第125話 ラビスは面と向かって言っておったがの
「おはようございますだ、ハイネ様」
基礎鍛錬が終わり手合わせ前の休憩中、近づいてきたハイネに挨拶するヨコヅナ。
「おはよう、ヨコヅナ。こんなに大勢と鍛錬していたとは驚いたぞ」
「オラはいつも通り鍛錬してるだけなんだべがな……早速手合わせするだか?」
先ほどから闘志の宿る視線を感じており、既に両手には模擬剣も握られているので、ハイネはすぐにでも手合わせを始めるつもりだろうと思ったヨコヅナ。
しかし、
「………いや」
ハイネは一瞬怪訝な表情をしてから、それを否定する。
「私も体を動かしておきたい」
そう言って視線を他の者へと向けた。
「久しぶりだな、メガロ、レブロット」
「ハイネ様、お久しぶりです」
「おおお久しぶりです、ハイネ様」
基礎鍛錬で疲れて座っていた二人だが、ハイネが現れた時から直立不動の姿勢で立っていた。
ハイネは将軍で二人よりも階級が上ある為当然にも思えるが、
「軍務中ではなのだ、楽にして良いぞ」
「そう、ですね」
「は、はい」
メガロのハイネに対する態度は必要以上の低姿勢に見える。
レブロットに至っては少し挙動不審に思えるほどだ。
「行軍からお戻りになられたのですね」
「ああ、つい先日な。ヨコヅナからメガロにスモウを教えることになったとは聞いていたが、レブロットもヨコヅナの弟子になっていたのだな」
「「いえ、弟子になったわけではないのですが」」
ハモってヨコヅナの弟子になったことを否定するメガロとレブロットだが、
「そんな格好で否定されてもな……」
ヨコヅナと一緒に褌一丁でスモウの鍛錬をしていては弟子になったと言われても無理はない。
「………なるほどな」
「どうかされましたか?」
メガロの身体を見て一人でうなずくハイネ。
「カルの言っていた通り、今回は三日坊主ではなさそうだな」
弛んだ肉が無くなり引き締まっており、特に足腰の筋肉がついてることにそんな感想を呟くハイネ。
次にハイネはレブロットの身体を見る。
「……お前は相変わらず丸いな」
素質こそあれどレブロットはスモウの鍛錬に参加するようになってから日が浅いので体型に変化はなく丸いままだった。
「フム、二人がどれだけ腕を上げたか私が見てやろう」
ヨコヅナの前にメガロとレブロットと手合わせしようとするハイネ。
だがしかし、
「いえ、私はまだスモウの鍛錬を初めて日が浅いので、メガロ様どうぞ」
「いや、ここはヨコヅナもスモウの素質を認めているレブロットが行くべきだろう」
「いえいえ、俺は先ほどのブチかましの練習で首を痛めてしまったので、どうぞメガロ様」
「いやいや、私も今日は微熱があるような気がするのだ、だからレブロットが行け」
お互いにハイネとの手合わせを譲り合って前に出ようとしないメガロとレブロット。
「はぁ~、全くをお前らは学生の時から変わらず臆病者だな。そんなことでは家の名が泣くぞ」
そんな二人を見て呆れて溜息ながらに首を振るハイネ。
ストロング家とドジャー家は王国軍で名の知れた軍属家系、その跡継ぎである者達が将軍相手とは言え、手合わせをすることに怖気づいて腰を引かしていては臆病者と罵られても仕方がない……相手によっては違うだろうが。
「「いえ、その……」」
言い訳の言葉も出てこないメガロとレブロット。
「もうよい」
二人に背を向け一般兵達の方へと歩いて行くハイネ。
休憩していた兵達はハイネが近づいて来たことで、メガロたち同様立って背筋を伸ばす、
「「「…「「「おはようございます!ヘルシング将軍」」」…」」」
「おはよう。楽にしていいぞ」
一同に挨拶するハイネの様子を見て、
「ハイネ様ってやっぱり偉い人なんだべな」
今さら分かり切ったことを改めて認識するヨコヅナ。
「将軍なのだから当り前じゃろ」
「本来であればここに集まっている一般兵では話すことも叶わないぐらい階級が上の人物ですよ」
一般兵からすれば雲の上の存在とでもいえるハイネは、
「皆はヨコヅナとの手合わせの為に集まったと思うが、今日は特別に私が相手をしてやろう」
集まった者達へ気軽に手合わせの相手を申し出る。
「もちろん『足の裏以外が地についたら負け』というルールで『勝ったら昇格させる』という約束も有効だ」
続いた言葉を聞いて兵達から「おぉ~!」と歓喜の声が漏れる。
一般兵からすれば『閃光のハイネ』に指導してもらえるだけでも他人に自慢できる。
「勝てた者は全員昇格できるのですか?」
「もちろんだ、人数を制限したりなどしない」
それに、見るからに倒すことが困難なことが分かる体格のヨコヅナと違い、ハイネは一見だけでは引き締まってはいるも平均女性よりは背が高いだけに見える体格。
ここのルールでなら勝てる可能性があると思っても無理はない。
甘い考えの兵達はさらに「「「おぉ~!!」」」と歓喜の声が大きくなる。
「うむ、その意気やよし!」
メガロ達と違い、手合わせにやる気満々の兵達を見て満足そうなハイネ。
「誰からでもかかってくるがいい!」
そんなハイネと兵達を少し離れて見ているメガロとレブロット。
「無知とは愚かなことだな」
「もしくは噂を真に受けているのかもしれませんね」
ここでいう噂とは、
『容姿端麗にして文武両道、名門軍家の貴族令嬢であり『閃光』の二つ名をもつ実力派の女将軍』
という良評の噂ではなく、
『親の七光りで実力に見合わない地位にあり、『閃光の
という悪評の噂である。
ハイネの事を知っていれば、妬み嫉みを持つ者が流したデマだとすぐに分かるのだが、参加する兵達の中にも数名は悪評を真実なのかもと思う者がいた。
「まぁ、悪評の全てがデマとも言えないがな」
「どの部分がですか?」
「レブロットも分かっているだろう」
「…そうですね。聞かれたら怖いので口には出しませんが」
火のない所に煙は立たない、悪評も全てがデマという訳ではなかった。
「リーゼックです。よろしくお願いします!」
「いつでも来い」
一番手は槍を携えるリーゼック。
構えをとるも二人の距離は槍でも全然届かない程離れている為、リーゼックは不用意に一歩前に出る。
「不用意に間合いを詰めるのは良くないぞ」
「え?」
目を離したつもりはなかった、なのにリーゼックの目の前にハイネが立っていた。
横なぎに振りぬかれるハイネの剣がリーゼックの顎を捉える。意識が飛び崩れるように倒れるリーゼック。
「…何が起こったんだ?」
「いや、分からない」
「お前見えたか?」
「全然見えなかった」
兵達にはハイネがいつ移動したのかも、何故リーゼックが倒れているのかも分からない。
「一人ずつやるのは手間だな。全員武器をとれ!何時でも何処からでもかかってくるがいい!」
ハイネを知る者でもデマとは言えない悪評とは、
「大分ノッてるなハイネ様」
「手にしているが木刀ではなく、鉄製の模擬剣だという事も忘れてるのではないでしょうか」
「そこまで『アレ』ではないと思うが……明日から稽古に参加出来るのは二人だけになりそうだな」
調子がノってくると手加減を忘れるという理由から、『閃光の
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