第4話 エナジードリンク

 ぼくはゲームには詳しくないから、こういう上辺だけの意見しか言えない訳だけれど。そういえば最近はゲーム絡みの犯罪も多いって聞いたことがあるなあ。一番聞くのは遊ぶ金欲しさで強盗とかやるらしい。それにゲーム内でのいざこざが原因で現実でも事件を起こしてしまうとか。……そういうのがあるから、現実でゲームに対する反応が冷ややかなものになるんじゃないかなあ。


「まあ、そういうことを解決するのが私って訳」


 サンドイッチをエナジードリンクで流し込み――それ、絶対身体に悪いぞ――彼女はぼくにこう言った。


「で、その事件……未だ解決していないのかい?」


 ぼくはそれを聞いて、漸く仕事の話が出来ると安堵の溜息を吐いた。

 そうだよ。仕事の話だ。ぼくはそれがしたかったから、わざわざこんな雑居ビルまで足を運んだ訳だ。


「解決していないから、君に話が来ている訳だ。……だとしたら、それがどういう意味であるか、それは君には分かるよな?」

「つまり、仕事の依頼」

「ああ、そうだ」


 さっきも言ったような気がするけれど、それについては気にしない。

 VR探偵たる彼女は、やっぱり何処か抜けているのだ。


「事件に軽い重いはないのだけれど……この事件は警察の中では『軽い』案件になっているんだ。つまり、そこまで人員を割けないという訳。だから、この事件をきちんと追っているのは未だ若者であるぼくだけ」

「警察も人手不足ってこと?」

「権力とかそういうのが色々と混ざり合っているってこと」

「面倒なら、辞めたら? そういうのも分かっていて、警察官になったんじゃないの?」

「……ぼくは君みたいにスパッと辞めることは出来やしないよ」

「私は定職についた覚えはないけれどね」


 そう。

 仕事の辛さについて語ったところで、企業に就職したことのない彼女に何にも響かない。

 馬に念仏とはこのことを言うのだろうな。


「そりゃ、馬耳東風ってものだにゃー。私はそういう意見には耳を貸さないタイプなの。貸したところで、何にも意味がないことぐらい重々承知の上だからにゃー」


 にゃーにゃーうるさいが、これは彼女の昔からの口癖。決して猫の語尾をつけることで可愛さをアピールするような、あざとい女子の考えから来ているのではなく、単に彼女の言葉が間延びしたような感じだからである。つまり、最初からこうなったのではなく、段階を踏んでこうなったと言えよう。というか、長年一緒に居るからそれぐらい分かるのだ。


「……で、それはそれとして。実際、どうなの? その事件。感じからしてまーったく進展してなさそうだけれど?」

「君の予想している通りだよ。事件は全くと言って良いほど進展していない。だから君に依頼をかけた。迷宮入りしそうな事件でも解決してしまう、名探偵である君に」


 どうして天才というのは、自分の周りに転がっているものなのだろうか――いや、転がっているというのはちょっと表現としては不適切か。でも天才というのは、毎回見る度に自分とは違うのだなということをまじまじと見せつけられているような気がする。僕の勘違いであるならば良いのだけれど。


「では、どういう風に事件を解決すれば良いのか? 先ずは警察の資料を見せてもらうことにしようかな」

「では警察に向かうかい?」

「雅人くん、私が何と呼ばれているか分からないで言っているのかな?」


 くるくると椅子を回しながら、彼女は言った。

 彼女はつまらなそうな表情を浮かべていたけれど、それはぼくが見当違いなことを言い続けているからだろうし、ぼくもそれについては理解している。けれど、やっぱり初めてのことだから皆に説明しておかないといけないだろう? 誰に、って? それは言わないでおいた方が良いだろうね。うん。言ったらそれはそれで面倒なことになるし。

 ともあれ、先ずは彼女の質問に対する回答を。


「そりゃあもう……」


 彼女の名前は名嘉原麗奈。

 世界初で日本初。初物尽くしのVR探偵だ。

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