第9話 第一の考察(後編)

「要は『笑う』ってことだにゃー。日本のインターネットでもそういうことは起きているんだよ? 聞いたことないかな、笑うことに対して『草を生やす』とかさ。あれって、元々(笑)から来ているんだよね。そんでもって、それが略されたのがアルファベットのW。それが葉っぱみたいに見えるから、草……そうして、草を生やす=笑うに繋がった訳。案外面白いもんだよ、ネット文化ってねー」


 そういうものなのか。

 ぼくはあんまりスマートフォンを使わないから分からないのだけれど。ほら、あの、何て言うんだっけ? スタンプ? そういうのは使うけれど。


「LINEスタンプも結構バリエーションあるから良いよね。ま、私は仕事には使えないけれど。流石にクライアントにピカチュウの了解スタンプ押したら不味いでしょ」

「……それはぼくも同じことだな」


 もし仮に上司にLINEを送るとして、何かしらのスタンプで返答したら即日呼び出されてお説教タイムが始まるだろう。いくらインターネットがここまで浸透したからといって、やって良いことと悪いことはある訳だ。……マナーを覚えるのが増えて、面倒臭い世の中になったのは紛れもない事実だけれどな。何だっけ、確かテレワークのウェブ会議にもマナーを持ち込んできたんだっけ?


「……で、その英文字はそれしかないのか。他に何か解釈は?」

「ヒントがあるとするなら、日付かにゃー?」

「日付?」

「このメッセージが書かれている日付は、五月四日。五月四日って何の祝日だったかにゃー? 昭和の日?」

「みどりの日じゃないかな。誕生花は……ヤマブキとなっているね」

「へえ、良く知っているね。調べたことでもあるのかにゃー?」

「……ぼくが使う手帳にそう書かれているんだよ。誕生花が日記のページに書かれていてね。コラムとメモページが沢山あるから重宝していたのだけれど……まさかこんなところで役立つとは思いもしなかった」


 もっとも、その機能は全く使いこなせていなかったから、ぼくにとっては無用の長物であったのだけれど。


「しかし……これがどういう意味を成すのだろうか。ダイイングメッセージとみて間違いないと思うのだけれど」

「ダイイングメッセージは、死んだときに残すメッセージだ。これは違うよ」


 いとも簡単に否定されてしまった。


「でもまあ……これが何かの事実を示していることは間違いないだろうね。それが何であるかは、誰も分からなかったのだろうけれど。犯人もこの手帳を隠さずにしておいたのは、情報を引き出せなかったか、或いはこの暗号が無関係だったかのいずれかに当たる訳だにゃー」


 個人的には、前者であることを祈るばかりだ。


「……流石にこれじゃ解けないよな?」

「どういう暗号なのか、さっぱり分からないからにゃー……。ただまあ、解析してみる価値はあると思うにゃー。いずれにせよ、この事件は未だ解決するには時間がかかるのにゃ。であるならば、プロセスを踏んでいく必要があるのにゃ」

「プロセス?」

「一言で言えば、段取りだにゃー。言い方を変えたと言えば良いのかもしれないけれど」


 そこまで麗奈が言ったところで、ぼくの持っているスマートフォンが震えた。ただ震えただけではなく、長く震えるのを繰り返している。このバイブレーションをしているのは、着信があった時だけに限られている。

 画面を見て、そこに書かれていた名前にぼくは辟易した。その名前は、出来ることなら今見ておきたくない名前であったからだ。


「……麗奈、ちょっと電話をするよ。良いかい?」

「私と違って雅人くんは警察組織というしがらみに絡みまくっているからしょうがないのにゃー。でも、事務所の角っこでよろしくねぃ」


 そう言って麗奈はパソコンに目線を移す。これ以上話すことはない、ってことか。ぼくはそう結論付け、急いで移動すると電話に出た。


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