第48話 探索

 それから何事もなくアークは山を下り、俺達の下へと戻って来た。しかも登る時より更に時間を短縮し、ダンダンダァーンと三度の飛び降りで済ます豪快っぷりだ。挫けない、挫けないぞ俺は。


「見て来たわよー。上から見下ろした感じ、こことは逆側の岩山の一部が崩れていたわ。そのおかげで海の水が入り込んで川みたいに…… ウィル、聞いてる?」


 いかんいかん、少し気が散ってしまっていた。いい加減、アークのハチャメチャ性能にも慣れないと。


「……慣れたら慣れたで、それもまずいような気がする」

「もう、やっぱり聞いてないでしょ?」

「あ、ああ、すまん。どうしようか少し考えていてさ。そこから島の内部に行くとしよう。それでその川、船は通れそうか?」

「うちの規模の船なら幅は問題ないと思うけど、問題は川の深さね。十分な水深がないと、海の船じゃ船底がつかえて転覆しちゃうわよ?」

「船は川には入らず、このまま海で待機が安全そうですね」

「だな。まずは安全の確保が第一、港の整備はその後でも十分に間に合う。じゃ、船とボートでその川とやらを探そうか。っと、その前にメールメール」


 本来ダンジョン内でしか使用できないメール機能であるが、配下モンスターの召喚よろしく、俺周辺であればここでも使える。という事で、トマとリンに移動する旨のメールを送信。トマは文字の読み書きがまだまだ怪しいところがあるけど、リンなら完璧に理解してくれる筈だ。


 ……リンが指示してくれたんだろう。船が移動するのを目視で確認。それに伴い俺達もボートで島の反対側へグルリと半周。どこだどこだと島を注視していると、アークの言っていた川を発見する事ができた。壁と壁の間を覗くと、奥には湖らしき空間が広がっている。川っていうよりかは、島が三日月型になっていると言い表した方が正しいかもしれない。


「よーし、このまま探索の第二フェイズだ。島の中心地に進んでくれ。皆、警戒を怠るなよ」

「ゴブゴブー」

「ゴッブ!」


 すいすい~とほとんど揺れる事なく、ボートが島の内部へと進んで行く。たとえボートであろうと川であろうと、ゴブリン達の操船技術は輝いたままだ。その頼もしさはアークにも負けていない。


「おおー…… 綺麗なもんだな」


 岩山の壁を抜けて更に水上を進むと、先ほどチラリと見えた光景の全貌が明らかになってきた。無機質に感じられた外側の岩肌とは打って変わって、壁の内部は様々な木々、色鮮やかな花々で溢れている。水も透明で綺─── あ、いや、今は黒く染まってしまっているが、まあダンジョンの機能を解除すれば美しい感じになるんだと思う。


「グゥルルルルゥ……!」

「キィキィ!」


 ただし、そんな豊かな自然より聞こえてくるのは、どう考えても獰猛な何かとしか感じられない恐ろしい鳴き声だった。うん、知ってるよ。危険度Dだもんね。前もって分かっていた事だ。


「もう何体かには目を付けられているわねー。安全を確保するって話だったけど、襲い掛かって来るモンスターは倒しちゃって良いのよね?」

「ああ、それで構わない。食べられそうな奴なら、できれば原型は残しておきたいかな。ほら、食料になるだろ?」

「フフフ、俄然やる気が出てきたわ。魚も良いけど、やっぱり女の子は肉を欲するものよね!」

「その思想で全ての女の子を巻き込むのはどうかと思うけど、材料が手に入ればクリスが美味しく調理してくれるのは間違いないぞ」

「はい、頑張って美味しく仕上げます!」


 という事で、湖のほとりにボートを着け、島の探索を再開。もちろん、ゴブリンらとスカルさん率いるボーンウルフ部隊も展開済みである。


 アークを先頭に生い茂る草木の中を掻き分け進む、という隊列が無難ではあるが、ここは安全性を重視して、それよりも先にボーンウルフを広く展開。どこかに危険が潜んでいないか、斥候として活用している訳だ。危険度Dの敵に対し、ボーンウルフのステータスは少々頼りないが、スピードだけならばこちらに分がある。接敵する前に引き返してくれれば、十分にこの大任を担えるのだ。


「……今ノトコロ、我ガ僕ヲ警戒シテイルヨウデス。複数デ行動スル狼型モンスターグループガ一ツ、木々ノ上ニ陣取ル猿型モンスターガ何体カ見受ケラレマス」

「同じ狼でも、こっちは骨だもんな。警戒しない方がおかしいか。それに猿、猿か…… 木の上からの落下物にも注意!」


 ボーンウルフの警戒網、そしてさっき山の上からアークが見た景色を参考に、この地を歩き回る。この辺りにもヤシの成る木があったりと、全体的に南国風の森といった印象だ。我慢できないほど暑い! という訳でもないが、歩き回ると軽く汗ばむ程度には暑い。でも地面を踏み締めるこの感じ、やっぱり良いものだよ。記憶は飛んでるけど、素直にそう感じる。今となっては海の上での生活にも慣れたもんだが、流石にずっとは厳しいもんなぁ。


「ガァウオゥ!」


 陸地の探索開始から数分後、痺れを切らしたのかモンスター達が茂みより飛び出して来た。茶と白色の毛が入り混じった狼のグループである。面構えは歴戦の勇士を思わせる獰猛なもので、肉があるせいかもしれないが、骨身のボーンウルフよりも一回り大きなサイズに見える。しかし、そのボーンウルフが事前に知らせてくれていたおかげで、既にその茂みから出現する事は把握済み。臨戦態勢、万端ですわ。


「肉ぅー!」

「ガァ───!?」


 誰の叫びかまでは言わないが、果たしてどちらが肉食なのか。声の主の放った伸びる鉄球が、先頭を走っていた狼の頭部にヒット。肉の潰れる嫌な音を奏でる。ええと、確かに胴体は無事なんだろうけどさ、それはどうなんだろうか……


 味方の俺がそう思うのだから、敵さんはなおさらだろう。狼さん達は突然の破壊神の降臨に動揺したのか、それとも先の一撃で力の差を思い知ったのか、明らかにアークを避けるようにしてこちらに向かおうとしている。しかし『全武器適性』スキルの効果により、アークの鉄球の鎖はリーチを無視して追撃が可能。手足に繋がれた三つの鉄球は自由自在に伸縮し、大人しく肉になれとばかりに狼達は屠られていく。


「あ、二匹逃した」


 運良くアークから一番遠い位置にいた狼二匹が、死に物狂いの全力疾走でアークの背後へと抜ける。彼らの目的は既に狩りなどではなく、如何にしてこの場を生き抜くかに切り替わっている。だが残念な事に、その先に待ち構えるのはゴブリンクルーの集団だ。一対一で良い勝負、それなら複数で挑むのが筋ですよね。


「ゴッブ! ゴーブー!」

「ガゥ、アウゥ───……」


 左右の狼それぞれに武装したクルー三体で応戦させ、これを確実に仕留める。数の理、敵が正常に思考できていないのもあって、狼型モンスターとの戦いは無傷で終了。こいつは幸先の良いスタートだ。


「キィー!」


 と思ったのも束の間、今度は木の上に陣取っていた猿達が、ヤシの実を投擲してきやがった。実の他にも貝殻やら言葉にできない汚物やら、何でもかんでもお構いなしに投げている。真上にも注意喚起してたから良いけどさ、精神が酷く傷付くので投げるものは選別してほしい。いや、混乱させる目的で投げてんのか。おのれ、策士め。


「クリス、早急にあいつらを仕留められるか? 森を燃やさない方向でお願いしたいんだけど」

「お任せください! 私だってマスターに、良いところをお見せできますので!」


 そう言ってクリスは宙に矢を模った炎を作り出し、次々と猿達へと放ち出す。貫通力に特化しているらしいそれら炎は正確に猿のみを貫き、早々に戦闘を終わらせてしまった。な、何だかアークにも負けない凄まじいやる気だ。クリスの良いところ、家事全般だけでも毎日ちゃんと拝見してるよ?

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