻撃食らって手負いのはずなのにまだ抵抗してくるくらいにはしぶといからな。てか、ウェストウィザードは大丈夫だったか?』
『少々魔力を消耗してますが無事ですよ、ノースマジシャン。これより加勢します』
『そいつぁ助かる。頼んだぜ』
『了解です』
『白河FHQよりDHDと交戦中の総員へ。一〇時方向よりCTの一群が接近。魔力波長はエンザリアCT。距離は一一〇〇〇。このままだと地上から攻撃されかねません』
「SA1より白河FHQ。了解。自分が対処する」
『白河FHQ了解。お願い致します』
「SA1よりノースマジシャン、ウェストウィザード。自分がエンザリアの対処にあたります。ウェストウィザード、西特大の隊員をお借りしてもよろしいですか?」
『ウェストウィザードよりSA1了解。許可します。ウェスタン3、部隊をまとめてSA1の援護を』
『ウェスタン3了解。これよりSA1の麾下に入ります』
「よろしく、ウェスタン3」
『任せてください。貴方は隊長の命の恩人ですから』
「感謝するウェスタン3。SA2、ウェストウィザードと行動を共にし、DHDの討伐を」
『了解したわSA1』
水帆は今川と同行し、孝弘は迫ってくるエンザリアCTを対処する為に北北西へと向かう。
エンザリアCTの数は二五とそう多くはないが、光線が最大二五本飛んでくることを考えると放置するにはあまりにも危険だった。
孝弘達は一定の距離を取りつエンザリアCTを捕捉する。
『ウェスタン3よりSA1へ。エンザリアの後方にCTの一群を確認。数は一個大隊程度。どうしますか?』
「DHDもいるからコイツらはとっとと潰したい。敵射程ギリギリを動きながら牽制を。その間にエンザリアはまとめて潰す。こいつを使うから、護衛に一人だけ残してくれ」
『了解。ウェスタン11を置きます』
「助かる」
孝弘が言うと、五人の隊員は早速牽制に向かっていった。
『ウェスタン11、これよりSA1の護衛に回ります』
「頼んだよ」
『了解しました。測距補助はしますか?』
「いや、いい。代わりに魔法障壁の最大展開を。コイツを使うとなるとロックオンから発射まで俺は無防備に近くなる。エンザリアCTの光線魔法を食らったらよろしくないからね」
『了解。周辺索敵もしますからご安心を』
「ありがとう。賢者の瞳、精密射撃モードへ移行」
『精密射撃モードへ移行します。最大公開位置、照準開始』
孝弘は試製三六式対物狙撃砲を構えるとロックオン作業に入る。
射撃管制システムが表示されている視線の先ではウェスタン3達が牽制法撃を始めていた。時折エンザリアCTから光線魔法が放たれるのが見える。ウェスタン3達はいずれも難なく回避していた。それだけでは無い。隙を狙ってエンザリアCT二体と後方から向かってくるCTの一群へも法撃を行っていた。
『目標位置、距離八〇〇〇』
「射程延長及び弾体加速に風属性魔法を付与」
『風属性付与開始。終了。精密射撃計測中。射撃姿勢制御、反動制御をフェアルと同期。半自動姿勢制御モードへ移行。ロックオン完了まで八秒』
孝弘は呼吸を整えていく。徐々に周りの音が無音になっていく。
『警告。エンザリアCT法撃用意。射程範囲内。発射まで九秒』
「一歩遅かったな。もう発射だ」
孝弘が無表情で言った瞬間、試製三六式の砲口から三〇ミリの砲弾は放たれた。彼が魔法弾薬に込めたのは火属性爆発系。面制圧に適した魔法だった。
必中の砲弾はロックオン先へ寸分違わずに命中。全てのCTを巻き込んで大爆発を引き起こした。その直後、エンザリアCTのさらに後方から進んできていたCTに対してもウェスタン3達が統制法撃を実施。一気に数を減らしていく。
『目標殲滅』
「よし、これで脅威は去った。DHDの方に向か、あれは必要無さそうだね」
『ええ。今川大佐と高崎中佐の二連結型上級複合属性魔法ですね。二つ首と言えど、手負いなら耐えられないでしょう』
孝弘が目線を向けた時には、水帆と今川が二人協同で法撃を放とうとしていた。どうやら蓼科達がじわじわとダメージを与えつつ、DHDが決定的な隙を作り出すようにしていたらしい。孝弘が見たのはちょうどその瞬間だった。
賢者の瞳に表示されていたのは、雷属性と風属性の複合属性魔法。クラスは上級だが、Sランクの二人が短縮詠唱ではなく通常詠唱で発動したのだから威力は準戦術級に近いものだろう。
法撃が猛速で発射されてすぐ、鋭い一閃は二つ首の背中を貫通した。
孝弘達のいた位置からも二つ首の壮絶な断末魔が耳に入った。怪獣モドキ、二つの頭を持つドラゴンは息絶え、地上に墜ちていく。
今川はそれを確認すると、司令部にこう通信を送った。
『DHD、討伐完了』
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