頭の中身

エテンジオール

第1話

ここにいるはいったい何なのかと、目の前に広がる赤い海を見つめながら、数年来抱え続けていた疑問を考える。

決して大きいとは言えない浴槽の中に広がる二、三リットルほどのわずかな命と、それが抜けたために軽くなってしまった、肌色だった塊。


確かにそれは、ほんの数時間前までは息をしている人間だったはずのものだ。毎日同じことばかり繰り返しているから、ひょっとしたら機械仕掛けなんじゃないかと思って試しに分解してみて、おおよそ目をつけていた部分のどこを見ても光沢のあるパーツを見つけることができなかったそれだ。


だから、きっとそれは人間だったのだろう。

そう考えたら、少し申し訳ない気持ちになってきた。人間を殺すことなんて、これっぽっちも望んではいなかったのだから後悔した。


後悔しながら考えを続ける。


これは確かに人だった。それは一つのデータとして非常に参考になるものかもしれないが、果たしてその事実は他のものも人であるという証明になるのだろうか?

確かに他のものと比べて類似性は高い。けれど、一例だけで全てを判断してしまうのはあまりに危険だ。


は考えた。そして目の前にある人間がまだ生きていたころにその番として扱っていたものが帰ってきたことを玄関の開く音とその戸惑いの声から察し、息をひそめると後ろからにじり寄って手にしたロープで首を絞める。

番は、少しの間じたばたと抵抗した後、体から力を抜き、倒れこんだ。


はその番を浴槽まで引きずり、先ほどの人間にしたのと同じように分解していく。

数時間かけながらじっくりくまなく探し続けたが、の求めていた光沢のあるパーツが見つかることはなく、また人間を殺してしまったと、は嘆いた。


このまま確認を繰り返していたらまた人を殺すことになってしまうのかもしれないと、は思った。そしてもう一つだけ確認出来たら人を殺してしまったことを自首しようと決めた。




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その数時間後、血まみれの男が警察署に現れた。

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頭の中身 エテンジオール @jun61500002

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