第57話 余らなかったじゃと!?


「あぁ~、疲れただ」

「本当にの」


 建国祭三日目の晩、ハイネの屋敷に帰ってきてテーブルでぐったりしているヨコヅナとカルレイン。

 コフィーリアの来店以降、客は増える一方であり、三日目など開店前から列が出来ていた。

 まだ祭が終わってないこの時間に帰ってきているのは売り切れたからだ。

 つまりカルレインが大量に購入した食材が祭りが終わるよりも早く全てなくなったということである。


「すまないな、全く手伝えなくて…」

「全然、気にしなくいいだよ。ハイネ様も忙しかったんだべ」

「あ~いや、私はただ、母上が放してくれなくてな」


 軍の仕事として忙しかったのは前日までであり、建国祭では部下に任せれる用に段取りをしている為、屋台に顔を出すつもりでいたハイネだったが、ミューズがそれを許さなかった。

 一日目は式典とパーティーでのドレスや装飾品選び。

 二日目の式典とパーティーの最中もハイネが抜け出さないよう側を離れず。

 三日目は親戚関係で開かれるパーティーに出席していた。

 これはミューズの我がままではなく毎年の恒例行事のようなものであり、寧ろ抜け出そうとするハイネの方が我がままと言えた。


「しかし、三日目の途中で売り切れるとは、初参加なのに快挙と言えるな」

「姫さんのおかげだべ」

「コフィーはお世辞は言わない、特に料理においてはな」


 どんな高名な料理人が作った料理でも自分が美味しくないと思えばはっきりと美味しくないと言うのが王女コフィーリア。


「あのコフィーに屋台の料理で美味しいと言わせただけでも誇って良いことだぞ」


 王女が味にうるさいことは国民も知っていることであり、だからこそコフィーリアが好評したという噂が瞬く間に広がり、客が集まったのだ。


「そういえばパーティーで父上がちゃんこを食べていたぞ。部下に屋台まで買わせに行かせたようだ。ハハハっ」


 国王が主催するパーティーで屋台の料理を持ち込むなど前代未聞だが、本人もそれがわかっているのか隅っこでこそこそ食べてるのを見つけたときは笑いが止まらなかったハイネ。


「そのときケオネス様も食べたらしくて美味しいと言っていたよ」

「ヒョードル様とケオネス様って仲悪いんじゃないんだべか?」


 犬猿の仲という噂も聞くし、ケオネスが憎まれ口を叩いていたが、どうもそこからは親しさを感じる。


「そうだな。お互いに屋敷に招いて酒を飲み交わしながら、文句を言い合うぐらい仲が悪いな」

「それ絶対仲良いじゃろ」

「ハハハっ、本人達は絶対に認めないがな」


 武官と文官は大概仲が悪いもので、ケオネスとヒョードルも仕事では本気の口論ばかりだ。

 逆に言えば本気で意見を言い合える相手として認めているということであった。


「付き合わされる方は迷惑しかありませんがね」


 爺やにしては珍しく愚痴のような発言、しかしこれは当然である。

 ハイネ付きの執事になる前はヒョードルの執事であった爺や。

 屋敷に招いた際は、ず~と酒の入ったおっさん二人のくだらない文句の言い合いに付き合わされてきたのだから。


「話は戻りますが、あれだけ好評だったわけですし、ちゃんこ鍋屋として本格的な店を出せば、まず間違いなく成功すると思われますがいがかでしょう」


 あまりにも忙しく屋台の手伝いに借り出された爺や、三日目だけだが祭の屋台で一番の来客数なのは明らかであり、

「普段はどこで店を出しているのですか?」「店を出したら必ず食べに行きます」などの声も多くあった。


「ちゃんこ食べた人達が喜んでくれたのは嬉しかっただが、店を出すとなるとやっぱり手が回らないと思うだよ」

「そうじゃな、それに好評だったのは値段が安いというのもある、人を雇わねばならぬだろうし、値段を上げねば採算がとれんじゃろうの」

「値段を上げても売れると思いますが」

「カル、店で売ろうと思ったらどんだけ値段を上げないといけないか分かるだか?」

「…店の規模によるが少なくとも今回の3倍~4倍にはしなくてはの」

「高いだな」

「王女が好評、元帥が大絶賛などの売り文句をつければ、それでも客は来ると思うがの」

「でも、今回のように誰でも気楽に食べに来ることは無理だべ」


 屋台ではそれこそ子供でも買いに来れる値段であった。

 実際一日目にちゃんこ鍋を奢ったトーカが三日目にも来てくれた。

 孤児院に暮らしているトーカは決して裕福でない。

 それでも同じ院の子供達も連れてきて人数分買えたのは格安の値段だったからだ。


 余談だが闘技大会での優勝賞金はトーカに渡ってはいない。

 無断で大会に出た罰として孤児院の育ての親が成人するまでお預けしていた。


「ちゃんこ鍋は安く売り、他の料理の値段を割高にすることで、利益を上げるのはどうでしょう?」

「それだとヨコ意外に料理人が必要じゃぞ、腕が良い料理人がの」

「ヨコヅナのちゃんこ鍋と並べても引けをとらない料理人となると厳しいな」


ちゃんこ鍋以外とはいえ、不味い料理に高い値段をつけることをヨコヅナは納得しない。


「料理人に関しましてはこちらにツテがあります、お任せいただければ…」

「あ、思い出しただ…」


 (料理人の話は姫さんも言ってただな)と考えてたヨコヅナが爺やの言葉を遮る。


「清髪剤の件が遅れてるって姫さんに怒られただよ。そっちを先にやらないといけないだ」

「あれは奢らす為の方便じゃろ。あの王女が遅れることを計算に入れてないとは思えぬ」

「じゃあ奢らなくても良かっただか?」

「その場合は呼び出されて説教じゃったろうな」

「お話中のところ失礼します」


 会話の最中に、使用人の一人が入ってきて封筒をハイネに渡す。


「王宮からです」

「…建国祭で問題でも起きたか?」


 封筒を開け中を読むハイネ。


、というやつかな。ヨコヅナにコフィーからの呼び出しだ」

「説教かの?」

「奢り損だべか!?」

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