これまでのプラトニックレイン シーズン1 シーズン2 ver2.5

これまでのプラトニックレイン(シーズン1)

彼は確かに、魂の胎動を聴いた。


身体中を駆け巡る血が、今この時だと言っている。


彼=辻山憂歌は、生まれたての小鹿のように、震えながら立ち上がった。


「何かが・・・違う!?」


憂歌は感じていた。


もはや自分の身体が、自分だけのものではないように感じていた。


憂歌が立つその真っ暗な部屋には、3人の男女がいた。


3人とも、大きな窓から、富士の大樹海を見つめていた。


真ん中に立つセクシーな美女は、私立探偵兼売春婦の「藤村岬」。


右に立つ大男が、遊び人の元プロ野球選手、「海津丈」。


左の車椅子に座っているのが、メガネの頭脳明晰、「名護龍樹」。


憂歌にとっては先日知り合ったばかりの、仲間と言えるかどうかの仲間たちだった。


超薄型のノートパソコンをタイピングする龍樹。


「この屋敷を取り囲むビスコムの熱反応・・・、912・・・、いや、共喰いを始めているのでしょうか? 900を割り込みました!」


白のブラウスに黒のタイトスカート、ナイスバディな岬は、ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。


「まんまと吉崎にハメられたね・・・。空か地下しか脱出口がないよ・・・」


背中に背負う金属バットを、震える手で握りしめる丈。


「だからわしは嫌やったんや! 能力者とかビスコムとかどうでもええねん! わしは楽しゅう遊んで暮らせたら、それでよかったんや!」


紫煙を吐く岬も、目の前の光景には動揺を隠せなかった。


この、富士の樹海にそびえたつ、吉崎巧の屋敷に、憂歌と岬と丈と龍樹は閉じ込められた格好だ。


それを取り囲むように進軍してくるのが、「人ならざる化物」、ビスコム。


宇宙の遥か彼方に存在する「究極生命思念」フルオッグの放つ波動によって、地球に住む、心穏やかならざる者は「ビスコム」という魔獣に変容させられてしまう。


フルオッグと言う者の思想信条はさておき、心が穏やかではないという理由だけで化物や魔獣に変容させられてしまう人類もたまったものではない。


能力者・・・!?


身体中からほとばしるパトスを身に感じながら憂歌は思った。


「そうだ・・・。俺たちは、ビスコムと戦うために覚醒を始めたアンチビスコム・・・」


アンチビスコムとは、風や火や地や水の属性を持つ能力者の組織。

 

月に眠る「対フルオッグ用最終兵器」、超古代文明の遺産「ジーザス・エンド」によって選別された、少数の戦士たち。


「俺は・・・。覚醒したのか・・・!?」


憂歌の身体から激しくパトスはほとばしり、その異変に岬、丈、龍樹が振り向いた。


「憂歌・・・! 気を失っていたんじゃなかったの!?」


「お前、まさか覚醒したんか!?」

 

ノートパソコンを凝視する龍樹。


「辻山さんの戦闘ゲージ、上昇中! パトスの値が1000を超えてます!」


金色に輝く憂歌の身体を凝視する岬の、咥えタバコの灰が床に落ちる。


「だってあんた童貞じゃん! セックスを経験しないと能力者は覚醒しないはず!!」


窓の外と憂歌を交互に見ながら、丈も続く。


「わしらの中で覚醒してるのは、わしとこのヤリマンだけのはずや!」


ノートパソコンをタイピングする龍樹。


「異性と性交渉を持たずに覚醒したアンチビスコムなんて、前例がありません!!」


憂歌の足元に、風のエネルギーが「凝縮」されてゆき、やがて憂歌は「宙に浮いた」。


「風の属性・・・。これが風の能力か!?」


憂歌は一陣の竜巻のように、風となって屋敷の天井をぶち破り、空へと舞い上がった。


岬も丈も龍樹も、それを唖然と見つめるしかなかった。


屋敷のはるか上空で竜巻状態を解除した憂歌は、屋敷と、それを取り囲む何百というビスコムの群れを俯瞰した。


「聖戦」が始まることを、憂歌は予感した。


「で・・・。なんで俺童貞なのに、風の能力に目覚めたんだろ・・・?」


富士の樹海のはるか上空に浮かぶ憂歌は、大地をうごめくビスコムの群れに顔をしかめた。


かつては人だったものが、化物というか魔獣のような、グロテスクな変貌を遂げている。


「フルオッグ・・・。こうもたやすく人を変容させるなんて・・・!!」


憂歌はビスコムの群れへ向けて滑空した。


翼の生えたビスコムが憂歌を迎え撃つ。


憂歌は「風」を両手で凝縮させて、風のエネルギー波を放った。


エネルギー波は、翼の生えたビスコムを爆散、消滅させた。


「・・・。すみません!」


地上からはビスコムたちが、わざわざ翼を生やし、何十体もの数で憂歌へ向かう。


憂歌は身体を高速回転させ、風のエネルギーによって真空状態を作り出した。


「かまいたち」となった憂歌は、向かい来る翼のビスコムたちを瞬時に切り裂き続ける。


吉崎の屋敷の窓ガラスから、岬と丈は、憂歌の戦いっぷりを呆然と見つめていた。


「・・・。初陣であれだけやれるの!?」


「ヤリマン・・・。なんでお前があいつをリーダーに推すのか、ちょっと分かる気がしたで・・・」


その時、ノートパソコンを見つめる龍樹が叫んだ。


「辻山さんの戦闘ゲージが下がってきています! 965パトス・・・。934パトス・・・。900を割り込みます!」


舌打ちをする丈。


「覚醒したてで張り切り過ぎたんや! 力配分が出来てへん!」


「海津の旦那。ここまで来て、もう戦いたくないなんて言ってられないよ・・・」

 

岬はブラウスのボタンをはずし始めた。


「生き残るためには、降りかかる火の粉は、払わなあかんっちゅーことやな・・・」


服を脱ぎ始める岬と丈の横で、うつむき加減に視線を落とした龍樹は、メガネを押し上げた。


「僕も皆さんのように、覚醒出来ていたら、一緒に戦えるのに・・・」


全裸になった岬は、龍樹の頭をポンと叩いた。


「筆おろしなら、いつでもさせてやるよ・・・」


「でも僕、辻山さんと同じ気持ちなんです! 愛した人じゃなきゃ嫌なんです!」


ポキポキと指を鳴らす、全裸の丈。


「辻山はその、筆おろしなしで覚醒したんや。メガネ。お前もセックスなしで水の属性に覚醒できるかも知れんで?」


「できれば、そうなりたいです・・・」


丈の身体から地鳴りが起こり、丈は「地の属性」の能力を発現させた。


身体が徐々に巨大化し、その皮膚は岩石のように頑丈に変容していく。


「突破口を開くよ! 憂歌がバテないうちにね!!」


全裸の岬の身体が炎に包まれた、「火の属性」の能力の発現である。


岬と丈は、屋敷の窓ガラスをぶち破り、ビスコムの群れめがけ、樹海へと走った。


「かまいたち」となっている憂歌は、地上のビスコムたちをも圧倒している。


憂歌に触れようとするビスコムは、瞬時に肉片と化してしまうのだ。


「こんな不毛な戦い・・・。誰も望んでないだろうが!!」


かまいたち状態を解除し、樹海の大地に立った憂歌の息遣いは荒い。


その時、憂歌は刮目した。


生き残っているビスコムたちが「融合」を始めたのだ。


徐々に徐々に、巨大な魔竜の様相を呈してゆくビスコムたち・・・。


「憂歌! 待たせたね!」


「わしらもちょっとばかしええカッコさせてもらうで!」


片膝をついた憂歌を挟むように、炎となった全裸の岬と、巨岩人間となった丈が現れた。


風と火と地の能力者3人の前で、巨大魔竜ビスコムは、樹海の夜空に激しい雄叫びをあげた。


富士の大樹海の中央、自身の屋敷から数キロ離れた小高い崖の上。


黒塗りのベンツの脇で、スーツ姿の吉崎巧は「聖戦」を傍観していた。


巨大魔竜ビスコムと格闘する、風の戦士辻山憂歌、火の戦士藤村岬、地の戦士海津丈。


吉崎巧は、夜のしじまに幾多の閃光と咆哮を見つめながら、ほくそ笑んだ。


「育てよ、我が同志たち・・・。フルオッグにせいぜい見せつけてやるがいい!」


黒塗りのベンツのドアが開き、セーラー服姿の森山純が降りてきた。


「お兄様・・・。こんな回りくどい真似をしなくても、私たちが手を組めば、月のジーザス・エンドは発動できるのではありませんか?」


巧は聖戦に背を向け、純に向き直った。


「彼らはもっと育たねばならないのだよ・・・。でなければ我々、光と闇の属性を持つ兄弟の足手まといになるだけだ・・・」


「私はまだ、覚醒はしておりません・・・。足手まといは私の方です・・・」


巧は純の左手を取り、その小指にある「傷跡」を確認した。


「さすがは我が妹、6戦士の頂点に立つべき光の戦士よ。とんだ女狐だな・・・」


「何のことですか?」


「セックス未経験者ふたりのうち、より可能性のあるものに、自分の生き血を捧げたか?」


顔色を変える純。


「奴の飲み物に自分の血を入れたのだな? 確かにお前は処女を失うには若すぎる。そして・・・」


再び戦士たちの戦いに向き直る巧は、眉間にしわを寄せた。


「あの車椅子の少年の生き血を飲めば、お前も覚醒できるはずだ。同時にあのメガネ君も、お前の生き血を飲まなければならなくなるがな・・・」


「一過性のものかもしれません・・・」


息をのむ巧。


「能力を永遠に覚醒し続けるためには、やはり性交渉の経験の必要もあるかと思います」


「お前はまだ中学生だ! セックスなどまだ早い! 別の方法を探さねば・・・」


「フルオッグやビスコムの脅威から地球を護るのにも、別の方法が必要なのですか?」


「私の闇の属性と、お前の光の属性さえあれば、フルオッグやビスコムなど、恐れるに足らんはずだ・・・」


身体から「闇のパトス」をほとばしらせる巧。


「ザコはシモベどもに任せておく。私はあえて6戦士の共闘を阻むものとして、フルオッグからも、ジーザス・エンドからも距離を置くのだ。若き女帝を支える闇の騎士、ダークナイトとしてな・・・」


瞳を潤ませる純。


「罪なき人々の変容は続くのですよ! 私にはこの回り道が罪のような気がします・・・」


「罪はすべて私が背負う。防衛省の対ビスコム対策会議室の動きが気になる。行くぞ・・・」


巧と純は黒塗りのベンツに乗り、樹海の聖戦を背に走り去ろうとしていた・・・。


富士の大樹海を舞台に繰り広げられる、巨大魔竜ビスコム対、風の戦士辻山憂歌・火の戦士藤村岬・地の戦士海津丈の、激しいバトルは続いていた。


「海津さんは足を! 岬さんは目を狙って下さい!」


「一人前して、リーダー面して命令しよってからに!」


「旦那! ゴタゴタ言わずに、私を飛ばして!」


巨岩人間となった丈は、力任せに、炎に燃える岬を宙に投げ飛ばす。


下半身を竜巻状態にして飛行する憂歌は、さらにその岬を投げ飛ばす。


炎の弾丸となった岬は、巨大魔竜ビスコムの頭部を吹き飛ばした。


「やったかい!?」


「あかん! 頭部が復元しよる!!」


「もともとが融合によって生まれた巨大ビスコム、いたちごっこか・・・」


憂歌がかまいたちとなって切り裂こうが、岬が炎で焼こうが、丈が拳をぶつけようが、巨大魔竜ビスコムはダメージを復元させ、その力は衰えを見せない。


「・・・! 辻山さん、藤村さん、海津さん! 飛行物体が近づいています!」


吉崎の屋敷に残っている龍樹が、3人にテレパシーを送った。


肩で息をしながら、憂歌、岬、丈は上空を見上げた。


遥か高空の軍用ヘリから、4つの「光」が、樹海めがけて下降しようとしていた。


「吉崎のガキかい!?」


「龍樹君! どこのヘリか確認取れない!?」


「・・・。敵じゃない」


憂歌の言葉に、岬と丈は憂歌を見た。


「敵とちゃうって、ほな一体誰やねん?」


「あの4つの光・・・。人型に見えるけど・・・」


軍用ヘリから降下した4つの光。


それは防衛省対ビスコム対策会議室所属「アンチビスコムズ」だった。


パワードスーツに身を包んだ4人の兵士たちは、それぞれの構えた「対ビスコム用マシンガン」を高空から発砲した。


アンチビスコムズの攻撃に、細胞を砕かれ、大きなダメージを受ける巨大魔竜ビスコム。


3人のパワードスーツ兵士たちが巨大魔竜ビスコムを攻撃する中、ひとりのパワードスーツ兵士が、憂歌・岬・丈の前に降下した。


パワードスーツのヘルメット部が外され、あどけない顔のメガネの女の子が顔を出した。


「オールドタイプの方々は下がって下さい。私は防衛省対ビスコム対策会議室所属、島村美咲であります」


「オールドタイプ!? お前、わしらが古めかしいっていうんかい!?」


激高する丈を抑止する憂歌。


岬だけは、炎の延焼をやめ、冷静に美咲を見つめていた。


「島村さん。パパは元気?」


「藤村対策会議室室長の事ですか? 実の娘であるあなたの戦いぶりは、あのヘリのモニターからご覧になっていますよ」


憂歌と丈は顔を見合わせた。


「ヤリマン! お前の親父は防衛省の偉いさんなんか?」


巨大魔竜ビスコムが最後の咆哮をあげ、爆発四散した。


3人のパワードスーツ兵士たちは、対ビスコム用マシンガンをスーツに収納し、憂歌、岬、丈の元へと向かってきた。


彼らのヘルメットが外され、アンチビスコムズ「真紅の三巨星」、原田耕人、甲斐流吾、冬馬蒼介の素顔が現れた。


「オールドタイプ。ざまぁねえな?」


「超能力戦士なんて、時代遅れだよな?」


「島村リーダー、任務完了致しました、ってね?」


「みなさーん! ご無事でしたかー!!」


車椅子を転がして、龍樹が戦士たちの元へとやってきた。


巨岩状態を解除した丈は、軽く舌打ちをした。


「わしらが主役や思てたのに、何やこの展開・・・」


燃える樹海を背にさっそうと立つ4人の、真紅のパワードスーツ戦士たち。


原田耕人、甲斐流吾、冬馬蒼介、そして島村美咲。


彼らに対峙する、風の戦士辻山憂歌、火の全裸戦士藤村岬、地の全裸戦士海津丈、いまだ覚醒していない、車椅子の水の属性の戦士名護龍樹。


闇の属性の戦士吉崎巧と光の属性の戦士森山純はいずこへ・・・。


4人のオールドタイプアンチビスコムと、4人のパワードスーツアンチビスコムズを、朝焼けが照らし始めようとしていた。


君は雨女だったので「レイン」というあだ名を、僕はつけた。


デートの日には、決まって雨が降った。


晴れた日のデートなんて記憶にない。


いつも相合傘で、街を歩いたっけ。


レインとは、専門学校で同じクラスだったので、そこで出会った。


偶然自販機の前で会い、好きな缶コーヒーの銘柄が一緒だったので、そこからたびたび話すようになった。


お互い趣味がよく似ていた。


純文学からマンガアニメまで、創作物が好きだったこと。


同じプロ野球チームのファンだったこと。


犬や猫より、鳥が好きだったところまで一緒だった。


僕としては、当然レインを異性として意識し始めたし、彼女もまた同じだろうと思っていた。


でも、レインはちょっと違ったんだ。


どことなく陰を帯びた表情を見せるのを、僕は見逃さなかった。


レインは、心の奥には何か大きな悩みを秘めているんじゃないか?


僕はそんなレインの苦しみさえ受け止められるような男を目指したんだ。


専門学校の修学旅行で三重県に行った時、レインとは砂浜でふたりきりになった。


身体の関係こそないとはいえ、僕も努力して、そこそこレインに頼られるような男になっているつもりだった。


「中学生の時、レイプされて、妊娠して、その子を堕胎したの・・・」


レインの告白は、僕には重かった。


正直、受け止められるかどうか自信がなかった。


その時、レインがなぜ、いつもリストバンドをしているかの意味も分かったんだ。


リストカットの傷跡を隠していたんだ・・・。


僕はあの時、どうしてレインにもっと優しく出来なかったんだろう?


若さなんて言い訳にならない。


正直僕だって女性経験がなかったし、出来る事ならレインと結ばれたかった。


でもそれは叶わない。


性行為はレインにとってはトラウマなんだ。


お互い進路が別々になって、僕は中小企業の営業、レインは地元の事務職の職に就いた。


お互い仕事が忙しくなって、自然と疎遠になってしまっていた。


レインのTwitterのタイムラインには、ネガティブな言葉が見受けられるようになっていたが、僕自身もパワハラもどきの扱いを受けていたので、レインの事を気に掛ける余裕もなかったんだ。


ある日を境に、レインのタイムラインは更新が止まった。


その時僕は、人生史上最も深い後悔をすることになってしまったんだ。


レインは職場でのセクハラが原因で「自殺」してしまっていたんだ。


僕は会社を辞めてニートになった。


親には迷惑をかけたが、もう何もする気力も失っていた。


もっとレインを大切にしてあげるべきだったんだ。


それができるのは僕しかいなかったんだ。


プラトニックな淡い恋愛だったけど、今でもレインを深く愛している。


もう恋人なんて要らない、一生童貞のままでいい。

 

「憂歌・・・。まだこっちに来ちゃダメよ・・・」


レインのハスキーな声が脳裏に響いて、僕は夢から覚めた。


「レインー!!」と叫んで、憂歌は目覚めた。


そこは対ビスコム対策会議室ビルの処置室のベッドの上だった。


デスクトップパソコンのモニターを見るのは、島村美咲。


「血圧、脈拍、体温・・・。一般人レベルに戻っています」


その横にいた藤村岬は、ホッと胸をなでおろした。


「島村さん、憂歌のパトスは?」


岬に向き直る美咲。


「一般人レベルです。風の属性の能力者としてのパトスは失われています」


「どういうこと? 昨晩は私たちと一緒にビスコムと戦えていたのに?」


「原因は不明です・・・」


憂歌はゆっくりと身体を起こした。


自分はどうやら気を失っていたようだ。


いきなり岬や丈や龍樹に拉致されたこと、一緒に吉崎の屋敷に向かったこと、能力者とかビスコムとかジーザス・エンドとか、いろいろ説明を聞いて混乱したこと。


そして、あの屋敷で紅茶を入れてくれた中学生の女の子、吉崎の父親違いの妹という森山純が、どことなくレインに似ていたこと・・・。


そして気絶した後の能力者としての覚醒、ビスコムとのバトル・・・。


憂歌は、全てが遠い過去のようにも思えていた。


「岬さん。ここはどこですか?」


ふたりの「ミサキ」が憂歌に向き直った。


「あっ、いや・・・。藤村さん? えっと、島村さんでもいいけど?」


「ここは対ビスコム対策会議室ビルですよ」


龍樹が車椅子で、処置室に入ってきた。


「辻山さん、童貞だったなんて嘘なんじゃないですか? 昨日の戦いっぷり、まさに能力者そのものでしたよ?」


「いや、俺は童貞だし、そもそもなんで風の能力が発現したのか、自分でもよく分からないんだ・・・」


龍樹は憂歌の言葉を聞きながら、チラチラ島村美咲の顔を見て、頬を染めた。


岬の女のカンが働く。


(・・・。龍樹君、こんな女がタイプなのか・・・)


美咲のスマホが鳴った。


電話に出る美咲は、そんな龍樹の視線に気づくことはなかった。


「藤村室長からです。これからオールドタイプの聴聞会を開くそうです。すでに海津さんは聴聞室にいらっしゃるそうです」


露骨に岬が不機嫌そうな顔をした。


「オールドタイプって・・・。それ、パパが名付けたの?」


「いえ、藤村室長が名付けたのではありません。イギリスの量子物理学者、アレックス・ハートロッカー博士の命名です」


ため息をつく岬。


「勘当されて3年、ひさびさにパパとご対面か・・・」


「3年・・・。私が室長と知り合ってから、3年になりますね」


「その頃から、フルオッグやビスコムの存在は認知されていたの?」


「はい、国連規模で認知され、私たちが訓練を受け始めたのがその頃です」


ベッドから降りた憂歌は、靴を履いた。


「行こう・・・。世界規模でどんな被害が出ているのかが気になる」


「私が肩を貸すよ、憂歌」


「私もお手伝いします」


憂歌は岬と美咲に挟まれて、両手に花の状態になった。


龍樹はチラチラ、チラチラと美咲を見ながら、車椅子を移動させた。


(この人が相手なら、僕は喜んで能力者になる、オールドタイプになる!)


憂歌と岬と美咲と龍樹は、それぞれ複雑な思いを抱きながら、聴取室へ向かうのだった。


重要なキーパーソン、藤村省吾の待つ聴取室へ。


隣のビルの屋上から、吉崎巧が監視している、聴取室へ。


対ビスコム対策会議室ビル聴聞室は、普通の会議室と大差なかった。


丸テーブルを囲み、憂歌、岬、丈、龍樹と、オールドタイプ能力者が座り、彼らを睨み据えるように、対ビスコム対策会議室室長、軍服姿の恰幅のいい壮年、藤村省吾が、モニターを背に陣取っていた。


島村美咲は、モニター横でデスクトップパソコンを操作している。


省吾と岬は、実の父と娘は、互いに睨み合っていた。


「バウンティハンターといえば聞こえはいいが、女の身体を武器に犯罪者を拘束。おまけに非合法に拳銃まで所持するとは・・・。とりあえず内ももに装備している拳銃をテーブルに置きなさい」


岬は黒のタイトスカートをまくり上げ、デザートイーグルをテーブルに置いた。


「そんな勘当したお前が、よりによって能力者、オールドタイプだったとはな」

 

「あのイケメン3人衆はどないしましたんや? あんな頼りになる連中がおったら、わしらみたいな能力者は要らんでしょうが? わしは帰らせてもらいますで?」


丈が省吾にかみつく。


「とりあえず状況を教えて下さい。ビスコムはどれくらい繁殖しているんですか? パワードスーツのアンチビスコムズは国連規模で、世界中に配備されているんですか?」


憂歌が省吾に詰め寄った。


「モニターを見て下さい」


美咲がパソコンを操作し、省吾の背にあるモニターを表示した。


世界地図が表示され、赤色に染まった場所や、点在する青色の場所が点灯する。


「各大陸、主要都市部にてビスコムは増殖中。それを阻止すべく、各国のアンチビスコムズが排除を開始しています」


冷静に状況を語る美咲の顔に、龍樹は見惚れている。


(女神だ・・・。天使だ・・・。運命の出会いだ・・・)


省吾はテーブルに肘をつき、両手を組み、ため息をついた。


「解せんのは、オールドタイプ、いわゆる能力者が、関東近郊に6名しか存在しない事だ・・・」


指を折る丈。


「わしとヤリマンとメガネと憂歌・・・、あと吉崎とあのお嬢ちゃんやな?」


立ち上がる岬。


「私たちこそが、月に眠るジーザス・エンドに選ばれた、正当な能力者であるはず! いずれ世界中に、私たちと同じ能力者が覚醒するはずよ!」


「それが待てぬから、国連軍はアンチビスコムズ計画を発動させたのだよ。人類の脅威は、人類が排除せねばならぬ。当然の摂理だ」


睨み合う、岬と省吾。


その時、部屋の片隅に「闇のパトス」が凝縮され、その中から吉崎巧が現れた。


驚愕する一同。


「それがフルオッグの狙いだとなぜ気付かない、藤村室長?」


「お前! ようもえらい目に合わせてくれたな!」


飛びかかる丈をいともたやすく払いのける巧。


「教えてちょうだい! あなたが最初の能力発現者なんでしょ? フルオッグに変容させられたビスコムの増殖は、これからも続くの?」


デザートイーグルを巧に向けて構える岬。


「ビスコムを殺した人間はビスコムになる。やがて全世界のアンチビスコムズはビスコムに変容するだろう。だがその方が私にとっては都合がいい・・・」


巧を包む闇のパトスは凝縮し、やがて巧は闇の鎧を着た「闇の騎士」となった。


「私はビスコムを倒し、そのパトスをエネルギーとして生きて行かねばならぬ・・・。ここへやってきたのは、3体のエサを倒すためだ・・・」


憂歌と美咲が立ち上がった。


「3体のエサ? あの真紅の三巨星の事か!?」


「ビスコムを排除した人間がビスコムに!? それじゃ全世界のアンチビスコムズは!?」


そして対策会議室ビルは地響きを立てて揺れ、大きな咆哮が響いてきた。


激しく顔色を変える省吾。


「原田と甲斐と冬馬が・・・、ビスコムに・・・!?」


「能力者こそが真のアンチビスコムであることを、今から私が証明する!! ビスコムを殺して無事なのは、能力者だけなのだからな!!」


闇の騎士「ダークナイト」となった巧は、高らかな笑い声をあげた。


夜の東京を逃げ惑う人々の群れ。


紅蓮の炎を吐く原田ビスコムは、その巨体でビル群を揺らす。


天空を舞う、翼の生えた甲斐ビスコムの吐くレーザーメスは、車道の車たちを吹き飛ばしてゆく。


アスファルトを疾走する冬馬ビスコムは、漆黒のマントをひるがえす甲冑の騎士、ダークナイト吉崎巧を圧倒していた。


手に持つ聖剣「ダークソード」で、果敢に「元」真紅の三巨星ビスコムに立ち向かう吉崎も、焦りを隠せなかった。


「これまで私が戦ってきたビスコムとはけた違いだ! この聖剣ダークソードも歯が立たぬとは!?」


3対1の戦いに、歴戦の勇者吉崎巧も、さすがに苦戦を強いられていた。


半壊寸前の対ビスコム対策会議ビルのエマージェンシールームに、憂歌・岬・丈・龍樹の4人のオールドタイプ、そして藤村室長と島村美咲がいた。


スマホ片手に藤村室長が叫ぶ。


「総理! ですから自衛隊や機動隊の出動はお控え下さい! ビスコムを殺した者はビスコムになってしまうのです! 警官隊を人命救助に回して下さい!」


メガネを押し上げた美咲は、エマージェンシールームの計器を操作し始めた。


「室長のご指示ですので、これより【BURST】モードを起動致します・・・」


「バーストモード・・・。なんやそれ?」


「予算の関係で4体しか開発されなかった、これらのパワードスーツは、本来オールドタイプの能力を最大限に引き出すために作られたものなのです」


「4体・・・。私と海津の旦那は使えるとしても、今の憂歌と龍樹君は・・・」


「はい。辻山さんと名護くんは、今すぐ能力者として覚醒する必要があります」


憂歌と龍樹は、思わず息を飲んだ。


「能力者でも、覚醒しないままパワードスーツを使い、ビスコムを殺してしまえば、今の原田や甲斐や冬馬の二の舞になります。辻山さんと岬さんは今すぐ別室へ。龍樹くんは、私が担当します」


鼻血を垂らしながら、龍樹が叫んだ。


「人命救出のため! 日本の、世界の平和のために! 名護龍樹! 童貞を卒業させて頂きます!!」


エマージェンシールームの格納庫が開き、4体のパワードスーツが姿を現した。


美咲が計器を操作し終わると、4体のパワードスーツの胸に【BURST】の文字が輝き始めた。


「・・・。嫌だ・・・」


憂歌の呟きに、岬が顔をしかめた。


「なんだよ憂歌? 私じゃ筆おろしには役不足だっていうのかい!?」


「違う・・・。俺は、童貞を捨てたくないんだ・・・」


憂歌の脳裏には、かつてのプラトニックな恋人、レインの面影がよぎっていた。


「童貞を捨てるくらいなら、世界平和なんかどうだっていい・・・」


岬は憂歌の横っ面にビンタを喰らわせた。


「甘ったれたこと言ってんじゃないよ!? あんたの童貞と人類全体の未来、天秤にかけりゃ、どっちが重いと思ってるんだい!?」


憂歌は、電話が終わった藤村室長に向かって言い放った。


「俺はビスコムになってもいい。生身のままパワードスーツで出撃します」


エマージェンシールームの全員が、憂歌の発言に硬直した。


「あの吉崎が苦戦するほどの相手やぞ! わしら覚醒者でも、パワードスーツに頼らな、生きて勝てるかどうか分かれへんねんぞ!」


「憂歌、黙って私に抱かれな。このままもし吉崎がやられたら、6戦士のひとりが欠けることになる。欠けるのがあんたであっても、同じことなんだよ!」


「辻山さん、冷静になって下さい! なぜそんなに童貞にこだわるんです? 僕なんか、ひとめぼれした人に誘われて、まるで夢のようだ!!」


口を滑らせた龍樹が、思わず赤面した。

 

憂歌は拳を震わせるしかなかった・・・。


「・・・。レイン・・・」


原田ビスコムと甲斐ビスコム、冬馬ビスコムの共闘に圧倒されるダークナイト吉崎巧。


巧は今、闇のパトスを全開にして必死に戦い、エマージェンシールームの異変に気付く余裕すらなかった。

 

【これまでのあらすじ】


童貞ニート辻山憂歌は、謎の3人組に拉致される。


女バウンティハンター藤村岬、巨漢の関西弁の遊び人海津丈、車椅子のメガネ少年名護龍樹。


車中で彼らは憂歌に語った。


宇宙の彼方の究極生命思念「フルオッグ」が発動したこと、地球に住む心穏やかならざる者は、魔獣「ビスコム」に変容させられてしまうこと、そして、それらの脅威に対抗できるのは、アンチビスコムという「能力者」であること。


岬は火の属性の能力を持ち、丈は地の属性の能力を持っていた。


しかし風の属性を持つ憂歌の能力と、水の属性を持つ龍樹の能力は発現していなかった。


能力者は「セックス」を経験していないと、能力が覚醒しないのだ。

 

彼ら4人は、富士の樹海にそびえたつ、最初のアンチビスコムとしての能力発現者、吉崎巧の屋敷にたどり着いた。


4人を招集した吉崎巧は、闇の属性を持つ能力者で、すでにビスコムとの幾多の戦いを経験しており、自身がアンチビスコム6戦士のリーダーであることを主張した。


4人に紅茶をいれる、巧の父親違いの妹、光の属性を持ちながら、処女であるため能力が覚醒していないセーラー服の中学生、森山純は、ひそかに憂歌の紅茶に「自身の血液」を混入させた。


意図的に巧は純を連れ姿を消した。


富士の樹海にそびえたつ巧の屋敷は、やがて数百というビスコムに包囲された。


焦る岬、丈、龍樹の傍ら、気を失っていた憂歌は、純の「処女の血」の影響で、童貞でありながら一時的に「風の属性」の能力に目覚め、数百というビスコムに立ち向かう。


岬も丈も能力を発現させ、憂歌と合流、ビスコム同士が融合した「巨大魔竜ビスコム」と戦う事となる。


劣勢を強いられる3戦士だったが、その時、高空から飛来した4体のパワードスーツ兵士が戦いに参加。


原田耕人、甲斐流吾、冬馬蒼介の「真紅の三巨星」によって、巨大魔竜ビスコムは駆逐される。


防衛省対ビスコム対策会議室所属の島村美咲は、アンチビスコム3戦士と龍樹を「オールドタイプ」と呼んだ。


再び気を失っていた憂歌は、対ビスコム対策会議室ビルの処置室で目が覚めた。


岬は、実の父である藤村省吾が、対ビスコム対策会議室室長であることに逡巡していた。


龍樹は、同じ「ミサキ」でも「島村美咲」の方に一目惚れしていた。

 

「アンチビスコムオールドタイプ」4人衆は、聴聞室にて藤村省吾と対峙、世界規模でビスコムとパワードスーツ兵士の戦いが続いていることを知る。


そこへ吉崎巧が現れ、衝撃の事実を告げた。


「ビスコムを殺した人間はビスコムになる。ビスコムを殺して無事なのは能力者だけだ」と。


ビスコム化した真紅の三巨星を倒し、そのパトスによって自身をレベルアップさせようともくろむ巧は、闇の能力により「甲冑の騎士=ダークナイト」となり、戦闘を開始する。

 

省吾と美咲は、4体のパワードスーツを、4人の能力者に装着させようと提案するが、そのためには、いまだ童貞である憂歌と龍樹が「セックスを経験する=覚醒」の必要があった。


美咲とのセックスに期待する龍樹をよそに、憂歌は岬とのセックスを拒む。


自殺した、かつてのプラトニックな関係だった恋人=レインが忘れられない憂歌は、安易に童貞を捨てたくないと、能力者としての覚醒を拒むのだった。


【これからのあらすじ】


憂歌にデザートイーグルを向け、自身とのセックスを迫る岬。


やがてその銃弾は、憂歌の心臓を貫くという、最悪の結果を招く事となる。


元真紅の三巨星ビスコムは、富士の樹海に集結したビスコムの強さとはけた違い。


甲冑の騎士、ダークナイト吉崎巧は苦戦を強いられる。


省吾が封印を解いた「BURST」プロジェクトは、無事に発動するのか?


美咲を相手に、無事に龍樹は童貞を卒業できるのか?


光の属性の処女、森山純はいずこに?


月に眠る超古代兵器「ジーザス・エンド」はいつ発動するのか?


そしてすべてを傍観する、謎の男・・・。


イギリスの量子物理学者、アレックス・ハートロッカー博士の息子、「無の属性」を持つジーン・ハートロッカーとは、いったい何者なのか?


ネオ・アンチ・ビスコム・レジスタンス・スペシャリスト=N.A.B.R.S(ナーバス)とは、いったいどんな組織なのか?


【本文再開】


半壊した対ビスコム対策会議室ビルの、エマージェンシールームの空気は硬直していた。


童貞を捨てることを拒む憂歌に、岬は黒のタイトスカートをまくり上げ、内もものホルスターに装備していた、デザートイーグルを抜き、構えたのだ。


思わず丈が叫ぶ。


「ヤリマン! どないするつもりや!?」


省吾も岬に反応する。


「岬! 気でも狂ったのか!?」


デザートイーグルで憂歌の心臓を狙う岬は、美咲に叫んだ。


「島村さん! 龍樹君を連れて、処置室へ!」


美咲は龍樹の乗る車椅子を押した。


「辻山さん! お先に! 考え直して下さいね!」


美咲と車椅子の龍樹は、エマージェンシールームから去った。


ゆっくりとデザートイーグルの引き金に、自身の人差し指を這わせる岬は、憂歌に。


「憂歌・・・。最後の確認だよ。私と寝る気はないんだね・・・?」


憂歌はゆっくりとうなずいた。


美咲はデザートイーグルの引き金を引いた。


プシュ!という、的外れな音はしたものの、しっかり憂歌の心臓は鮮血に染まった。


「・・・。ヤリマン!」


「岬! なんてことを!」


倒れた憂歌に、丈と省吾は駆け寄った。


しかし、心臓を撃ち抜かれながらも、憂歌は静かな寝息を立て始めていた。


岬はデザートイーグルを内もものホルスターに挿入した。


「バウンティハンターに拳銃は必要ないよ。特に、女の身体を武器にする私にはね。これは麻酔銃。憂歌に撃ったのは、さっき吉崎から預かった、赤いカプセル状の麻酔弾だよ・・・」


丈と省吾は岬を凝視した。


「ヤリマン。吉崎の提供したものを信用するんか?」


「富士の樹海でも、このような状況はあったのかね?」


白いブラウスのボタンをはずし始める岬。


「どうしても憂歌が言うことを聞かないときはこれを使え。と吉崎は言ったんだ。この際信用するしかないだろ? その吉崎自体も、今や外では手をこまねいているんだ・・・」


岬に続いて、ジャージを脱ぎ始める丈。


「なんや知らんけど、あの時みたいに憂歌が覚醒するかも知れんのやな? 降りかかる火の粉を、また払わなあかんのかいな・・・」


ブラジャーを外した岬の、あらわになったEカップのナイスバストに、思わず省吾は目をそらした。


「岬、海津君。パワードスーツで出撃してくれるのだね?」


黒のタイトスカートとショーツを脱ぎ、アンダーヘアーをあらわにする岬は、内もものホルスターも外した。


「パパ、憂歌が目を覚ましたらよろしく」


ジャージを脱ぎ、全裸となった丈も続いた。


「美咲ちゃんと今頃よろしくヤッてる、あのメガネもよろしくな!」


紅蓮の炎が延焼する、コンクリートジャングル、夜の東京の空に、ダークナイト吉崎は叫んだ。


「ダーク・インフィニティーーーーー!!!」


吉崎の握る聖剣、ダークソードから闇のパトスが大量に放出され、その衝撃波は、冬馬ビスコムを爆発四散させた。


片膝をつき、荒い息遣いをする吉崎。


「・・・くっ! 今ので大半の闇のパトスを消費してしまった・・・」


冬馬ビスコムのパトスが、ダークナイト吉崎の甲冑に吸収されてゆく。


「この程度のパトスでは、帳尻が合わん・・・!!」


原田ビスコムの放つ炎と、甲斐ビスコムの放つレーザーメスを、間一髪吉崎は避けた。


「地水火風のシモベども! 何をやっている!?」


「誰がシモベだって!?」


東京の夜空を切り裂かんばかりの「炎のパワードスーツ」岬が、甲斐ビスコムに突撃をかけた。


「いつからわしらはお前のシモベになったんじゃい!?」


東京の大地を震わせんばかりに、「巨大パワードスーツ」丈が、原田ビスコムとがっぷり四つに組む。


「耐熱性も、伸縮性もあるのか!? 侮れぬ、パワードスーツ・・・」


よろよろと立ち上がる吉崎に、岬と丈は声をそろえて言い放った。


「BURSTシステムと呼びな!!!」


「辻山さん! 起きて下さい! 辻山さん!!」


龍樹の呼びかけに、憂歌はゆっくり瞳を開いた。


憂歌の傍らに、龍樹が「立っている」。


「水の属性に覚醒したら、両足の水分や血流を操れて、立てるようになったんです!」


嬉しそうな龍樹は、鼻血をダラダラ垂らしながら、嬉しそうだった。


その奥には、省吾に支えられながら、力なく美咲が立っている。


「辻山さん、自分が金色のパトスを放っていることを、自覚できていますか?」


メガネの奥の、美咲の瞳は心なしか潤んでいた。


憂歌は、自分の手のひらを凝視した。


両手が、金色のパトスに包まれている。


「・・・。これは、あの時感じた、風の能力のパトス!?」


いまだいきり立つ下腹部を押さえながら、龍樹が叫んだ。


「行きましょう辻山さん。今の僕たちなら、十分に戦えます!」


憂歌は、立ち上がりながら省吾を見た。


「岬さんが俺に放った、あの銃弾は何だったんです?」


美咲を支えながら、省吾が咳払いをした。


「よくは分からんが、岬が吉崎から預かった麻酔弾らしい。赤いカプセル状とか? ほら、今君の胸に鮮血のように付着しておるだろう?」


憂歌は自身の左胸を見た。


「まるで血のようだ・・・」


美咲が頬を赤らめながら言う。


「辻山さん。名護くん。岬さんと海津さんはもう出撃しています。どうかふたりに続いて下さい!」


憂歌はゆっくりと頷いた。


夜の東京の空を飛び交う、炎のパワードスーツ、BURST岬と、甲斐ビスコム。


「ちょこまかと! 邪魔だよ! そのレーザーメス!」


原田ビスコムの圧倒的な腕力に、ビルに叩きつけられる、巨大パワードスーツ、BURST丈は、原田ビスコムの放つ炎に焼かれる。


「アツアツアツっ! このガキャ調子に乗りやがって!!」


巧はダークソードを地面に刺し、ダークナイト状態を解除した。


「世界規模でビスコムがこのように強くなっているとしたら、私の手に負えぬ・・・」


その時、激しいうなり声のような音が響いた。


振り向いた巧の頭上には、巨大な「水の竜巻」が接近していた。


水の竜巻を操る、風のパワードスーツ、BURST憂歌と、水のパワードスーツ、BURST龍樹が、空を飛んでいた。


「チームBURSTの諸君! 聞こえるかね!? これよりフォーメーションBURSTだ!」


省吾の指示が、無線で憂歌、岬、丈、龍樹の耳に届いた。


巨大な水の竜巻は、原田ビスコムと甲斐ビスコムを飲み込んだ。


「スーツに付属してる兵器・・・。これやな!?」


「狙いを定めて、一気にやるぞ!」


「この組み立て式バズーカみたいな奴ですか?」


「そうよ! 海津の旦那! 憂歌! 龍樹! 外すんじゃないよ!!」


チームBURSTの4人は、スーツに付属している組み立て式バズーカの照準を、水の竜巻に飲み込まれた、原田ビスコムと甲斐ビスコムに合わせた。


4人が発射したバズーカ弾は、水の竜巻の中の原田ビスコムと甲斐ビスコムを吹き飛ばし、同時に拡散された水は、東京の街の延焼を鎮火させた。


「超能力と科学力の融合に、この吉崎巧が助けられるだと・・・!?」


唇をかみしめる巧の口元から、血が流れ落ちた。


エマージェンシールームの省吾は、歓喜の雄叫びをあげた。


「チームBURST、初陣にて初勝利ではないか!?」


その傍ら、美咲は膝から崩れ落ちた。


その太ももを流れる、ひとしずくの血。


「・・・。島村君! 君、初めてだったのかね!?」


「任務ですから・・・。初めてくらい、喜んで能力者に捧げます・・・」


チームBURSTの4人は、大地に崩れ落ちている巧の元へ降り立った。


「どうやったメガネ、初めてのセックスは?」


「聞かないで下さいよ、海津さん・・・」


「吉崎、あんたから預かった赤い麻酔弾、助かったよ・・・」


憂歌は、巧の元へ膝をついた。


「吉崎さん。なんで俺は、赤い水のようなもので覚醒するんです? あの富士の樹海の時も、俺はあの、赤い水のようなものを体内に取り込んだんですか?」


巧は憂歌に向き直り、不敵な笑顔を見せた。


「あれは純の血・・・。いまだ覚醒していない光の戦士の、処女の血だ!!」


絶句する4人のBURST戦士たちのはるか上空で、原田ビスコムと、甲斐ビスコムのパトスが融合し、新たなビスコムが生まれようとしていた。


が、4人と巧はそれに気づかない。


「憂歌! 貴様の童貞の血、頂くぞ! 純の一時的な覚醒のためにな!!」


巧はダークソードで、BURST憂歌を一閃した。


「なにさらすねん! 吉崎!」


丈が跳ね飛ばされた憂歌を助ける。

岬と龍樹が、ふたりをガードする。


「処女の血に童貞の血? いったいどういうこと!?」


「僕はもう卒業してしまったから、関係ないのかな?」


憂歌の血の付いたダークソードを支えに立ち上がった巧は、空を見上げ青ざめた。


そこには、原田ビスコムと甲斐ビスコムの残留パトスが、新たな融合を始めようとしていた。


廃墟と化した東京の街に立つ、憂歌・岬・丈・龍樹・巧。


東京の夜空に生まれたブラックホール、ビスコムの残留パトスは、巧のみを重力から解放し、飲み込もうとしていた。


巧はダークナイトとして、幾多のビスコムのパトスを吸収し、それを闇のエネルギーとして生きて来た。


残留パトスは、巧のその「闇のパトス」を欲したのである。


巧を助けようと空へ飛翔した憂歌は、巧の腰にしがみつく。


その時、巧の父親違いの妹、光の属性の処女、森山純が現れた。


純もまた、巧を助けようと、聖剣ダークソードで自らの手の甲を切る。


憂歌の童貞の血と、純の処女の血が混じり合い、聖剣ダークソードは「性剣エクスカリバー」となった。


同時に一時的に光の属性に目覚めた純は、性剣エクスカリバーをブラックホールへ振りかざす。


光のパトスは、ブラックホールにかすらず、巧にしがみつく憂歌を直撃した。


ブラックホールに飲み込まれ、行方不明となる巧と、大地に叩きつけられる憂歌。


対ビスコム対策会議室ビルのエマージェンシールームのモニターを見て、省吾と美咲は驚愕していた。


たとえ一瞬にせよ、月の裏側に眠る超古代兵器、ジーザス・エンドが覚醒する条件、地水火風闇光の、6戦士が同時に覚醒したのだ。


だが、エマージェンシールームのモニターは、世界規模でありとあらゆるビスコムが消滅してゆく様子を示していた。


モニターに、金髪の白人男性が現れた。


イギリスの量子物理学者、アレックス・ハートロッカー博士の息子、ジーン・ハートロッカー教授であった。


ジーンは、自身が「無の属性」を持つ「7人目の戦士」であること、その能力によって、世界中の全てのビスコムを消滅させたこと、自身こそがジーザス・エンドの唯一無二の「使徒」であること、そして、ジーンが首魁を務める「ネオ・アンチ・ビスコム・レジスタンス・スペシャリスト」、通称【N.A.B.R.S】=ナーバスが全世界を掌握することを告げた。


【プラトニックレイン ファーストシーズン 完】

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