第24話 門番待機室でのお仕事
69 雨が続いた朝
ここ2日雨が降り続いた。
雨が降ったら討伐系の仕事はお休み。
でも村付き冒険者だから一応見回りはする。
村をぐるっと廻って魔獣や野獣が侵入しないか確認するのだ。
村は広いし高低差も大きい。
それに雨が大変さに拍車をかける。
足元が悪くなるしオーク皮のオイルドレザーマントでも長時間以上歩くと中に雨が浸みてくるから。
一応半時間毎に魔法で乾かしたりはするけれども。
だから男子3名と女子3名にわけ、午前中は男子、午後は女子の担当にしている。
「やっと家が近づいて来たぜ。夏なのに雨が降ると寒いし疲れるよな」
「山のかなり上のほうですしね。寒いのは仕方ないですよ」
なんて言いながら2時間かけて無事に午前の部を終了。
家に戻る。
「どうだった」
「午前の時はアウスタ地区の上から雷魔カモシカが近づいていた。氷魔法で追い払ったけれど一応注意しておいてくれ。他の地区は特に動きは無かった」
「あととにかく寒い。半時間ごとにハンスに魔法で乾かして貰ったけれど、それでも寒いぜ」
「ライバー以外は自分の魔法で乾かせるから大丈夫よ」
そんな会話をしながら雨で濡れたマントをかけて、魔法でじっくり乾かしていたところだった。
『失礼します。冒険者の皆さんは在宅でしょうか。いましたら事務所へお願いしたいのですけれど』
ラウルさんからの伝達魔法だ。
『わかりました。すぐ行きます』
ミリアが返答する。
「仕事よ」
「今帰ったばかりだぜ」
「仕方無いよ。村付きだしね」
乾かし終わったマントを再び着装して、すぐ近くである事務所へ。
「見回りの後すぐで申し訳ありません。今し方、下の見張り場から連絡が入りました。川が増水して合流地点の水位がかなり上がってきているそうです。下からの魔物や魔獣襲撃に備えて、下の門番待機室に数名の待機をお願いします。雨中なので攻撃魔法や弓を使える方がいいです」
そう言えば最初の説明でもあったな。水位が上がると魔物や魔獣が下から上ってくる可能性があるという事は。
「わかりました。それじゃ見回りと編成を少し変えるわよ。私とライバー、フィンでこれから夜7の鐘まで門番待機室、それからハンス、アンジェ、モリさんの組が交代して朝7の鐘まで。以降その繰り返し。村の見回りは簡略ルートで1日1回。それでいいわね」
「ああ、問題ないだろう」
ミリアの班分けの理由はだいたい想像がつく。男女混合にして、かつ夜の組は暗視を使える面子を揃えた訳だ。ライバーとフィンは暗視を使えない。ライバーはともかくフィンが使えないというのは正直不思議なのだけれども。
「それじゃライバー、フィン。出たばかりだけれど行くわよ。アンジェ、後で差し入れお願い。お腹に溜まるものがいいわ。あとは夜に備えて寝ている事。何かあったら魔法で起こすから」
「わかった。差し入れは何がいい?」
「俺はいつもの店の串焼きがいいな。そろそろ開くだろ」
「あとはふわふわトーストの甘焼き、あのパンに水飴と牛乳浸してバターで焼いたもの、モリさんに作って貰って。疲れて寒いと甘い物が欲しくなるから」
「ああ、あのショーンがよく作っていた奴、あれ美味しいよね」
「わかった。帰ったらすぐ作るよ。門番さんは何人くらいいるかな」
「常駐は6名です」
「わかりました」
打ち合わせをして別れる。
家に帰って早速モリさんは差し入れを作りはじめる。
俺はライバーお気に入りのあの串焼き屋へと買いだしに。
家から商店街の店まではすぐだ。
「すみません。注文いいですか」
「雨で客がいないから大歓迎だ。魔獣肉の在庫は無くなってしまったけれどな。飼育した奴のなら出せる」
確かに雨だと出歩かないからな。
なら思い切りよく注文してやろう。
「ならそれで、軟骨、背肉、もも肉を18本ずつ」
小銀貨5枚ちょい飛ぶがまあいいだろう。
そして自分達の分も、と考えて更に追加。
「あと別包みで同じく軟骨、背肉、もも肉を18本ずつお願いします」
「大量注文ありがとよ。じゃあちょいちょいっと焼くか」
既に串に通した状態の肉が自在袋に入っているようだ。
これをさっと並べ、タレを塗りながら魔法でじゅわっと焼き上げる。
何とも言えないいい匂いがあたりに立ちこめた。
この匂いが人を呼ぶんだよなと思う。
今日は生憎の雨でどこも窓や戸を閉めているけれど。
「それにしてもずいぶんな量だな。非常食かい」
「水位が上がったから冒険者も門番詰め所待機になりました。その差し入れです」
「そっか、大変だな。じゃ端数はサービスだ。正銀貨1枚で」
「ありがとうございます」
そんな話をしながらも店のおっさんは魔法で熱を通してタレを塗ってを繰り返す。
「それって何度も熱を通さなきゃならないものなんですか」
「ああ。最初は表面を固めて中の旨味を閉じ込めるように、次は中まで柔らかくなるようにと熱を通すやり方と順番があるんだ。タレも1回じゃいい具合に絡まねえ。さっと塗って焦げるぎりぎりまで熱を通しての繰り返しだ。まだ俺の焼き方もこれで完成って訳じゃない。経験を積みながらの一生もんだな」
そういえばショーンも同じように加熱方法を使い分けていたな。
この辺は魔獣退治の攻撃魔法と同じか、さらに複雑な使い分けがあるようだ。
何ともいえない香りが立ちこめ、肉がきれいな飴色になったところで完了。
おっさんが大きい葉っぱで串焼きを包む。
「ほい正銀貨1枚。あとこっちの包みはサービスだ」
更に9本おまけしてくれた。
「ありがとうございます」
頭を下げて包みを受け取り自在袋へ仕舞う。
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