第106話 とある執事の下働き 7
私の雇用の話題で少し場が暗くなってしまったな。……ふむ、丁度良い、話題と雰囲気を変えるためにアレを聞いてみるか。
「少し話は変わるのだが…」
姫様に探るように言われていたアレ。
「ヨコヅナ様とラビスは恋仲だと思うか?」
「ブハっ、ゲホっゲホっ。いきなり何言ってんだお前?」
思いも寄らない話題に酒吹き出して咽るシィベルト。
「え!ヤズッチ恋バナ好きなの?」
ワコが明るく反応する、年頃の女の子らしくこの手の話題は好きなようだ。
「少しと言うか大分変わったね」
唐突だったか、先ほどまでもラビスとヨコヅナが話題に出ていたから、タイミング的には悪くないと思ったが…
「でも面白い話題だわ~」
皆も興味がないわけではないようだ。
「ちょっと気になったから言ってみただけなんだがどう思う?」
「いや、それはねぇだろ!あの暗黒メイドだぞ」
「……僕もないと思うな」
「え~、それじゃ面白くないよ。私はあると思う」
「そうね~、私も可能性はあると思うわ~」
男女で意見が分かれたな。元はメガロがあの二人が恋仲の可能性を言い出したのだが、シィベルトとエイトが
「シィベルトは
「根拠っつうか、あの暗黒メイドが恋をするとか考えられねぇ。人に対してゴミを見るような目をする女だぞ」
そこは私と同意見だな…
「そこまで酷いかな?」
「ラビスは利用価値のない相手を見るときはそういう目になることが多い」
「私が店のお酒飲んでるのがバレた時もそんな目だったわ~」
それは窃盗犯だからな、その場にいたら私もそんな目で見てたかもしれない。
「でも、シィ君は料理上手だし、勝手に店のお酒飲んだりもしてないよね」
「もしくは、『混じり』呼ばわりする相手だな」
私の言葉に皆がシィベルトを見る。
「あ~、あのウザイ指摘にイラついて、ついな…」
ラビスを『混じり』と呼んだわけか。
「それは駄目だよ。シィ君」
「シィちゃん酷いわ~」
「二度と呼んだりしねえよ」
「よく無事ですんだな」
「無事じゃねぇよ。軽くボコられたよ」
「え!ボコられたの!?」
ラビスは混血であることを、卑下に思ってなどいない。
だが『混じり』とは蔑称、『混じり』と呼ぶことはつまり下に見ているということになる。
「力でもどちらが上か、分からせたのだろうな」
「シィベルトさん喧嘩強そうですけど…」
「俺もメイドに負けるなんて思ってなかったよ。何モンなんだアイツ」
一般的にはメイドが強いというイメージはないか。……姫様の周りはそんなメイドばかりだがな、ユナなど個人の武では将軍級とまで言われている。
「ラビスの素手での実力は、ケンシン流の師範にも劣らない。少し喧嘩に自信がある程度では相手なるはずがない」
「マジかよ」
「ラビスさんってそんなに強いんだ」
おっと、話がズレてるな。
「話を戻すが、エイトは何故二人が恋仲で
「え~と別に
少なくともちゃんこ鍋屋で、恋仲だと思われる行動はしてないわけか。
まぁ、ラビスが人前で恋人のような振る舞いをしていたとしたら、それは違う目的の為の演技だろうな。
「それは隠してるからじゃないかな。ほら、経営者の二人がみんなの前でイチャイチャしてたら、示しがつかない的な」
ワコは
「ラビスさん美人だし」
「美人かぁ~?、ブサイクとは言わねぇが」
「顔を整ってると思うよ……ただそれ以上に不気味というか」
「あ~、エイト君もひど~い!」
「あ、いや、顔が不気味といったわけじゃなくて、……仕事中に視線を感じて振り向くと、暗いところにラビスさん居て、ホント幽霊かとびっくりしたことあるんだ」
それは私もあった、……しかしラビスの薄い気配に気づくとは、
「さすが、普通よりはちょっとできる男エイト」
「え!?それ褒めてる?」
「ワコはヨコヅナ様がラビスに惚れていると思っているわけか?」
「え!スルー!?」
エイトが鋭いツッコミをしてくるが、話が脱線しないよう務めるとしよう。
「だって、ラビスさんてヨコさん相手にも結構きつい事言ってるよね「バカですね~ヨコヅナ様は」とか「お腹が出てるから他の人の邪魔になってますよ」とか。なのにヨコさんは笑って気にもしてない」
「慣れているだけだろ」
「言い返しても、さらに、言い返されて凹むだけだろうしね」
「経営面での仕事が上手く行っているのはラビスさんのおかげだってよく言ってるし。少なくともヨコさんがラビスさんを信頼してることは間違いないよね」
頼りきっているようにも見えるが、まぁそれも信頼か…
「ラビスが乙女の視線のようなものをヨコヅナ様に向けてるように思うか?」
「乙女の視線?それは……ないかな」
首を傾げるワコ。
そうなるよな。
「ゴミを見る視線が、どうやったら乙女の視線になんだよ」
メガロが言っていたことだが、アレは馬鹿だからあてにすべきではないか。
「でも私は、ラビスさんのヨコさんを見る時だけは違う視線だと思うわ~。それにパーソナルスペースもヨコさんだけ近いのよね~」
お!やっとありらしい意見がでたか、ビャクランはそういうことに敏感そうだからな
「今は恋人同士というわけじゃないと思うけど、発展する可能性はあると思うわ~」
ふむ、今後の可能性としてありか…
「でもラビスさんがヨコさんに惚れるとしたらどこにですかね?」
「優しいところじゃないかな」
「本人に優しさの欠片もねぇがな、意外とデブが好きとか、はははっ」
「違うと思いますよ、痩せるよう言ってた事何度かありましたし。強いのに温和なところじゃないですかね」
「意外と沸点は低いようだが。ラビスが簡単に真似できない特技を習得しているからが、ありえそうだな」
「ちゃんこ鍋に惚れたんじゃないかしら~」
「「「「それだ!……アハハハハっ!!」」」」
冗談のような有り得そうな結論に皆で楽しく笑う。
まとめると、
・一緒にちゃんこ鍋屋で働いてる者達は、恋仲だと思える明確な二人の行動は見たことがない。
・暗黒メイドが恋をするとは思えない。
・ヨコヅナはラビスを信頼している。
・ラビスも、ヨコヅナと他の男とでは接し方が違うように思える。
・惚れる要因はちゃんこ鍋。
………探れとは言われたがこんなのでいいのだろうか…
「でもヤズッチどうしていきなり、こんなこと聞いてきたの?もしかしてヨコさんに気があるとか?」
「いや、そういう感情は全くない」
「な~んだ。じゃあヤズッチはどんな相手が好み?」
好みの相手か?考えたこともないが……
「王族だな」
「ワオっ!?まさか白馬の王子様が理想だなんて…」
「はははっ、今日なんだかヤズッチ面白いね」
「ちょっと変わってるもんなお前」
「ヤズちゃんは面白い子よ~」
む、明らかにバカにされてるな。……まぁ酒の席だ、それに今の私はヤズッチだしな。
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