第102話 表情に出て、見抜かれそうじゃらか教えん
「あ、……勧誘されたのですか…」
ヨコヅナは私室兼仕事場で今日の出来事を話していた。
予想と違うその内容に、少し拍子抜けしたラビス。
「そうだべ……何があったと思っただか?」
「てっきりヨコヅナ様がロード会とモメて、二、三十人ぶっ飛ばしたのかと…」
そんな予想をしていては確かに
「ぶっ飛ばしたのは一人だけだべ」
「…ぶっ飛ばしてはいるのですね」
「ほこはほんほうそうひ見へへ、モグモグ、ゴクンっ、意外と沸点低いからの」
部屋にはカルレインも居て一緒にヨコヅナの相談にのっている。
ヨコヅナもラビスも夕飯がまだだったので、ヨコヅナが有り合わせで作った料理を食べながら、話をしていた。
言うまでもないかもしれないが、カルレインは夕飯を食べたが、今もヨコヅナが作った料理を食べている。
「怒ってぶっ飛ばした訳じゃないだよ。採用試験と言われて、手合わせしただけだべ」
「…ブチかましで試験の相手をぶっ飛ばしたと」
「よくブチかましって分かるだな」
「額が少し赤く腫れてますよ」
「……何か異様に硬かったべからな。まぁそれはどうでもいいだ」
エチギルドが鉄鎧を仕込んでた事など、歯牙にもかけないヨコヅナ。
「じゃが、採用試験を受けたと言うことは、ヨコは雇われるつもりということじゃな」
「別に雇われたいわけじゃないだよ」
ヨコヅナは状況説明だけでなく、心情的説明も加えて話す。
「ヨコが同郷の仲間を大切に思っておるように、その姉も混血の仲間を大切に思っておるわけじゃの」
「そうみたいだべ」
仲間を大切にしたいと思う気持ちは同じ。だからヨコヅナは、危険があると聞いてもオリアを説得しなかった。説得したところでオリアの性格からして無駄だと分かっているから。
「自分の利益や安全を損じてまで守りたい仲間ですか、…私には理解できませんね」
「ラビスは混血の人を仲間とは思わないだか?」
「思いません」
即答で言い切るラビス。
「混血であろうと、マ
ラビスからすれば、「混血だから仲間」などという考えは、愚かとしか思えない。
「やっぱりラビスは反対だべか?オラがロード会に協力するのは」
「反対です」
またもや即答で言い切るラビス。
「時間も給料も融通してくれると言ってるだよ」
「収入の問題ではありません。真っ当でない組織と繋がることが問題なのです」
「何じゃ、そんなヤバイ組織なのか?」
「主な稼ぎは、遊館と賭博店の経営と言ってただよ」
「その二つはグレーな業種です。さらに私が危惧するのは、
黒い稼ぎ、つまり王国で犯罪と定められている稼ぎ方を示している。
グレーな業種には黒が混ざり易い、混ざってもわかりづらいからだ。
「清髪剤とちゃんこ鍋屋は共に順調ですが、黒い稼ぎをする組織と繋がりがあると噂になれば、客足は途絶えます」
「黒とは決まってないだよ」
「成功している者は危ういモノには近寄る必要はないのです。今後一切ロード会との関係を断つべきと進言します」
ロード会との関係を断つ、それはつまりオリアとも二度と会うなという事。
そんな進言をラビスは無表情で言い、
「というのが、
と、深い笑みを作って付け足した。
「普通の?……」
ヨコヅナはラビスの言葉の意味を考え、
「はははっ。だったら次は優秀な補佐であるラビスの意見が聞きたいだよ」
笑ってラビスに聞く。
「クククっ、私なら、逆にロード会を利用するつもりで、ガッツリ協力する姿勢を見せつつ、利益を上げる事を進言します」
ラビスもまた楽しそうに笑ってそう答える。
「わははっ、「成功している者は危ういモノには近寄る必要はない」は正しい言葉じゃと思うぞ」
「そうですね。ですがつまらないではありませんか、そんなの」
ローリスク・ローリターンで簡単な仕事などにラビスは興味はない。
ハイリスク・ハイリターンな難しい仕事だからこそ面白いのだ。
「そもそも、ヨコヅナ様は私が普通の意見を進言したら、関わらないようにするのですか?」
「ん~…、黒い稼ぎをしている組織なら、それこそ放っておくわけにもいかないべからな~。雇われはしないだが、様子を見るために手伝うぐらいすると思うだ」
「そう言うと思いました。それは最も間違った行動です。利用されるだけされて損失をだし、黒であれば同じように繋がりを糾弾されます」
雇用されていなくても、協力した事実があれば、黒に染まったと思われるだろう。
「どちみち糾弾されるのであれば、儲けた方が得でしょう」
「…でも色々な所に迷惑かかるだか?」
「もちろんそうならないように手は打ちます。最悪ヨコヅナ様が全責任を背負って、仕事を辞めれば、迷惑は軽微で済みますよ。自分で辞めるまでもなくコフィーリア王女がクビにするでしょうがね」
「まぁ、仕方ないだべな」
順調な仕事をクビになると聞いても、悩みもしないヨコヅナ。
「本当に良いのか?ここも出ていくことになるぞ」
黒い稼ぎに加担していたという噂は、ハイネの屋敷を追い出される理由としては十分だろう。
「……その時はニーコ村に帰るだよ」
今度は少し悩んでから答えたヨコヅナ。
「……腑に落ちんの」
ヨコヅナの答えに首を傾げるカルレイン。
「カルは反対だべか?」
「いや、面白そうじゃからやれば良いと思うぞ。我が言っておるのはヨコの反応じゃよ」
「オラの?」
「黒とは決まってないと言っておきながら、何かあると確信しているようじゃ」
「……そういえば守衛や爺やさん達に聞かれないようにしていましたね」
守衛に聞かれないように気にしていたり、帰ってきた際、爺やと婆やに食事の準備をすると言われても断り、わざわざ自分で作って自室で話をしているのは、ヘルシング家の者に聞かれない方が良いとヨコヅナが判断したからだ。
「……勘の域は出ないだよ」
ヨコヅナが拘っているのはオリアの事だけが原因ではない。
「デルファ・ロード…悪人だと断定するわけじゃないだが、危険だと感じただ」
デルファと対面した時に感じた雰囲気には覚えがあった。
「森であういう感じの獣が現れると、縄張りや生態系が変わることが多いだよ」
「なんとも、田舎者らしい例えじゃの」
「全くです。でも言いたいことは分かります。放っておくのも危険と判断したわけですね」
「そうだべ」
平穏でのんびりな暮らしを脅かす存在だと、ヨコヅナは感じたのだ。
「……フム、そういうことなら我も協力してやろう」
いつもよりもやる気が感じられるカルレイン。
「我に考えがある。雇用の返事はすぐでなくても良いのじゃろ」
「期限は言われてないだ。忙しいとも言ってあるから大丈夫なはずだべ」
「ヨコヅナ様は明日からしばらくちゃんこ鍋屋の厨房にたつことになっておりますから、どのみちすぐに返事は出来ません」
「ではその間に準備をしておくかの。ラビスちょっとよいか」
何故かヨコヅナに聞かれないように、ラビスと話をするカルレイン。
「……分かりました。私も情報を集めておきます」
「何をするつもりだべ?」
「わははっ、ヨコは知らずともよい」
自分の相談事のはずなのに、仲間はずれにされるヨコヅナだった。
「私はそろそろお暇させて頂きます。御馳走様でしたヨコヅナ様」
話に区切りが付いたところで、帰ることにしたラビス。
「この料理美味しいですね。新しいメニューの候補にしたいので、ちゃんこ鍋屋の皆にも作ってもらえますか」
「有り合わせで作ったものだべ」
「賄い飯がメニューになるのはよくある事ですよ」
「モグモグ、ゴクンっ。うむ、我もこれ好きじゃぞ」
カルレインは3杯目のお替りを食べている。
「分かっただ、用意しとくだよ」
「ではまた明日、失礼致します」
「…あ、ラビス」
部屋から出ようとするラビスを呼び止めるヨコヅナ。
「何ですか?」
「オラは、ラビスの事も大切な仲間だと思ってるだよ」
ヨコヅナは「私が信頼するのは私だけ」という言葉を聞いて、自分には仲間なんていないという意味に受け取っていた。
事実ラビスはそういう意味を込めて言ったつもりだ。しかし、
「私は……」
ラビスは言葉を止める、続きの「仲間とは思っていません」が何故か言えなかった。
「バカですね~ヨコヅナ様は。そんな簡単に人を信じていると、痛い目に合いますよ」
「簡単にじゃないだよ。あと痛い目は、いつも鞭で叩かれてるから今さらだべ」
「クククっそうですね……では今度こそ失礼します」
ラビスは楽しそうに笑い、ヨコヅナの部屋を後にした。
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