第三章 誘拐事件のリンク

第11話 捜査会議(前編)

 捜査本部は大抵大きな会議室で開催されるのが常だ。理由は単純明快、捜査一課全員が対応するためである。このときになったら、たとえ仲が悪かろうと連携していかなくてはならない。捜査一課一丸となって事件の解決にあたるのが、警察官としての役目なのだから。


「それではこれから捜査会議を開始する」


 一課長の隣に座っている周防警部補がそう切り出した。周防警部補は一課長の補佐――という訳でもないけれど、それに近い役割を担っている。今回で言えば、捜査会議の司会進行役などといった形。


「被害者は嘉神浩、四十七歳。嘉神製薬の代表取締役社長を務めています」


 前の席に立っていた堂島刑事が言う。

 嘉神製薬。胃腸薬や鎮痛剤など様々なジャンルの薬品を開発している、この国を代表する医薬品メーカーだ。確か世界的に流行したウイルスのワクチンをいち早く開発して、世界から喝采を受けたとか聞いたような気がする。それぐらい世界が注目している会社だ。世間には無頓着なぼくだって知っているのだから。


「そして誘拐されたご令嬢が……嘉神眉美、十九歳です。私立霞ヶ丘大学経済学部の二年生で、本日東京キャンパスを出てから行方が分かっていませんでしたが、その矢先嘉神製薬の問い合わせメールフォームに、ご令嬢を誘拐したという内容のメールが送られてきました。それと、ファイル転送サービスのURLが」


 ファイル転送サービス?


「……その、ファイル転送サービスには何が入っていたんだ」

「縄で縛られて、猿ぐつわをされたご令嬢の写真です。それを見た被害者から連絡を受けた次第です」

「……犯人は非道な人間であることは間違いないだろう。見せびらかしのために、それをしたのであれば、極めて重大な犯罪だ」

「犯人の要求は?」


 周防警部補の問いに、少し離れた席に座っている間中刑事が言った。


「十五億円を要求しています。詳細は追って連絡する……とも」


 十五億。

 一人の人間を誘拐して得ようとするお金にしては、大層な金額じゃないか?


「十五億……どうして犯人はそんな規格外の数字を要求した?」

「可能性として挙げられているのは、近年の流行病に対するワクチンによって得た利益であると推察されます」


 そういえば、そのワクチン開発によって株価が十倍近くに上がったんだったか――実際上がった時は色々なニュース番組で話題に上がっていたような気がする。時価総額も実質十倍に跳ね上がったなんて言っていたし。


「……私はその辺り詳しくないのだけれど、ワクチン開発でそれだけの利益を得られるのか?」

「そりゃあ、世界各国が渇望していた品ですからね。期待値も高いでしょう。それに、嘉神製薬は百年近い歴史を持つ老舗メーカーです。そのポイントに関しても、やはり評価されるとは思いますが」


 確か、アメリカの大手医薬品メーカーと資本提携をしたとかどうとか言っていたような。

 その頃から、あの会社は売国企業だ、なんて不買運動が起こっていたとかニュースでやっていた気がする。まあ、昔あったテレビ局へ対するヘイトと同じ扱いだよね。あのときは『嫌なら見るな』なんて誰かが言ったような言わないような、良く分からないけれど、そんな感じの言葉がインターネットに広まったせいでそのテレビ局離れが加速したとか。今でも嫌いな人は居るんだろうな、きっと。


「ふうん……ご令嬢の無事は?」

「それが未だ……です」


 報告で初めて声を詰まらせたのは、新人の足利くんだ。ぼくの三つ下でもうバリバリ新人刑事として頑張っている。……でも、一応ここに入れたということはそれなりにエリートってことになるんだろうけれど。


「犯人からの連絡が来ていないから、か?」

「はい。犯人からの連絡は一度きり。……メールからの連絡だけです。IPアドレスも特定しようとサイバー対策室が試みていますが……どうやら複数の国を経由しているようで、場所の特定には至っていない、と……」


 まあ、当然だろう。十五億円という法外な(誘拐事件に法外も法内もないんだけれど)金額を要求しているような連中が、IPアドレスを簡単に開示させるはずがない。そんな簡単に身元が割れるなら、とっくに嘉神製薬から情報を得ているはずだ。

 

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デコレーションキラー VR探偵事務所ファイル 巫夏希 @natsuki_miko

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