第8話 第一の考察(中編) 

「……ふうん。雅人くんにしては良い着眼点だと思うにゃー」

「ぼくにしては、って何だよ。ぼくだって一端の警察官だ。それぐらい考えることだって出来る」

「まあ、それは別に言わなくても分かるところではあるにゃー……。で、もう一つの方は?」

「もう一つ?」


 ぼくの言葉に、麗奈はばつの悪そうな表情をする。


「民生委員だよ。そっちも当然調べているんだよね?」

「そりゃあ、それをするのが仕事だからな……」


 手帳のページを捲って、その聞き込みを記したページを見る。


「民生委員……名前は蛇崩アリスというらしいな。凄い名前だが、何でも家族が不思議の国のアリスの作者が好きだったからこう名付けたらしい。まあ、おっとりとしているというか、どこかつかみ所がないというか、今で言うところのゆとり世代ってこういう物なのかもしれないね」

「ゆとり世代は私も雅人くんも同じだにゃー……。ふんふん、じゃあその民生委員にアリバイと動機は?」

「殺すはずがないと言っていたよ。そして、アリバイもある。その日は家でリモートの仕事をしていたらしいが……急遽会議が入ったらしいんだ。テレビ会議って奴だな。ZoomとかSkypeとか使っているのかもしれないが……それをしていて、会議に参加した多くの人間が、彼女が会議に参加していたと証明している」

「その会議の時間は?」

「午前十一時半まで行われていた。だが、彼女の家から現場までは、どんなに急いでも一時間はかかる道のり。死亡推定時刻は正午と言われているから……はっきり言って不可能だな」

「ふうん。……じゃあ、会議の後は?」

「会議の後? まあ、仕事をしていたんじゃないか? 蛇崩さん曰く、民生委員はテレワークで仕事が出来ないけれどちゃんとした職場に行かなくて良いから良い仕事ですよ、とは言っていたけれどな。でもまあ、足で稼ぐとは良くある話だし、何でもかんでもそれが適用される訳ではないけれど」

「それが古臭い考えなんだにゃー。うんにゃ、或いは価値観の間違い?」


 ゆるふわロールケーキを食べ終えて、ご満悦の様子の麗奈。

 麗奈はその後ずっと手帳を見ていた。無論、ぼくの持っている警察手帳ではなく、被害者の家に落ちていた手帳だ。


「ところで、一つ。雅人くんに聞いてみたいことがあるのだけれど」

「何だ。ゆるふわロールケーキのおかわりなら了承しないぞ」


 そうじゃなくて。麗奈はそう言って手帳のあるページを僕に見せてきた。

 そこには綺麗な筆記体で、こう書かれていた。

 アルファベットのエル、オー、エル。


「LOL……?」


 何だろう。何かの略称だったりするのだろうか。


「この『LOL』が何だって言うんだ、麗奈」

「それが分からないから、苦労しているんだにゃー」


 気づけば、パソコンに目線を向けている麗奈。キーボードを鬼のように打ち込んでいる。まるで仇を見つけた剣士の如く真剣だ。剣士だけに。

 というか、それぐらいのスピードでタイピングしていたら、キーボードがぶっ壊れないか?


「あー、やっぱりそうだよね。LOLと聞いてぱっと思いつくのは二つ」

「二つ?」

「一つはオンラインゲームの略称。そしてもう一つはスラングだね。それもアメリカの」

「スラング?」

「若者言葉とでも言えば良いかな。やばいとかウザいとかKYとか、そういう言葉を指していると思ってくれれば良いよ。ニュアンス的にはそれに近しいものがあるから」


 その言葉も古いような気がするけれど――それについてはあまり考えない方が良いんだろうな。麗奈もぼくも、どちらかと言うと今の人間ではない気がするし。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます