第10話 藤沢ドラゴンズバトル

 ・・10・・

『バンディット1から12、速度約八〇〇にてなおも西進。茅ヶ崎空域到達まで一〇〇秒。追加で出現の13から18は到達まで一六〇秒』


『静岡空港待機の無人攻撃機部隊緊急発進準備中。二分後緊急発進。到着まで約一二分』


『敵戦力強度不明の為、既存航空戦力以外に海軍へ支援要請完了。現在艦載機部隊が緊急発進準備。海軍艦艇よりミサイル攻撃も同時に行われる模様。上空要員各位は味方の攻撃にも注意せよ』


『海軍艦載機部隊三機の到着まで約三〇〇秒』


『国立方面にもバンディットは西進中。数は三〇。横田無人攻撃機部隊緊急発進準備中。現地魔法軍部隊がスクランブル発進』


『松本空軍部隊三機、スクランブル発進』


 突如として現れた、異世界の産物。空翔けるバケモノの象徴たるドラゴン。

 地球世界では有り得ない生物が襲来する緊急事態に対して日本軍各部隊は速やかに対処行動を開始していた。

 今川率いる西方特殊作戦大隊もスクランブル要員等がフェアルを用いて離陸。ドラゴン襲来と同時に地上のCTも動きを見せていた為、これに対処をしながらも空の化け物に備えていた。


「滝山大尉、ウチの部隊はどれだけ上がりましたか!」


『スクランブル要員含めて五〇です! 四個小隊に分割して上空待機完了!』


「上出来です! これに呼応してか地上のバケモノ共も動きがありました。あまり空には避けません。一旦この人数で対応しますよ! 敵の距離約一〇〇〇〇まで引き付けて、小隊単位で法撃斉射。属性は風で!」


『了解!』


 フェアル攻撃部隊の各員は今川の命令に従い小隊単位に部隊を整え、法撃準備を始める。

 レーダーに映し出されたドラゴンは一直線でこちらに向かってくる。まずは前段の一二。距離は一三五〇〇とまだ遠いが高速度だからかあっという間に彼我の距離は近づいてくる。

 一一〇〇〇。一〇五〇〇。

 そして、一〇〇〇〇。


「各小隊、統制斉射!!」


 準備詠唱を終えた四個の小隊はドラゴンに向けてロックオンをし、射程延伸式の風属性中級魔法を放つ。

 放たれた魔法の刃はドラゴンに接触。数本の風刃が命中したドラゴンは翼を切断されたり脚を切り落とされたりし、悲鳴を上げて墜落していった。しかし二、三程度の風刃しか受けていないドラゴンはダメージが入って叫び声を上げるものの撃墜には至らず、速度が下がる程度であった。


『撃墜四! 残存八!』


「冗談キツイですね。大型CTですら軽く切断する風魔法で攻撃してコレですか。各隊、分隊単位に隊形変更! 分散し、空戦準備!」


『了解!』


 邀撃(ようげき)に上がりまずは四体のドラゴンを屠った西特大の五〇人は法撃を終えると、部隊を分隊単位に変更して散開。

 直後、賢者の瞳のレーダーから警告音が鳴り響く。


『警告。敵生体より魔力反応』


 距離約七〇〇〇まで近付いてきた時点でドラゴンから魔力反応が生じる。明らかな法撃兆候だった。


「回避行動! 追尾式の可能性も踏まえて迎撃も用意!」


 今川は自身も回避行動に移りながら命令を出す。既に日没から約一時間が経過し、宵闇に包まれている。その中でも、ドラゴンの口部から明るい火の光のようなものが見えていた。


『警告。法撃発射。数、八。非追尾式火属性魔法』


(良かった。追尾式ではないですね。ただ、追尾式を放ってこない保証は、どこにもないっ!)


 今川は速度を上げながら自分に向けられていた難なく火球を回避する。

 がしかし、ただの火球では無かった。数百メートル後方で爆ぜたのだ。


(爆発系?! ち、厄介ですね!)


『分析完了。法撃は中級から上級クラス』


「ドラゴンの法撃は爆発系中級から上級の火属性! 総員要警戒!」


『了解!』


 ドラゴンの法撃が爆発系だということが判明し、隊員達の間でもより一層警戒が強まる。

 距離約三〇〇〇。夜闇の中でもドラゴンの姿が明らかになってきた。

 今川達は高度を上げて対処に入る。

 再びドラゴンは法撃態勢に移る。レーダーから法撃の警戒音が響き、今川達は再度回避行動へ。

 八つの火球が空を飛ぶが、これらを全て回避。今川達とドラゴンはすれ違う形となる。


(そこそこに大きい……。全長は約一五、いや、二〇メートル程ですか。戦闘機並の大きさですね。が、先制攻撃でこちらの法撃が通用するのは判明しています。なら!)


 全長約二〇メートルはドラゴンの名に相応しい巨体であるが、今川達は物怖じしない。

 すれ違った直後、法撃準備に移っていた何人かと今川はドラゴンをロックオンした。


「――『風刃ウィンドリッパー一六重射出ヘキサデカインジェクション』!」


 今川は二体のドラゴンに向けて、風属性魔法の刃を一六本放つ。さらに数人の隊員が同様に風属性魔法を発動。法撃を行った。


『バンディット4、7。撃墜。続けてバンディット5撃墜。残存5』


 半数の法撃はドラゴンの回避によって命中しなかったものの、三体のドラゴンを討伐する事が出来た。残りは五体。半数以上のドラゴンを屠る大戦果だが、安心は出来なかった。


『警告。後段六体、現空域へ接近中。距離約九〇〇〇。続けて警告。横浜方面より新たに五体の飛行隊が出現。当該をバンディット19から23に登録。現空域到達まで約一六〇秒』


「第三波ですか。総員、このままだと一六体もの相手をすることになり空が狭くなります。火力を上げますよ!」


『応っっ!!』


 西特大の隊員達は戦闘を続けながら意気の良い返答をする。

 数は増えたが、勝てる。今川は確信していた。

 後段のドラゴン六体が空域に到達するも、彼等は空の化け物を一体、また一体と減らしていく。これまで空を飛ぶ敵がいなかったからと出番がほとんど無かった対空砲・対空ミサイル車両は、西特大フェアル部隊の法撃で速度が落ち手負いになっていた撃ち漏らしのドラゴンを蜂の巣にするかミサイルで肉塊へと変えていく。


『無人攻撃機部隊だって負けちゃいませんよ! サウスリーパー3、フォックス2!』


『バンディット17撃墜。残存五。警告、第三波現空域到達。残存一〇』


『しゃおらぁ!!』


『警告。サウスリーパー3にバンディット16が接近』


『クソッタレ! 静岡のと違って、この機体じゃ速度は負けるんだよ! 回避する!』


『ここは俺に任せな! 『風槍ウィンドスピア四重射出テトラインジェクション』!』


『バンディット16、重傷判定。速度、大幅に低下!』


『西特大の! 助かった!』


『手負いは任せな! 地上から蜂の巣にしてやらぁぁ!!』


 西特大のフェアル部隊、無人攻撃機部隊、地上対空部隊の連携でさらに一体を討伐していく。数は残り九体まで減っていた。

 だが、今川は全く安心していなかった。


(ドラゴンの機動力が思ったより高い……! 速度の遅いミサイルなら避けるあたり、かなり知能も高いと来ると、厄介ですね……)


 というのも、ここまでの空戦でドラゴンの爆発火球の衝撃波を受けて被撃墜された部下が三人もいる。いずれも生命反応があって生きているが、重傷に近い状態だった。

 無人攻撃機も相応の損害は受けている。今戦闘を行っているのは静岡空港から向かっているターボファンジェットエンジン方式の無人攻撃機ではなく、ターボプロップエンジン方式の無人攻撃機だ。速度で太刀打ちは出来ず、一度追われればひとたまりもない。一二機ある無人攻撃機は七機まで減っていた。

 これ以上の損害は避けたい。しかしドラゴンが手加減してくれるはずもなく、むしろこの短時間で空を飛ぶ人間は自分よりも格上と意識してか火力を上げて襲いかかってきている。


(戦術級魔法を使いたいですが、発動までが長くて使う暇もない。ドラゴンの時速が約八〇〇程度で、西特大フェアル部隊の水準である最大時速の一〇〇〇に近い戦闘を強いられている。魔力の消耗も激しいですし地上も気がかりですから、早々にケリをつけなくては……)


 今川は自身はともかく、フェアルの性質上最大速度近くだと魔力消費が激しいことから隊員の残存魔力も気にしながら戦っていた。

 そんな時だった。彼女達が待ち望んでいた援軍が現れた。


『こちら第一機動艦隊艦載機部隊、エリアス1。現空域各隊へ、同士討ちを防ぐ為回避されたし』


『同じくエリアス2、お待たせしました!』


『エリアス3。これより攻撃を開始する』


 南の太平洋上空から凄まじい速度で翔けてきたのは第一機動艦隊の艦載機部隊が三機。国産戦闘機のFー3Bだった。


「ウェストウィザードよりエリアス1。了解。待ってたよ!」


『エリアス1よりウェストウィザード。大風塵の魔術師ですね。ドラゴン退治はお任せ下さい』


「任せた!」


『イルージョン1よりウェストウィザード。静岡空港より三機参上! 我々もドラゴン退治させてもらいますよ!』


 続けて現れたのは無人攻撃機AQ-2。時速約九〇〇キロで戦闘可能な無人攻撃機だ。

 西からは無人ジェット攻撃機、南からは国産新鋭戦闘機。計六機が加わったのだ。

 今川達はドラゴンを牽制しつつ、戦闘機部隊の妨げにならないよう乱戦になっていた形を整えてドラゴンから距離を取っていく。

 それを確認した戦闘機部隊は速やかに攻撃を開始した。


『エリアス1、フォックス2』


『エリアス2、フォックス2!』


『エリアス3、フォックス2。くたばれクソトカゲ』


『イルージョン1、フォックス2!』


『イルージョン2、フォックス2』


『イルージョン3、フォックス2。ぶっ飛べ!』


 戦闘機と無人攻撃機六機はそれぞれ一体ずつロックオンをすると、ミサイルを発射。搭載されているミサイルはいずれも高速度でドラゴンを撃墜するには容易い速さと破壊力を持っている。

 ロックオンされ、放たれたら最期。六発のミサイルはドラゴンにめがけて猛速で接近。狙った六体全てを撃墜してみせた。

 その様子に地上から、そして西特大の面々から大歓声が上がる。

 残る三体のドラゴンは突然の見えない場所からの攻撃に仲間が討たれ戸惑うが、反撃態勢を取る暇すら与えられなかった。

 さらに三発、ミサイルは猛烈な速度で接近。科学の槍は空の化け物を見事に屠ったのである。


『バンディット全滅を確認。空域クリア。増援、現時点で確認せず』


 賢者の瞳は全てのドラゴンを討伐したことを知らせる。すると、再び地上と空から歓声が上がった。


「エリアス、イルージョン。援軍感謝します」


『エリアス1よりウェストウィザード。なあに、これも仕事ですから』


『イルージョン1よりウェストウィザード。間に合って良かったです。これより地上CTへの攻撃も開始します』


「ウェストウィザードのりイルージョン1へ。了解。我々も地上CTへの攻撃を始めます。――総員、魔力残存には気をつけつつ今度は地上への攻撃を始めますよ! バケモノ共に、魔法と火薬のプレゼントを!」


『了解ッッ!!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る