第145話 間違ってはおらぬの
Bランクの試合会場は大きいが簡素な建物。
違法な賭博が行われる場所という意味ではCランクのボロ倉庫の方がイメージに合う。
「イジー兄が務めてる仕事場に似てるだな。こんなところで試合するだか」
「国政文官の仕事場と裏格闘試合の会場を一緒にしたらイジーも怒るだろうけどね」
「一見ではそうは思えない場所だからこそ好都合なのさ」
建物の中に入ってみると、清潔感はあるが造りはCランクの時とほぼ同じで中央に金網闘技台があり、周りに観客席を並べている。
「中は大して変わらないだな」
「でも断然に清潔ね。客層も違って真面そうだし」
「Bランクの試合は一般客は入場料が必要だから客層も変わるさ。そんなことよりさっさと受付に行くよ」
「お待ちしておりました。『不倒』選手」
Bランクの受付はCランクのような会場の端に机を置いただけのモノではなく、ちゃんと別室に設置されている。
そして何故かCランクの時の黒縁眼鏡にスーツの男がBランクの受付所にいた。
「ちょっ!?何であんたがここにいるのよ?」
「私は受付係ですから」
「あんたはCランクの受付係でしょ!」
「受付係にランクは関係ありませんよ。バカなのか」
「こぉの糞眼鏡ぇ~!!」
「落ち着くだよオリア姉」
「はいはい、当日登録が出来ないからオリアは下がってな」
怒りのあまり汚い言葉を発するオリアを、ヨコヅナが宥めデルファが間に入る。
「では『不倒』選手、ボディチェックをするので、服を脱いでください」
「分かっただ」
今回はあっさりと服を脱ぎ始めるヨコヅナ、その身体には前回あった無数の痣はきれいに無くなっていた。
「……言っていた通り、痣は打ち身のよるものでしたか」
「何よ、やっぱり疑ってたのね」
「混血を姉と呼んでいる相手を疑うなと言う方が無理だろう」
「血は繋がってないだよ」
「でしょうね、似ていないので。ただCランクで派手に勝ち過ぎたため、そう疑う者もいたのですよ」
5連戦瞬殺一撃KOという快挙に加え、セコンドが混血のデルファとオリア。
ヨコヅナも混血で体中にある痣は混血の証ではないかというクレームが多少なりともあった。
「でもこれで疑いは晴れたでしょ」
「今の時点では……Aランクでは血液検査もありますので、そこで確実なものになります」
「そんなことまでするだべか?」
「極稀に混血の証が外見に現れておらず、自覚のない混血もいますので」
「だったら初めから血液検査をしたらいいんじゃないだか」
「選手数が多すぎて、費用が膨大になります。外見に証の無い混血は1000人に一人もいない、ただAランクでは客層が上流階級の方々になりますから万が一でも調べる必要があるのですよ」
権力を持つ客もいる為、もし不正が発覚した場合クレームが殺到するどころでは済まないのだ。
「……無自覚で混血が発覚した場合、何か罰があるだか?」
「裏闘での出場資格を剥奪されます。ですがそれ以外は特に罰則はありません」
「稼いだ賞金なんかも返さなくて良いだか?」
「
「チェックしてるのあんたじゃないの」
「私は言われた通りのチェックを行ってますので」
杜撰と言っても血液検査するのに比べればであり、裏闘でのボディチェックは闘技大会でのチェックよりもずっと精細なものだ。やるべき事はやっていると言いたいのだろう。
「……さっき、受付係にランクは関係ないとか言ってたけど、上流階級相手のAランクならそうはいかないでしょ」
「そうですね。礼節ある対応が必要となる為、受付係も厳選されます」
「じゃああんたはAランクでは受付してないわけね」
「何故そう思う」
「あんたみたいな性格最悪で口も悪い男が上流階級の相手を出来るはずないもの」
オリアはこの受付の事が余程気に入らないようで、喧嘩売っているような言い方だ。
「本気で嫌ってるんだべな」
確かにこの受付係は口が悪い、しかしギャンブル店を経営しているオリアなら受け流せるはず、
「目で分かるんだよ」
少し不思議そうにしていたヨコヅナに、デルファがそう言った。
「目?何が分かるだ?」
「混血を見下してるってことがさ」
「人族至上主義だべか……」
「違うにしても、それに近い価値観ではあるんだろうね」
二人の会話を他所に睨み合うオリアと受付係。
「やれやれ……受付の仕事だから一応説明していたが、Aランクの事などお前たちには関係ないだろう」
「どういう意味よ」
「そんなことも理解できないのか。怪力だけの新人が10勝出来る程Bランクは甘くないということだ」
「はぁ~っ!あんたCランクでも同じようなこと言ってたけど、余裕の5連勝だったじゃない。ヨ…『不倒』ならすぐにAランクに上がれるわよ」
「ふっ、今日の対戦相手も知らないくせに良く言えたものだ」
受付係は一枚の紙をデルファに渡す。
「そういえばクジ引きじゃないって言ってたわね」
「今日の試合相手だべか?」
ヨコヅナとオリアも紙を覗きみる。
そこに書かれていたのは、
・第一試合 『不倒』VS『拳人』
「なっ!?」
「またオラ一試合目だべか」
「相手は…『
三者三様の反応をするヨコヅナ達。特に大きい反応をしたのはデルファだ。
「Cランクで5連勝したとはいえ、この対戦相手はおかしくないかい」
「私が決めたのではないから、文句を言われても困るな」
「この『拳人』って強いの?」
いつも余裕あるデルファの真剣な表情に不安にあるオリア。
「『拳人』の戦績は7勝2敗だよ」
「古い情報だな、今の『拳人』の戦績は8勝2敗だ」
「8勝2敗って……」
「間違いなくBランクのトップ選手だね。『拳人』はエチギルドと同じで元ケンシン流の師範代。エチギルドは『拳人』をライバルとか言ってたけど明らかに格上だよ」
登録名も相手を意識して『拳王』にしていたが、実際試合して負けている、戦績でも実力でも『拳人』が数段格上だ。
「裏闘の運営は、余程若い新人に調子に乗られるのが嫌なようだね」
嫌がらせのような対戦相手にそう愚痴るデルファ。
「……ヨコ」
デルファと約束した為、辞めさせるようなことは言わないが、話を聞いて不安そうにヨコヅナを見るオリア。
「まぁ大丈夫だべ」
オリアを安心させるようにいつもの笑顔で答えるヨコヅナ。
デルファはそんなヨコヅナを見て、ロード会の長である自分が不安な顔をしててはいけないと、
「そうだね。まだBランクでの1戦目、5敗するまでに10勝出来ればいいんだ。怪我しない程度に頑張んな」
いつもの余裕のある表情でヨコヅナにそう言う。
しかしそんなデルファの言葉に、
「ん?……ちょっと気になったんだべが……」
「何でしょう?」
ヨコヅナは首を傾げ、受付係に質問する。
「さっきから10勝って言っるだが、今日5連勝したらAランクに上がれるんじゃないんだべか?」
「……はぁっ!?」
状況を理解できてないかのようなヨコヅナの言葉に驚き、
「確かに今日で5連勝すればAランクに上がれるが……Bランクのトップ選手と戦うのに、5連勝を目指すと言うのか?」
性格最悪で口の悪い受付係も信じられないと言うふうに聞き返す。
逆にヨコヅナは何をそんなに驚いてるのか分からないといった表情で答える。
「目指すだけなら自由だべ」
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