第151話 実況出来て良かったの


『それじゃ、第三試合『不倒』VS『デストロイヤー』スタートだぜ!!』


 試合開始の合図である銅鑼の音が、


 グオァ~ン!!


 と鳴らされた。


 開始早々ドスッドスッドスッと足音を立て、『デストロイヤー』がヨコヅナに向かって走り出す。


「俺様の圧殺タックルを喰らうでブー!」

「…何をするか言ってくれるとか親切だべな」


 肩を突き出しながらの『デストロイヤー』の体当たり。

 それに対してヨコヅナは、その場を動かず、


「っ!何やってんだいボーや!?」

「ちょっと!、ヨコ!?」


 身体を開いて正面から受ける。


『あ~っとぉ!!『デストロイヤー』の圧殺タックルが決まったぁ!!』

『開始時にタックルが当たるところを初めて見たな』


 毎回『デストロイヤー』は試合開始と同時にこの圧殺タックルをする。

 だが、見た目通り動きが遅く、それも技名を叫んだ時点で何をしてくるか相手に分かるので、今まで開始時にこの技を喰らった者はいない。

 だがそれは、喰らえば技名通り圧殺される為、必死に回避するからでもある。

 

「ブヒっ!?」


 とは言っても、の中にヨコヅナは含まれない。


『なんとっ!?圧殺タックルを喰らった『不倒』選手、微動だにしていないっ!!!』


 体重230の『デストロイヤー』の体当たりを喰らっても、ヨコヅナは圧殺されるどころか、微動だにしていない。

 確かに『デストロイヤー』は人にしては巨大だ。しかし、ニーコ村で巨大な熊や猪と狩っていたヨコヅナからすれば、


「大した衝撃じゃないだな」


 名前負けの見かけ倒しと言う他ない。


『……だが、これは『デストロイヤー』の望む展開だ』

『どういう意味だ?ヘンゼン』

『あの体当たりは、かわされることを前提の攻撃、目的は相手を捕まえる事にある』


 伊達に25戦もしていない『デストロイヤー』、毎回体当たりするのも、技名を叫ぶのも、かわしてカウンターをしてくる相手の逆に捕まえることを目的としているからだ。


『小柄な選手では、持ち上げられ闘技台の硬い床に叩きつけられたりする。『不倒』と言えど……』

『オ、オイ!ヘンゼン、見ろアレ!?』


 ビックマウスがヘンゼンの解説の遮る程の信じられない光景に、


「マジかよ!?」

「なんて怪力だ!?」


 会場中が驚きにどよめく。


『も、持ち上げたぁ!!!ヘンゼンの言った通りだぁ!』

『いや、逆なんだが……』


「ぶ、ぶひっ!?」

「思ったより軽いだな」


 体当たりを受け止めヨコヅナは『デストロイヤー』の腰に巻いたベルトを掴み、持ち上げたのである。

 そして、ズッドォーン!!と


『闘技台の硬い床に叩きつけたぁ!!!ヘンゼンの言った通りだぁ!!』

『だから、逆なんだが……』


 ヨコヅナは吊り落としで『デストロイヤー』を床に叩きつける。


『衝撃のあまり会場が揺れてるぜぁ!それにしてもさすがヘンゼン、未来を見通す解説だぜぇ!!!』

『……馬鹿にしてることぐらい分かるからな』

 


「凄いねボーヤ……オリアの言う通り唯のデブとは大違いだ」


 唯のデブに自分より大きい相手を持ち上げるなど到底できない。


「……終わり、かな?」


 感覚が麻痺してきたのか驚きが小さいオリア、しかし今回は


「…いや、まだだよ」


「ブ、ブふふ……油断しただブ」


 瞬殺KOとはいかなかった。


『おっとぉ!!?『デストロイヤー』選手立ち上がったぁ!!今回は瞬殺KOならず、そして俺も今回は実況できてるぜぇ!!!』


 会場の全員、感覚が麻痺しているのか、瞬殺でないという当たり前の展開と実況が出来てる事にヒートアップするビックマウスの実況に観客も大盛り上がりだ。


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