第83話 祝勝会

 そこから俺は問い詰めようとしたが、酒が巡り饒舌となったゼラには、結局上手く逃げられてしまった。というか、とあるドッキリを仕掛けられて、それどころじゃなくなった。


「ベクト、大黒霊討伐おめでとう!」

「お兄ちゃん、おめでとー!」

「お、おめでとうございます。帰って来てくださって、本当に安心しました……」


 酒瓶片手に逃げるゼラを追いかけて酒場の扉を潜るなり、そんなお祝いの言葉が俺を出迎えてくれたんだ。サンドラ達は拍手をしてるし、酒場のテーブルには見た事もないご馳走が並んでいるし、簡単にではあるが、アリーシャの花で部屋の飾り付けまでされてある。


「こ、これはもしや……?」

「そう、兄ちゃんの祝勝会だよー」


 ななな、何ですと!?


「ベクトが出掛けている間に、ゼラから大黒霊について教えてもらってね。要するに、冒険者が高ランクのモンスターを狩りに行くもんなんだろ? それも、街中がこぞってお祝いするような、すっごい強い奴!」

「ですからベクトさんが戻って来られたら、私達でお祝いしようと話し合いまして。流石に街が一丸となってするような祝宴とまではいきませんが、精一杯準備させて頂きました」

「………」

「ん? ベクト、急に黙ってどしたん?」

「……いやー、今まで気を張った探索続きだったからさ、こう、嬉しいサプライズは完全に予想してなかったというか…… んと、うるっと来ちゃったかも」

「アリーシャ知ってるよ。それって、嬉し涙って言うんでしょ?」

「そう、そうなんだ。アリーシャは物知りだなぁ」

「でしょ~」

「うふふ、喜んで頂けたようで何よりですね」

「ほーら、めでたい席なんだから、泣くのはそこまで! ベクト、アンタの席はここだよ!」


 その後、俺はサンドラに背中をバンバンと叩かれ、イレーネの手料理に舌鼓を打ち、アリーシャの花畑奮闘記に耳を傾けながら、ゼラに酒をなみなみに注がるのであった。黒檻に来てからというもの、色々と苦労や危険はあったけど…… 今この瞬間だけは、俺にとって本当に最高の時間だよ。


「ベクト、私の酒が飲めないとでも? まだいけますよね?」

「いや、面倒臭い酒の絡みをしろと言ってる訳でもないからな!?」


 ゼラが妙な絡み方をして来る事もあったけど、総合的に考えれば最高の時間だったのだ。


『絡んで来る時、ゼラの胸が当たって気が気でなかった? 相棒、良い感じに纏めておいて、心の底ではそんな事を考えておったのか。相棒も男の子じゃの』


 ダリウスさん、どうかその事は御内密に……! 進化したその姿で使うから、切に切に……!


『おっ、マジかの!? しっかたないのう、男と男の約束じゃぞ!』


 ウン、分カッタヨ…… ぐっ、こんな事で約束をしてしまうとは、ベクト一生の不覚!


『ところで相棒、以前の探索中に化け宝箱から発見したあの小剣、まだ鑑定していなかったのではないか?』


 え? 小、剣……? あ、ああー! すっかり忘れていた! 大黒霊の巣の発見、ステータスの急成長、決戦前の激励会と色々あったから、まだゼラに見せてなかったんだっけ…… よし、今回の探索で見つけたていで行こう。


『うお、微妙にせこい』


 今回ばかりは甘んじて受けようじゃないか、その言葉。


「という訳でゼラさんゼラさん、ちょっと見て頂きたいものがありまして」

「どういう訳か微塵も分かりませんが、何でしょうか? 今ならコップ一杯で許して差し上げます」

「揺らがないなぁ…… だが、俺はやる時はやる男! 本日の主役の力、見せてやるよ! ング、ング、ング…… ぷはぁっ! どうだ!?」

「あ、はい。解析が終わりました。こちらが鑑定品の情報です」

「せめて見て!?」


 本当にフリーダムな案内人だよな、ちくしょう!


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共鳴の小剣(腕装備)

威力 :+3

効果 :この装備で倒した黒霊からも力を得る事ができる。

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 ほう、共鳴の小剣か。サブウェポンとして使えそうだな。この武器で倒してもダリウスは強化されるみたいだし、能力はなかなか良さ気。ただ、腕装備か…… 盾と併用できるのか?


「んー、やっぱり駄目か。剣を持ったら、自動的に盾が装備から外れちゃう。新しい装備も魅力的だけど、大黒霊戦での活躍振りを加味するに、盾の方を優先するかなー」

「あら、装備でお悩みですか? でしたら、今回の成果で入手した『融合』を使ってみては如何でしょうか。ひょっとしたら、その二つの装備が適合するかもしれませんよ」

「えっ? その霊刻印って、装備品にも有効なのか? てっきり、黒霊を合体する力だと思っていたんだけど……」

「黒霊だけでなく、装備やアイテムもいけますよ。レベル4ともなれば最大で四体、もしくは四アイテムまで融合の対象とする事ができます。もちろん、掛け合わせられる場合とできない場合があり、対象の数を多くするほどにできない場合が増えていきます。但し、上手くいけば黒霊と装備を融合させる、なんて事も可能でしょうね」

「お、思いの外に融合パターンが多岐に渡りそうだな、それ…… まあ、取り敢えず試してみるのもアリか。ゼラ、新しく入手した霊刻印の空き枠に、『融合』を刻んでくれ」

「はい、どうぞ」


 融合、装着。


「ちなみにさ、融合の組み合わせを決めて、それができるできないって事前に分かるものなの?」

「大黒霊の巣の境界を感じるのと同じように、感覚的に分かるものと言いますか…… 百聞は一見にしかず、試しに盾と小剣に触れてみてください。融合の条件は対象に触れている事、あとは融合する事を心の中に思い浮かべれば、探索者の本能が自ずと教えてくれます」

「ふーん?」


 言われるがままに右手で剣を、左手で盾に触れ、融合融合と心の中で反復する。あ、本当だ。感覚的に分かるわ。これ、融合できちゃうわ。


「……融合できるっぽいけど、どうしよう? 万が一に劣化するって事はあるのかな?」

「アイテムや装備品の場合、基本的にはより希少で価値のあるものに変わりますね、基本的には」

「微妙に含みのある言い方をしますね、ゼラさん」


 しかし、どうするかな。両方ともかなり良い装備だし、これ以上のものが出来上がるのであれば、融合しない手はないと思う。どっちにしろ、二つに一つしか腕には装備できないんだし……


「よし、決めた。融合してみるよ」

「ふむ、良い覚悟じゃの。おーい、皆の衆! 相棒が小粋な手品を見せてくれるそうじゃぞ!」

「えっ、本当に!?」

「わーい、見たーい!」

「ベクトさん、そんな事までできるのですか?」


 調理場でデザート作りをしていた三人を、わざわざダリウスが呼び出してしまった。まあ、見ようによっては手品に見えるかもだけどさぁ…… 良いよ、皆の前で見せるよ。ほら、行くぞ?


「ええい、ままよっ!」

「何その掛け声!?」


=====================================

刃の太陽(腕装備)

威力 :+3

頑強 :+4

魔防 :+4

効果 :投擲するとよく飛ぶ。上手く飛ばすと、不思議な力で戻って来る。

    この装備で倒した黒霊からも力を得る事ができる。

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 ……無事に完成、したのか? 見た目は盾のままだけど、説明文が二つの装備をそのまま掛け合わせたものになってる。名前も――― ん、んんっ? 刃の太陽?


「フリスビーと剣が合体しちゃった!」

「おお、確かにこれは凄い隠し芸だねぇ」

「わあ、わあ~(パチパチ)」


 アリーシャ達からの受けは良かったみたいだ。特に、イレーネは目を輝かせながら拍手までしてくれている。うん、ありがとう。そういう芸でもないけど、ありがとう。あと、これフリスビーじゃなくて、一応盾だから。


「でも、見た感じ剣の要素はないんだよなぁ。名前からして、もっと刃でトゲトゲしてるもんかと思ったけど」

「お兄ちゃん、お外でこの新しいフリスビー、投げて来ても良い? 投げ心地を確かめたいの!」

「ん? ああ、それは構わないけど…… いや、まずは俺が確認するよ。何か嫌な予感がする」


 その後、全員で酒場の外へと移動。俺はニュー円盤(盾)のグリップ感を入念に確認しながら、これを何もない空間に向かって投じてみた。


 ―――ジャキン!


 耳に届いたのは何やら物騒な音、そして俺は目にする。俺の手から離れた瞬間、盾の側面から無数の刃が飛び出したのを。ああ、なるほど。それで刃の太陽であると、納得納得。


「……で、どうやって戻って来たアレをキャッチするの、俺?」

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