第一章 仮想現実のオフィス

第2話 VR探偵事務所

 このぼく、柊木雅人は警視庁捜査一課の刑事である――一言で言ってしまえばそれで解決してしまうのだけれど、しかしながら、それを望んでいない人間ばかりであることも事実だった。であるならば、さらにぼくのことについて明確かつ詳細に説明していかねばならないということについて、いくつかの面倒くささという問題はあるものの、何とかクリアしていかねばならないと考えていた。

 とはいえ、今はそんな自問自答に付き合っている場合ではない。今ぼくが立っているのは、飲食店などが入っている雑居ビルのエレベーターだった。エレベーターは古い型で、ゴウンゴウンと音を立てながらゆっくりと上に上がっている。

 五階に止まったのを確認すると、ちょうど扉が開かれた。扉の目の前には、少しのスペースがあり、そこが階段の場所となっていた。何度もここにやって来ているから分かるけれど、人の往来もやっとのこのスペースで、階段を利用する人は居るのだろうか?

 ガラスが付いたドアには、このような表札がぶら下げられている。

 名嘉原VR探偵事務所。

 VRという文字が気になってしまうけれど、探偵事務所という名前だけを見てしまえば、この雑居ビルにあるのも何となく頷ける。探偵事務所って、マンションの一室や一軒家にあるイメージはないもんな。

 ぼくは、ここに何のためにやって来たか、って?

 捜査令状を持ってきて強制捜査をするため?

 個人的に悩みがあるから解決して欲しいため?

 答えはノー。そのいずれも該当しない。そもそもただの探偵事務所ならばそんなことを頼もうとは思わない。なのにぼくがこの探偵事務所にやって来たのは、色々な理由が重なっているためであって――。

 ドアをノックして中に入る。部屋に入ると、仕切りが幾つか設置されていて、それに沿って進んでいくと、薄暗い室内に到着する。マッサージチェアみたいなゴツゴツした椅子に腰掛けて、ゴーグルのようなものをかけている彼女は、下着姿でそこに居た。一応人が入るかもしれないんだから、ちゃんとした格好をすれば良いだろうに。そう思ったけれど、言ったところで何も変わらないのは目に見えている。何年の付き合いだと思っているんだ。


「……おい、もしかして、ゲームをやっているのか?」


 手にはゲームパッドがあった。そしてデスクトップパソコンぐらいの大きさがある大きなゲーム機は幾つかのランプを点灯していた。大方あのゲーム機で遊べるゲームでも遊んでいるのだろう。……ああ、失敬。彼女の場合は、遊んでいると言うよりは『仕事をしている』のかもしれないけれど。


「……あれ? その声はもしかして雅人くん? 何か用事でもあったっけ?」

「お前の事務所には予約しないと来ちゃいけないのか。……用事だよ。それもとびっきり重要な。そっちは?」

「ういうい。ちょっと待ってて。今セーブするから……。はい、セーブ完了っと。じゃ、ログアウトするねえ」


 そう言ってしばらくすると、ゴーグルのランプが消灯する。それを合図に、彼女はゴーグルを外した。彼女はゴーグルの下に赤い眼鏡をかけていた。視力が弱いのだから別にそれについては文句を言うつもりはないが――だが、痛くないのだろうか?


「はい、お待たせ。……で、何の用事?」

「ぼくがお前に用事があるときとしたら、アレしかないだろ」

「事件の依頼だね?」


 話が早くて助かるよ――ぼくはそう呟いて、スーツのポケットから写真を取り出す。その写真を彼女に見せると、彼女は首を傾げながら写真を直ぐにこちらに返却してきた。


「誰? 彼女」

「今からそれについて説明するところだ……。ええと、昨日午後二時頃、泣いている子供の声を聞いて虐待かと思った地域住民が警察と児童相談所に通報した。そして、警察と児童相談所が中に入ると、彼女の遺体が見つかった。……しかし、ただの遺体じゃない」


 ぼくはもう一枚見せる。それはただの写真じゃない。言ってしまえば、それを見せるというのはあまりにも性格が悪くて――。


「うわ、かなりグロテスクだね、これ」


 その写真は、殺人現場。被害者の霧前あずさが殺された現場の写真だ。中心には遺体も映し出されている。そして、その遺体は――不可解な『飾り付け』がされていた。

 

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