第2話 新宿攻防戦(上)

 ・・2・・

 12月5日

 午前6時過ぎ

 東京都新宿区西新宿超高層ビル群近郊・戦線最前面



『陸軍第一三戦車大隊、魔法軍第六〇一、六〇二大隊と共に原宿明治神宮方面に到達。陸軍一個連隊と共同で戦闘中。CTの数は大幅に減少するも、都心部方面より神聖帝国軍と思われる部隊一個連隊と接敵!』


『こちら陸軍第二二連隊。高田馬場、目白方面でも少数のCTと共に神聖帝国軍と接敵! 神聖帝国軍の数、三個大隊相当! CTの数、推定一個連隊規模! 海兵隊第一二二大隊及び魔法軍第七〇二大隊と共に交戦中! 後続部隊の速やかな支援を求む!』


『立川HQより陸軍第一三戦車大隊へ。現在原宿・渋谷方面に後続として陸軍一個連隊が間もなく到着。さらに戦車一個中隊合流予定。攻撃ヘリ部隊の支援は継続する。何としてでも原宿方面を確保せよ』


『一三戦車大隊より立川HQ了解。支援感謝する』


『立川HQより陸軍第二二連隊へ。都心外縁部展開のCTは、九十九里上陸の成果が出始めたのか、叩き潰し続けたからか減少しつつある。CTへの対処は外縁部担当部隊が目下火力投射を継続中。高田馬場及び目白方面に追加で陸軍一個連隊が間もなく到着。魔法軍も追加一個大隊を派遣する。高田馬場及び目白を押さえ、池袋を制圧せよ』


『陸軍第二二連隊より立川HQ、了解。部隊は間もなく高田馬場に到達する。臨時拠点構築後、速やかに池袋方面を攻略する』


『陸軍第三一戦車大隊より立川HQ。現在陸軍第一一連隊、海兵隊第二一連隊、魔法軍第一特務連隊と共に西新宿近郊まで到達。少数のCTを早々に討伐し、現在大型CTとも交戦。間もなく討伐完了。ただし、新宿東部より神聖帝国軍約二個連隊規模の反応をキャッチ。このまま新宿駅周辺部を制圧する』


『立川HQより第三一戦車大隊。了解。当該地区を第一特務第二大隊の上空支援のもとそのまま制圧せよ』


『第三一戦車大隊より立川HQ、了解。ただし思ったより砲弾薬の消費が激しい。補給の確保を求む』


『立川HQより第三一戦車大隊へ。了解。補給線は物資弾薬を安定して供給出来る体制にある。心置き無く叩き込め』


『第三一戦車大隊より立川HQへ。了解。その言葉を聞けて安心した。各軍と共に交戦を継続する。オーバー』


 一二月五日午前四時半。

 攻勢前準備砲撃を終えた日本軍都心攻略部隊は、遂に都心への進撃を開始した。

 絶え間なく各所から聞こえる榴弾砲、迫撃砲、野戦砲、戦車砲の音はたくましくまた頼もしい。CTと神聖帝国軍に対する激烈な攻撃の証だった。

 突入した各所から響く銃声や法撃音もまた、都心奪還にかける将兵の意気込みが現れており、それは目白から渋谷にかけて各部隊が早くも山手線沿線ラインにまで到達していた事にも現れており、東京西部方面軍約二五〇〇〇は、着実に都心に進出していたのである。

 その中で孝弘達は、西新宿の超高層ビル群付近にいたCTを撃滅したものの、新たな敵と交戦しようとしていた。


 ・・Φ・・

第一特務通信室1st.CRより連隊各員へ。西新宿に配備の敵マジックジャミング装置破壊を確認。ジャミング解消地域のレーダーを更新。新宿御苑ならびに信濃町方面までの視界が開けました。即時索敵開始……。新宿駅・新宿御苑方面より神聖帝国軍の前進を確認。魔法兵と歩兵を中心とする二個連隊相当。距離約八五〇』


『セブンスから第一特務通信室。情報更新ご苦労。――連隊各員へ通達。これより我々は新宿を奪還・制圧し、物資弾薬の補給を行った後に速やかに作戦第二段階へ移行する。本部中隊ならびに第一大隊、陣形変更。機甲部隊及び随伴部隊の盾となり、前方に展開。第二大隊、待機地点から新宿を空襲。第三大隊、新宿・原宿方面の各部隊のカバー。――作戦開始!! 吶喊ッッ!!』


 璃佳――隣には本作戦の為、茜もいた――をはじめとし、孝弘達も身体強化魔法で加速を始めた。全員が詠唱準備だけをしておき、すぐに法撃を放てるようにしていく。もちろん、魔法障壁は最大展開だ。


「七条大佐、思ったより神聖帝国軍の数が少ないですね」


「確かにね、熊川少佐。連中の思考なんざ読めないけど、九十九里のが上手くいってるお陰で慌ててると思っておこう」


「ですね。――先行する第一大隊、間もなく新宿駅突入。敵と彼我の距離、約三五〇。…………! 前方より高出力魔力反応!」


「茜! 米原少佐!」


「んむ! 任せい! ――遠隔式・多重鏡面反射!」


「了解! 大輝は魔法障壁のカバー! 水帆、知花! 法撃始め!」


「おうともよ! 魔法障壁、第一大隊に展開!」


「おっけー! ――『豪炎爆槍フレイムエクス・スピア百重射出ヘクタ・インジェクション』!」


「分かった! ――『破錠光槍ブレイキング・ライトアロー』、四十重射出テトラコンタ・インジェクション!!」


 敵から法撃の予兆が現れた時点で第一特務連隊はすぐさま反撃に打って出た。

 まず第一大隊を守る為に茜が多重鏡面反射を、続けて作戦第二段階に備えて魔力温存中の大輝が魔法障壁を展開。この時第一大隊はやや散開して対応していた。

 さらに敵の法撃が放たれる前に水帆と知花の法撃が火を噴く。計一四〇の炎と光の槍は魔法陣から放たれ、それらは神聖帝国軍二個連隊の内、前面に展開していた一個大隊を襲う。

 魔法障壁を容易く破壊した二人の法撃は多数の神聖帝国軍兵に着弾。大爆発が起きる。


「今だ! 中隊単位法撃、放てェ!」


 やや散開していた第一大隊の法撃は二人の攻撃直後に放たれた。既に魔法障壁が破壊された前方の大隊ではなく、その後方に次々と命中していく。


『1st.CRより報告。敵一個大隊の潰滅を確認。さらに一個大隊が半壊。ただし、一個連隊二個大隊は未だ健在』


「第二大隊、上空攻撃開始!」


『三一戦車大隊、攻撃開始!』


『第一一連隊展開! 射撃開始!』


『海兵二一連隊、展開! 各自攻撃を開始せよ! 侵略者共を捻りつぶせ!』


 璃佳が第二大隊へ命令を下したのと同時に、同行していた陸軍戦車大隊と第一一連隊、海兵隊第二一連隊も攻撃を開始した。


『警告。敵部隊各所から法撃反応。攻撃予兆あり。即時反撃に移ると思われます』


「東京を占領しやがってる連中だからちったぁ骨があるみたいだね。応戦しろ!」


 しかし、神聖帝国軍とて全くの無防備かつ無反撃という訳では無かった。あの初撃を受けても部隊が崩れることは無かったのだ。


『小隊単位で法撃準備複数有り! 放たれました!』


『敵法撃被命中!』


『ダメージレポート!』


『第一中隊一部で魔法障壁を破壊され軽傷六!』


『第二中隊同じく! 軽傷四! 継戦に問題無し!』


『第三中隊問題無し!』


『第四中隊同じく!』


『了解! 魔法障壁展開のカバーで耐えろ! 相手以上の法撃火力をぶち込んで永遠に黙らせてやれ!』


『了解!』


 最前面で戦う第一大隊の損害はごくわずかではあるものの、一撃で何人かの魔法障壁を全破壊したとの報告に、第一大隊大隊長の川崎は内心敵の実力を認めていた。だが、今のところ自分達の方が数で上回り練度でも優れていると判断し、敵を圧殺しにかかる勢いで法撃と魔法銃での銃撃を叩き込んでいく。


(ウチの第一でこうなるってことは、道理で世界の中じゃこいつらに後退を余儀なくされるわけだ。たまたま敵部隊があの中でも優れていたとしても、中々の連中じゃない。おそらく本国軍だね。)


 各大隊の様子を見守りつつ自身も法撃で支援する璃佳も、相対している神聖帝国軍の部隊を弱兵ではないと評価する。


(二人の法撃で一個大隊が潰滅したのにすぐに後方展開の部隊がカバー。陸海兵隊魔法軍の火力投射で削られつつも応戦してくる。大した気概だな。今までの属国軍とは訳が違う。)


 孝弘は水帆や知花の支援に回りつつ、神聖帝国軍に対してよく分析をしていた。少なくとも今までとは違うと判断しているのは川崎や璃佳と同じである。

 だが、三人共通の見解があった。


(だがそれまで。倒せない相手ではないし、友軍の火力優勢の今なら余裕で潰せる。)


 戦況はまさにその通りに進んでいった。

 そもそも陸海兵隊で合わせて二個連隊と戦車一個大隊がいる時点で、魔法兵が多いとはいえ前時代的装備の神聖帝国軍二個連隊では火力面からして不利である。防御面こそ魔法兵がいることで多少の火力は防げるが、日本軍の兵力はそれだけでは無い。

 やはりというべきか、第一特務連隊の存在は大きかった。地上から第一大隊が、上空から第三大隊が襲いかかる三次元的攻撃に、ドラゴンは別としても現時点では二次元的な戦法を取る神聖帝国軍が対抗するのは極めて難しい。おまけに練度としても第一特務連隊が大きく上回っているのだから尚更優勢となり、結局、神聖帝国軍二個連隊は圧倒的な火力を前に為す術なくすり潰されていった。


『1st.CRより各員へ敵二個連隊の潰滅を確認。都心外縁部のCTも友軍各部隊が順調に対処中。…………訂正。情報を更新します』


 魔法の面を除き兵器の質に劣る神聖帝国軍だが、東京都心の新宿という拠点において二個連隊で終わりなわけが無かった。


『新たに三個連隊を信濃町方面から捕捉。距離約九〇〇』


 どうやら神聖帝国軍は、新宿を易々と渡してくれるわけではないようだった。

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