第98話 嘘は言ってないの


「お茶入れたっす」


 ヨコヅナがデルファとオリアの三人で応接室で話をしていると、エフがお茶を持って来てくれた。


「ありがとうだべ」

「エフがお茶汲みなんて珍しいね」

「話が気になるんだろ?」

「みゃはは、バレたっすか」


 エフは三人の前にお茶を置き、


「ヨコやんはロード会に入るっすか?」

「…そんな話はしてないだよ」


 変な呼ばれ方だと思いつつ否定するヨコヅナ。


「寧ろオリアを辞めさせたいみたいでね」

「えぇ~!それは寂しいっす」

「大丈夫よ、私は辞めるつもりはないから」

「ホントっすか!」

「本当よ」


 それを聞いて嬉しそうな顔するエフ。


「じゃあやっぱりヨコやんも入るっすか」

「エフは何でそう思うんだい?」

「オリちゃんの弟ならヨコやんも混血っすよね」


 混血のオリアの弟なら、当然ヨコヅナも混血だと思ったから、ロード会に入るのだと考えたエフ。


「ヨコとは血は繋がってないのよ。弟分みたいな感じ」

「確かに似てないっすね、ヨコやんはオークとの混血っすか?」

「……オラは混血じゃないだよ」

「え!?マびとっすか。でもめっちゃ手の平硬かったっすよ」


 『マびと』とは、他種族の血が混ざっていない人を表す、『混血』の対なる言葉。

 

「手の平の皮が厚いだけだべ」

「ヨコは鍛えてるからね」

「手の平を鍛えてるっすか~。あ、冷めないうちにお茶飲むっす」


 エフにそう言われ、お茶に口を付ける三人。


「「「苦っが!!?」」」

「マジッすか!?良いお茶っ葉ふんだんに使ったっすよ」

「だからよ!はぁ~。ごめんねヨコ、入れ直してくるよ」

「お構いなくだべ」

「お茶の入れ方教えてあげるから、エフも来て」


 お茶を入れ直す為にオリアがエフを連れて行く。


「オラってそんなにオークと似てるだかな」


 自分ではそうは思わないが、イティにも言われたので思わず疑問が口から出るヨコヅナ。


「似てるのはその出っ張った腹ぐらいだねェ。混血を敬遠してるように感じないから、仲間だと思ってるんじゃないかい」

「敬遠する必要が無いだよ」

「………それでどうするんだい?」


 ヨコヅナとデルファの二人だけになり、緩んでいた空気が変わる。


「何がだべ?」

「オリアを辞めさせたいんだろ」

「本人が続けたいと言うならどうしようもないだよ」


 だからと言って心配がなくなるわけではない、それが有りありと顔に出ているヨコヅナ。


「ふふふっ、分かりやすいボーヤだねェ……ならどうだい、エフが言うようにウチに入るかい?」

「……分からないだな。何故オラを誘うだ」

「別にウチは混血しか雇わないわけじゃないよ、オリアの弟分なら信用も出来るしね」


 デルファの言葉を聞いて、ヨコヅナは逆に怪訝な表情になる。


「……後半は嘘だべな。あんたはオラを信用なんてしていない、むしろ警戒してるだ」

「へぇ~、意外と鋭いねェ」


 ヨコヅナの言葉に笑みを深くするも目は笑っていないデルファ。

 先ほどまでと一転して張り詰めた空気になる。


「警戒というより観察だよ、私らは人を見る目がないとやっていけないからねェ。でもまぁ気になる問もあるから警戒というのも間違っちゃいないかね」

「気になる問?」


 デルファは笑みを消し、四つの目でヨコヅナを観る。


「オリアはあんたがゴロツキを追い払ったと言った、でもイティは何もしていないと言っていた。つまりゴロツキ達はボーヤを見ただけで逃げ出したことになる。それはどうしてだい?」


 確かにそんな風に問われれば不自然な話ではある。だがヨコヅナからすれば別に凄んで問われるようなことでもない。


「前に絡んできたから返り討ちにしたゴロツキだったみたいだべ。オラは相手の顔も覚えてなかっただが」

「ふ~ん、そうかい……以前、田舎者感漂う若い大男が、貧困街で大暴れしたという噂が出回ったことがあってねェ」


 デルファの問には続きがあった。寧ろこっちが本題だ。


「何でもそいつは、コクエン流のヘンゼンや狂刃のボーザを倒し、魔法で数十人のゴロツキを殲滅したとか」


 聞き覚えがある名前だと思ったヨコヅナだが、後半は明らかにデマだ。


「その男は子供と肩に乗せてたことから、『子連れ妖怪』なんて名が付いたんだけど、ゴロツキがあんたをそう呼んだとイティから聞いてね」


 こんな疑問を抱いていればデルファがヨコヅナを警戒するのも無理はない。


「答え合わせをしてくれるかい?」

「…オラは魔法は使えないし、殲滅もしてないから、そこは間違いだべ。……あとオラに子供はいないだよ」


 子連れの部分は間違いなくカルレインの事だろうが、わざわざ説明する必要もないので省いたヨコヅナ。


「ヘンゼンやボーザを倒したってのは」

「黒服の格闘家とギザギザの剣を使う男を倒したって意味ならあってるだよ」

「……なるほどねェ」


 デルファも魔法で殲滅の部分は嘘だと分かっていた、そんな大量の死体などないし、というかそんな事があれば貧困街でとはいえ国中で大騒ぎになる。噂に尾ひれが付くのはよくあることだ、尾ひれの方が大きい気もするが。

 

「正直に話してくれた代わりに私も正直に話すよ。誘ったのは自衛の為の戦力が欲しいからさ」


 デルファは嘘を言っているようには見えないが、ヨコヅナには違う疑問が出てくる。


「あんたは相当強いと思うだが」

「自衛と言ったが、私自身をではなく仲間を守るって意味さ。でも私が、というか混血が力を振りかざすわけにはいかないんだよ。理由は言わなくったって分かるだろ」


 今回のように「子供が襲われた」という明確な被害理由があれば別だが、無闇に混血が力を振りかざせば、当然差別は酷くなり、それで一番被害を被るのは力を持たない弱い混血だ。


「だから、強いマびとの協力が必要なのさ、オリア達を守るためにね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る