第129話 脅してみよう
バルバロより敵船団制圧の連絡を受けた俺は、第一ダンジョン船をその場所へと向かわせた。そして、近代的な敵の戦艦へと乗り込む。わあ、甲板もひっろいなぁ。
「近くで見ると、改めてでかい船だと思わされるよ。うちの帆船と違って全部金属みたいだし、この世界ではあり得ないレベルの技術力だよな。どう思う、パー宣教師?」
「………」
俺の目の前には拘束済みの敵指揮官、パー・ワッフルを座らせている。彼よりも先に捕虜としていた宣教師仲間、気絶したシザとロックスも一緒だ。当然、彼らも拘束&クリスとアークの監視を受けている状態である。
「その顔の紋章…… 君が魔王、という事か? 見たところ、人間にしか見えないが……」
「人間にしか見えない、じゃなくて、種族的には間違いなく人間だよ。ただ、生まれつきこんな紋章と魔王っぽい能力が備わっているだけさ。で、君らは―――」
「―――ちょっと、ウィル! これはどういう事よ! 私達が制圧しに行ったら、こいつら全面降伏してるじゃない! 全っ然戦えなかったわよ!?」
「そうだそうだ! 迎撃されなかったから、アタシも砲撃できなかったじゃないか!」
「海賊の花形、移乗攻撃もするタイミングがなかったねぇ。頭、この昂りをどこで解消すれば良いんだい? 今夜にでも晴らしてくれるのかい?」
パーと大事な話をしようとする俺の言葉、シリアスな空気を吹っ飛ばして、うちのバトルジャンキー達が不満そうな声を上げ始めた。大変に仲が良い。
「……悪いんだけど、不満は後でいくらでも聞くからさ、今だけは静かにしてくれない? 今、本気で大事な話をしようとしてるから」
「えっ、なら今日はおかわりし放題!?」
「姐さん、後で何でもして良いって! お触りし放題だって!」
「ほう、何でもか。大きく出たね、頭ぁ」
何でもとは言っていない。おかわりもお触りも、微塵もそんなワード出してない。
「「「………」」」
そして、さっきまでの喧騒が嘘みたいに、シンと静まり返る三人。こいつら……!
「コホン! すまないな、うちのもんはジッとしていられない
「そ、それは……」
「正直に言え」
「クッ……!」
パー宣教師の後ろに立ち、彼の首にナイフを立てるスカルさん。見た目も怖いが、今はそれ以上に声色が怖い。圧も凄い。俺なら泣いてるかもな、これ。
「……神皇国ラヴァーズは神の意思の下、世界の秩序と平和を司っている。僕達が信仰する神はこの地に邪悪な魔王がいるとし、徹底的な浄化を命じた。これら戦力はそれを成す為のものだ」
「浄化?」
「……言ってしまえば、敵戦力の殲滅だよ」
「ハハッ、秩序とか平和とかのたまっていたのに、えらく物騒な事をしようとしていたんだな?」
「事実、君という魔王はいた。その紋章が何よりの証拠だよ」
「貴様ッ!」
「ぐうっ……!」
俺が馬鹿にされたと感じたのか、スカルさんがナイフを持つ手に力を篭め、パーの首筋が浅く斬れてしまう。
「いい、そんな言葉をいちいち気にするな。彼は貴重な捕虜なんだから、丁重に扱ってやれ」
「ハッ、申し訳ありません」
「パー宣教師、すまなかったね。けど、俺の顔にある
「そ、それは……」
そう、俺達は漁師だ。海賊はあくまで副業だし、そもそも戦うにしても、今回みたいな正当防衛ばかりだった。嘘は言っていない筈だ。うん、魔王嘘つかない。
「なるほど。証拠はないが、お宅の神様がそう言ったから仕方がないと、そういう事か。迷惑極まりないな、まったく。ところでさ、パー宣教師は争奪戦について、どこまで知ってる?」
「……何の事だ? 争奪戦?」
「あれ、知らないのか? お宅の部下から、この船はパー宣教師が開発したもんだと聞いているぞ? これだけの超技術を開発した宣教師なら、神様から力を授かっているもんだと思ったけど、勘違いだったかな? じゃあさ、パー宣教師はここに来る前に、ラヴァーズの上司から何か預からなかった? その上司にとって一番大切な、それこそ
「……先ほどから何の話をしているのか、さっぱり分からない。ふざけているのか?」
パー宣教師は、あくまでも争奪戦について知らない姿勢を貫くらしい。が、事前情報から彼が元神の駒である事は割れている。つまり、嘘をついているって事だ。まあ、ぶっちゃけそこはどうでも良くて、問題は彼ら宣教師が『慈愛』の秘宝の在処を知っているかどうか、なのだが。
「パー宣教師はああ言ってるけど、実際のところはどうだ?」
「彼、嘘をついています。争奪戦と秘宝の話をした時、心が揺らいでいました」
俺の肩で姿を消していたジェーンが、ここぞとばかりに姿を現す。感情の動きに敏感なジェーンであれば、僅かな動揺も察知する事が可能。ここまで接近した状態、それもパーに意識を集中させていれば、それは大変に正確なものとなる。言ってしまえば、嘘発見器も目じゃない精度なのだ。
「なっ!? び、美少女!?」
……驚くのは仕方ないとしても、その反応の仕方はどうなんだろうか? まあ、確かにジェーンは美少女ではあるけれど。
しかし、まさか『慈愛』の秘宝を知っているとは、良い意味で予想外だった。てっきり、本拠地にいるアイ自身が持っているもんだと思っていたからな。 ……ん? そういえば、秘宝は駒から離れようとしないとか、そんな性質があると前に聞いたような気がするけど、その辺の関係はどうなっているんだろうか? まさか、本国のどこにあるのかを知っているってオチ? それだと大分肩透かしになっちゃうなぁ。
「パー宣教師、アンタが『魔導の神』の駒として、争奪戦に参加していた事はもう知っているんだ。そして『慈愛』の秘宝がどこにあるのか、アンタが知っているのも今分かった。変に意地を張らずに、在処を言った方が身の為だぞ?」
「し、知らないと言っているだろ! 本当に何の事だか分からない」
さっきよりも明らかに動揺している。嘘がバレたからなのか、ジェーンに確認する必要がないくらいに分かりやすい。
「なんだ、うちの船員を疑うのか? ……仕方ない。パー宣教師が教えてくれないのなら、アンタの部下と同胞達に死んでもらうしかないな。ほら、必要な情報はパー宣教師が全部知ってるみたいだし?」
「なっ!?」
「いやいや、何で驚くんだよ? 俺らは副業で海賊をやってんだぞ? 当然の話の流れじゃないか。じゃ、まずはそこで気絶してる―――」
「―――ま、待ってくれ! 言う、言うから!」
殺す演技と演出まで、わざわざ準備していたんだが、パー宣教師はその前に観念して待ったをかけた。彼は思っていたよりも仲間想いであるらしい。
「ひ、秘宝の場所は―――」
それからパー宣教師の言う、秘宝の隠し場所を確認させてもらったんだが…… 何と、その場所はこの旗艦の一室であった。何重にも隠されながら保管されていたのは、ハートを真ん中から真っ二つにしたような形をした、質素なブローチ。これが『慈愛』の秘宝なのだという。まさかの秘宝発見、その喜びも束の間、ここで一つ問題が発生する。
「パー宣教師、俺が触っても何も起こらないんだが、これって本物なのか?」
あの神様の部屋にも行かないし、なくなった記憶が再生されもしない。
「……少なくとも、アイ様からはそのように伺っている」
「えっと…… 嘘じゃないみたい、です……」
その言葉が真実であると、ジェーンのお墨付きを頂戴してしまう。ええー……
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