第10章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編Ⅰ
第1話 第一〇一魔法旅団戦闘団、結集
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2037年1月5日
午前10時過ぎ
兵庫県伊丹市・日本軍統合司令本部本部棟
大会議室
年が変わり二〇三七年一月五日。
元旦を終えて数日が経過し、日本軍は来たる北関東・南東北方面の奪還に向けた準備が大きく動き始めていた。
奪還作戦に動員される各師団は勝利を掴むために訓練を繰り返し、後方支援部隊は前線部隊が十全に戦えるようにする為、物資弾薬の補給計画を組みたてていく。参謀本部は少しでも早く、少しでも戦死傷者を減らせるよう、立案・決定された作戦に粗がないか最終確認作業に追われていた。
その中で、璃佳が新たに率いる第一〇一魔法旅団戦闘団の面々は幹部連が集まって顔合わせを兼ねた会議を始めようとしていた。
孝弘は璃佳と熊川、蓼科と同時に会議室に入室。会議は始まった。今回は幹部連の集まりで、孝弘は特務連隊内に新設される特務小隊の隊長として参加するから水帆達はいなかった。先んじて特務小隊の面々と挨拶を兼ねたミーティングをしているからだ。
会議は定刻で始まった。孝弘は既に何人かと挨拶は済ませているが、旅団戦闘団になっただけあって知らない顔が増えたなあと感じていた。
「さて、各大隊長クラスも全員集まっているようだし、会議を始めようか。でもその前に、年明けに集まったばかりで軽い挨拶しかしてない人も多いだろうから、改めて自己紹介から。私と熊川、蓼科大佐は省略ね。大体挨拶に来てくれたし、各部隊大隊長からよろしく。米原中佐は最後で」
「はっ。了解致しました」
「んじゃ、ウチの特務連隊からよろしく」
璃佳が自身の部下達の方を向いて言うと、最初に自己紹介をしたのは川崎中佐で、その後に高富中佐が、最後に長浜中佐がそれぞれ階級や簡単なプロフィールを話していった。
「うし。特務が終わったから次は俺ら北特団だな。第一、第二、第三の順で頼むわ。本部中隊付戦闘支援中隊は俺の管轄だから今回は省略だ。中隊長は中隊長連の集まりに行ってるしな」
東京奪還作戦の最終段階において大きな活躍をしたことで階級が一つ上がった蓼科がざっくばらんな口調で部下達に言うと、まずは第一大隊大隊長が起立した。
「北特団第一大隊大隊長、
川越明宏、三二歳。魔法軍北方特務戦闘団第一大隊大隊長。一八〇センチと背が高く、適度に鍛えられ洗練された体格を持つ男性だ。頭髪はやや長め。声質はやや低く、頼もしい雰囲気を感じる。フェアルを用いた戦闘の腕前は高富とほぼ同じ位だから最精鋭といえる。
第一大隊の主任務はフェアルを使用した上空からの攻撃と地上支援に航空偵察と、時には戦闘団の目となる役目を持つ。彼が言うように特務連隊の第二大隊と役割が似ているが、特務の第二と違う点は冬季における戦闘でも他の季節とほぼ同じ能力を発揮出来る所にある。
一般的に冬季のそれも悪天候となればフェアル部隊は飛行に大きな制約を受けることになる。視界が大幅に悪化するからだ。しかしこの大隊は例外といっていい。冬季における飛行訓練を常に欠かさず行ってきており、冬の期間に限定すれば飛行時間数は全国一である。特務の第二も冬季飛行訓練を一般のフェアル部隊に比べてかなり多く実施しているが、それでも北特団の第一には及ばない。特務第二の高富ですら「冬季悪天候における飛行戦闘訓練では北特団の第一には敵わない。再編成を経ていてもその優位性は変わらないだろう」と言わせるくらいなのだから、その実力は折り紙付きと言えるだろう。
「次は第二大隊大隊長だ」
「北特団第二大隊大隊長、
松坂紬、二九歳。魔法軍北方特務戦闘団第二大隊大隊長。日本人女性の平均身長よりかなり高い一七五センチで、スレンダーな体格であるからファッションモデルとして雑誌に掲載されていてもおかしくない女性だ。声質も凛としており璃佳程ではないが長い黒髪も相まってクールな印象を持たれるが、戦闘になると豹変するとは大隊内の部下の評判である。超大型CTに対して「異形は異形らしく爆散しろ」と口角を歪に曲げて本当に爆散させたり、「跪け、木偶の坊」と言い放って大型CTの左脚を吹き飛ばしたりと伝説には事欠かさないらしい。
閑話休題。
第二大隊の主任務は砲兵隊のそれに近い。高機動戦闘はそこまで得意ではない――とはいうものの、一般的な魔法部隊に対して優位に立てるくらいの実力はある――が、彼女らが真価を発揮するのは郊外地における野戦である。第二大隊には面制圧系の魔法を得意とする隊員が多く配置されており、中隊統制法撃は大隊規模のCTをほぼ殲滅させるなど圧巻の一言に尽きる。また、重火力を活かして超大型CTを難なく撃破するなど、北特団が北海道で壊滅的や被害を受けずに済んだのは第二の活躍あってこそと言えるだろう。
「最後に第三だ」
「ども……、北特団第三大隊大隊長の
高松裕夢、二八歳。魔法軍北方特務戦闘団第三大隊大隊長。男性としてはやや小柄の一六五センチで、少し細身と感じる体格の男性だ。寡黙というよりかはぼんやりとした雰囲気で、第一印象だけ見ればちょっと暗い人という感想を人々は抱くだろう。現に今もぼーっとしている様子である。
だがしかし、侮ることなかれ。いざ戦闘になれば彼は頼もしい部隊長として活躍する。第三大隊の役割は敵部隊を寸断、撹拌して各個撃破する遊撃戦。奇襲にも長けており、夜間戦闘を何度も成功させているくらいだ。
第三大隊はその任務の性質上、最も危険を伴う。よって戦死傷率も高くなりがちなのだが、この第三大隊の戦死傷率は一般的な部隊よりも大幅に低いのだ。それは大隊員が優秀でもあるからなのだが、その大隊員達が口を揃えて言うのだ。「高松中佐の判断は常に的確で、大隊指揮能力が高いおかげだから」と。
大隊クラスにおける戦闘指揮能力はウチの部下達よりも高い。第一特務に引き抜きたいくらいにね。とは璃佳の評価である。
見た目と平時にあった印象と戦闘時における印象がガラリと変わるのが彼と言えるだろう。
「とまあ、ウチはこんな感じだな」
「北特団の大隊長、自己紹介ありがと。んじゃ、次は後方支援大隊の大隊長だね」
璃佳が後方支援大隊大隊長の方を向いてそう言うと、指名された彼女は立ち上がった。
「この度は第一〇一魔法旅団戦闘団の後方支援大隊大隊長を承りました、
糸貫紗英、三三歳。日本人女性の平均くらいの身長で、体型は璃佳が羨ましく思うくらいの双丘の持ち主だ。それでウエストは引き締まっているのだから、璃佳が「同じもん食ってああだもんなあ……」と嘆いていた。らしい。
おっとりとした印象を人々に持たせる性格で、マイペースでもある。
軍歴は後方参謀として中々に華々しい。開戦前の世界において日本軍は多国籍軍として紛争地帯などに海外遠征部隊を派遣していたのだが、彼女は直近七年のうち三度派遣部隊として同行していたからだ。日本軍の海外派遣は七年間で四度あったから、その殆どに参加しているといっていい。さらに彼女は派遣部隊で後方参謀として優秀な力を発揮しており、多国籍軍として共に行動していた他国軍からは調整能力の高さと物資補給をほぼ理想的な形で果たしてみせたこともあって、高評価を受けている。それらは上官が「貴官のやりたいようにやってみよ」といった方針があったからこそ実行可能だったのだが、その上官が「優秀な者に任せ、責任を負うのが自分の役目」と彼女を評価していたのだから、能力は本物であるといえるだろう。
なお、彼女を旅団戦闘団後方支援大隊大隊長に推薦したのは魔法軍参謀本部参謀長である。
「次に魔法工兵大隊大隊長よろしくー」
「はっ」
最後に起立したのはこの中で最年長の男性だった。
「第一〇一魔法旅団戦闘団魔法工兵大隊大隊長となりました、
土岐誠志、三九歳。大柄でがっしりとした体格の男性で、キャリアも長い上に前の経歴が教官であることから頼もしく感じる印象を皆が受けていた。
工兵部隊は歩兵・砲兵・戦車部隊のように実際に戦闘へ携わることは少ない――ただし戦闘工兵の場合は別である――土木・建設部隊であるが、諸兵科連合において要となる部隊でもある。その任は多岐に渡り敵陣地の破壊、野戦築城、道路建設、爆破工作、地雷原敷設、架橋兵站整備など様々だ。その中でも魔法工兵は少々特殊で、土属性魔法を用いて上記の任務(非魔法系で可能な任務を除く)を実行する。
第一〇一魔法旅団戦闘団は独立部隊として戦闘に参加するから魔法工兵大隊を伴うことになったのだが、その大隊長の任命は魔法旅団戦闘団編成の中でも苦労したと言われている。
何せ工兵部隊はその任務の性質上各分野のプロフェッショナルが多く、大隊長を務められる人材は多くなかったからだ。
そこで白羽の矢が立ったのが彼である。
軍歴は約一七年と長く、数多くの演習から二度の海外派遣と実戦経験もある。さらに前歴が、専門性が高く指導能力が高い者でないと勤まらない工兵学校の教官も経験しており、その前の経歴が工兵大隊大隊長と実務経験も申し分ない。本来ならばあと一年程度は教官を続ける予定だったが今は戦時。各種軍学校から少数とはいえ実戦経験に長けた教官陣が実戦部隊に転属されている現状であるから、彼が魔法工兵大隊長となったのだ。
「最後に米原中佐、自己紹介よろしく」
「はっ。第一〇一魔法旅団戦闘団旅団長次席副官及び旅団戦闘団本部中隊付特務小隊小隊長となりました、米原孝弘です。階級は先日中佐になりました。少数部隊による特殊任務を行う小隊長ですが、基本は旅団長次席副官であると思って頂いて構いません。能力者ランクはS。魔法銃器を用いた高速度機動戦を得意とします。皆さん、これからよろしくお願いします」
孝弘が自己紹介を終えると、特務連隊の大隊長達以外は視線を彼に集中させる。
孝弘の存在は機密事項で経歴が隠されているが、今回の旅団戦闘団編成に伴い大隊長クラスまでは孝弘達四人の事は知らされている。璃佳がスカウトした四人である事もここにいる者達は既知であったが、見た目だけは普通だなと感じていた。
だが、彼等は第一〇一の一員として集められた精鋭だ。ここ数ヶ月の孝弘の戦闘記録で彼が只者では無いことはもちろん、人物面としても悪くは無いと判断していた。中澤大将のお墨付きという箔もあるが、帰還前六年間の実戦経験からして、自分達よりずっと多くの死線を潜り抜けてきた猛者だと理解したからだ。
人となりについてはこれから行動を共にして判断すれば良いとして、孝弘達四人の彼等からの評価は、現時点としては良い方であるといえるだろう。
璃佳は孝弘が座ってから、話題を切り替える。顔合わせと挨拶はあくまで導入。ここからが本題だ。
「さて、自己紹介も終わったしそろそろ作戦について説明を始めよっか。それじゃ、賢者の瞳に送った資料を開いてもらえるかな」
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