第154話 ヨコの姉だけにヌけとるの
「来ないだな……、次の選手」
動けない『デストロイヤー』を救護係が数人がかりで何とか運び出した後、ヨコヅナは当然連戦希望なので金網闘技台の中いるのだが、待っても次の選手が現れない。
「もう選手がいないってこと?」
「いや選手はたくさんいるよ……ボーヤとの試合を受ける度胸のある選手がいないってだけでね」
現在裏闘の進行係が走り回って、高い戦績の選手にヨコヅナとの試合を交渉しているのだが、『デストロイヤー』すら地に沈めた相手との戦いに挑める度胸のある者がいなかっのだ。
「さっきの人が、Bランクで一番強い選手だったべか?」
「いや、『デストロイヤー』より強いのは一人いるよ」
『デストロイヤー』の戦績は14勝1敗(今は2敗だが)、つまり『デストロイヤー』を地に沈めた選手はもう一人いると言う事だ。さらにその選手は『拳人』や『トンファー』にも勝ち星を上げている。
「戦績9勝0敗、現Bランクで最強と言われてる選手がね」
「今日その選手は会場に来てないだか?」
選手登録しているからと言って、毎回裏闘の試合に参戦しなくてはいけないわけではない為、今日は会場にその選手がいないという可能性は十分あるわけだが、
「いいや、来てるよ」
「じゃあ何でその選手は闘技台に来ないだ?」
「そんなの簡単よ。ヨコの強さにビビって出てこれないのよ」
「……間違ってはないだろうね。ビビってるのが選手本人ではないだろうけど…」
実際今も進行係が、ヨコヅナとその選手との試合を交渉しているのだが、相手が了承しないのだった。
「時間かかるんだべかな……」
「ボーヤ、水分補給するかい?」
「何か食べたいなら私買って来ようか?」
待たされる時間が長いので休憩気分になるデルファとオリア。
「いや、喉は渇いてないし、お腹も空いてないだ。ただ、折角温まってきたのに体が冷えそうだべ」
本来、休憩出来ないのが連戦のデメリットなのだが、ヨコヅナにしては間が開く方がデメリットになっている。
「…まるで今までの3戦が、準備運動みたいな言い方だねェ」
「普段の稽古の方がしんどいだよ」
「……ははは、そうかい」
「体が冷えないように、ここで稽古しても問題ないだべかな?」
「……まぁ良いじゃないかい、素振りぐらいは誰でもするしね」
「じゃあ、四股踏んでくるだ」
「バテない程度にしなきゃ駄目よ」
「分かってるだよ」
そう言ってヨコヅナは金網闘技台の中央に移動する。
『暇だなぁ~、次の『不倒』の相手はまだ決まらねぇのかよ』
「愚痴をわざわざ拡声器通して言うな」
『いいじゃねぇか、会場にいる観客の思いを代弁したんだよ!』
ビックマウスの言う通り、観客からもクレームが出始めている。
『……なら、お前が金網の中に入って『不倒』と戦ったらどうだ?』
ヘンゼンも合わせて拡声器を通して話す。
『何言ってんだよ!?瞬殺されて治療室直行に決まってじゃねぇか!』
『会場にいる選手の思いを代弁したんだ』
『オイオイ!俺は実況だぜ、一緒にすんなよ!』
『貴様も元選手だろ』
『俺なんて…、Cランクで泥仕合やってた雑魚だよ……』
驚きの新事実!と、言う程でもないが、ビックマウスも裏格闘試合の元選手だった。
だが、Bランクに上がる事も出来ず、強い奴と試合して大怪我するのも嫌だから、辞めようと思っていたところ、会場に張り出されていた、〔実況者募集〕の広告を見て応募して、現在の実況者という職に就いたのだった。
『Bランクの選手も一緒だ。自分の身が大事、負ける可能性の高い試合は断るのは当然だ』
『……でもよ、まだ一人いるだろ。『不倒』と戦うのを恐れない選手がよ』
『奴は今日のメインイベントだったからな。それに既に大きい組織の代表選手として雇用されている。ここで『不倒』と戦うメリットがない。と、雇用主が考えているのだろうな……ん?』
『なんだ?、やっと来たか?……』
『いや違うのだが……」
対戦相手が決まったのかと思ったビックマウスだが、金網の中は今だヨコヅナ一人だ。
ヘンゼンが注目したのはヨコヅナの行動だ。
金網闘技台の角から中央へ移動したヨコヅナは、
股を広げて腰下ろし、そして片足を高々と、足の裏が天に向くほど高々と上げ、強く床を踏む。
ドッォォン!!と会場が揺れたかと思う程の轟音。
そして、逆の足でも、ドッォォン!!
デルファ達に言った通りヨコヅナは四股を踏んでいるのだ。
『『「「「「「「………」」」」」」』』
「あれって、ヨコは簡単そうにやってるけど難しいんだよ」
「それぐらい見れば分かるよ……あれは何やってるんだい?」
「四股を踏むって言ったでしょ、スモウの基本稽古らしいよ。昔から毎日やってた」
「あれも毎日ねェ……」
『……何かよく分かんねぇけど、スゲェな…』
『……ああ、そうだな』
会場中のほとんどの者がヨコヅナの行為の意味が分からない、しかし 会場中の全員がヨコヅナの四股に目を惹きつけられる。
『でも、何やってんだ、アレ?……』
『……客の退屈しのぎにパフォーマンスをしてくれてるのではないか?』
『マジかよ……新人に気を遣わせてワリィなぁ』
『もしくは、「はやく次の選手を連れてこい」という『不倒』なりのクレーム行為か』
『
『まぁ冗談だ、俺も分からん。……時間がある内に、『不倒』のセコンドにでも聞いてきたらどうだ?』
『おっ!それはナイスアイディア!!オイ、誰か『不倒』の格闘技について色々聞いてこいよ』
「教えてくれるかは分からんがな……」
「と言う事で、教えて頂けますか?」
「何であんたが来るのよっ!」
ビックマウスの言葉を聞いて。オリア達のもとに来たのは受付係の男だった。
「私も『不倒』選手の格闘技に興味はありますので」
「嫌よ!誰があんたなんかに教えてやるもんですか!」
「そう仰らずに、お客様へのサービスは多い方がファンが増えますよ」
「ファンを増やしたいなんて思ってないわよ。あれも体を動かしてるだけ」
「ファンは大事にした方が良いですよ。裏闘も人気商売ですから…」
受付係はそう言って、デルファの方に目線を向ける。
「……オリア、格闘技の名前と今やってることのぐらい教えてやっても良いんじゃないかい」
「何か得でもあるの?」
「ファンが多い方が儲けが上がる……どんな商売でも一緒だよ」
「……私はそいつと会話したくない」
「なら、私が言う分には良いんだね」
「好きにすれば…」
ビックマウスの元にメモが渡される。
『お!きたぞ、何々……『不倒』が使う格闘技はスモウだってよ、んで、今やってるのが四股を踏むっていう基礎鍛錬だってよ。ヒャッハッハー!連戦中に稽古たぁ、何もかも桁違いのビックルーキーだぜぇ!!!』
『そうだな……しかし、セコンドから格闘技の名前を教えて貰えたのは意外だな…』
『あん?……ひょっとして知ってたのかヘンゼン』
『名前を聞いたことはあった』
『だったら言えよ!職務怠慢だぞ!』
『俺の知る限りスモウという格闘技の使い手は『不倒』だけなのでな、身元バレの可能性を考慮して黙っていたのだがな…』
『オォ~!!さっすがヘンゼン!!解説だけでなく気配りまで出来るたぁ、恐れ入ったぜ』
「解説がああ言ってるけど、オリアどうなんだい?」
デルファの質問は当然、スモウという格闘技名からヨコヅナの身元が露見するのか?という意味なのだが、その答えは聞くまでもなく、目を見開いているオリアの表情を見ただけで分かる。
「…なんで教えたのよデルファ!」
「好きにして良いと言ったじゃないか……ボーヤ以外にスモウの使い手はいないのかい?」
「……ヨコにスモウを教えたタメエモンさんの故郷には大勢いるらしいけど、その故郷自体誰も知らない遠い異国だから…」
「他にいないわけだね」
「あ、でも、今はヨコが他の人にスモウ教えてるらしいよ…」
「……あの解説が言いたいのは闘技大会の準優勝者の『ニーコ村の怪物』と『不倒』が繋がったという意味だと思うよ」
「……それだとヨコしかいないね」
オリアもデルファも知らないことではあるが、ヨコヅナは闘技大会で準優勝した事や『ニーコ村の怪物』という呼び名を進んで公言したことはないので、『不倒』=『ニーコ村の怪物』となっても、『不倒』=『ちゃんこ鍋屋の店主』または『不倒』=『清髪剤の製作者』とは簡単には繋がらない。
「まぁ、ここまで派手にやったら、知られようが知られまいが一緒だとは思うけどね」
ただ、その筋の者、情報を売り買いする者からすれば美味しいネタとは言えるだろう。
「ん?なんだろ…騒いでるね」
「……どうやらボーヤの行動を挑発と受けとったようだね」
金網闘技台へと向かおうとする選手らしき男とそれを止めようと高価な服を着た男が揉めていた
「あっ!殴った」
我慢の限界がきた選手は闘技台に向かうのを止めようする男を殴り飛ばす。
その選手らしき男は殴り倒した相手には目もくれず、金網闘技台に向かって走り出す
そして高い金網を飛び越え、ヨコヅナが待つ闘技台に舞い降りた。
『やっと来たぜぇ!! わざわざ金網を飛び越え、ド派手に登場したのはぁ!!、9勝無敗、Bランク最強の選手!その名はぁ~『閃光』!!!』
実況に『閃光』と紹介された男は、ヨコヅナに強い闘志の籠る視線を向る。
「次は俺が相手だ」
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