第103話 とある執事の下働き 4


 本当に、忙しくなっている!?


「ヤズッチ、大盛りちゃんこ、2杯出来ただよ」

「はい!、すぐに」


 私はヨコヅナから注文の料理を受け取り、客へ渡しに行く。


「お待たせ致しました」

「おっ、きたきた」

「美味そう!」


 注文の料理を嬉しそうに受け取る客。

 ヨコヅナが厨房に立っているのは昨日から、だが昨日はさほど変化はなかった。

 まぁ、ヨコヅナが来ることを宣伝しているわけではないから、初日は客が集まらないのは当然か。

 しかし、だとすると今日客が多いのは口コミだけで、噂が広まったことになるな。


「勘定ここに置いとくぜ」

「ありがとうございました。またお越し下さい」

「おう、うまかったぜ!」

「ありがとうございますだ」


 私は食事の後、わざわざヨコヅナに声をかけてから帰る客を見送り、


「お待たせ致しましたお客様、いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」


 いつもより明らかに多い行列の先頭で待っていた客を案内する。


「お、いたいた、ようっ!でっかい兄ちゃん」


 この客は日が浅い私でも何度か見ている常連だ。


「いらっしゃいませだ」

「ついこの間も来たんだが、昨日から兄ちゃんが厨房立ってるって聞いな」

「いつもありがとうございますだ。注文はちゃんこで良いだか?」

「もちろんよ。大盛りで頼むぜ!」


 聞いた話では、あの常連客は屋台の時からのちゃんこ鍋のファンらしい。

 他にも同じように、屋台で食べてちゃんこ鍋のファンになった者は多いらしい。…中毒性でもあるのか。


「いらっしゃいませ~、あ!トーカちゃん」


 ワコが次に入れた客は、常連になりつつある赤髪の少女、トーカだ。


「あいつが作ってるって聞いた」

「うん、今日のちゃんこはヨコさんが作ってる。丁度厨房に近い席が空いてるよ」

「別に席はどこでもいい」


 トーカを厨房に近い席に案内するワコ。


「あ!いらっしゃいだべ」


 トーカを見て笑顔で対応するヨコヅナ。


「……お前、何で毎日店でちゃんこ作ってないんだ?」

「はははっ、ごめんだべ」

「別に、居ない時でも美味いから良いけどな……ワコ注文、ちゃんこ大盛りで」

「ご注文承りました!少々お待ちくださ~い」


 前は普通のちゃんこを頼んでたはずだが、あの少女も大盛りか…

 


「お待たせいたしました」

「おう、待ってたぜ」


 常連の客はちゃんこを受け取り、早速食べ始める。


「あぁ!、これこれ、この味だ」

「…オラが居ないときと違うだか?」


 私もヨコヅナが作ったちゃんこを食べたが、さして違いがあるようには思えなかった。


「いや、いつも美味いんだぜ。ただなんつーかな、兄ちゃんのちゃんこはグっとしてても、フワ~とした味なんだよな。で、もっと食べてぇなって思うだよ」


 何だそれは?意味がわからん。


「分かります。私も同じ感想をいつも思いますので」


 ヨルダックには分かるのか!?

 ヨコヅナがいるときはヨルダックは基本、サポートに回っている。

 だから、忙しくても客と多少コミュニケーション取れる程度のゆとりがある。


「本当にいつものも美味いんだぜ。まぁ好み問題だろうな」


 常連客のその言葉にただ笑顔を返すヨルダック。


 好みの問題と言うよりは、最初の印象が強かったのだろう。

 コフィーリア王女が美味しいと好評したという噂が広まった為、屋台でちゃんこを食べた者にはヨルダックの作ったものよりヨコヅナが作ったちゃんこ鍋の方が美味しいと印象が強く刻みまれたのだと思われる。

 

 ちっ、また微かな視線を感じる………ラビス、きさま、見ているなッ!

 忙しく働い後に、ネチネチ言われるのも面倒だ、仕事に集中するとしよう。



「ふうっ、食った食った。美味かったぜ」

「ありがとうございますだ」

「美味くて、多くて、安い。この店は兄ちゃん同様、太っ腹だな!がはははっ」

「はははっ、上手いこと言うだな。また宜しくお願いしますだ」

「おう、また来るぜ!」


 ヨコヅナが厨房に立つことで、客数は増え、ちゃんこの大盛りを頼む者も多い。

 しかし、これでは……

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