ヒト・モノ・カネの動きが留まるところを知らないグローバル化の行きつく先を描いた近未来のディストピア物語……というのが読み始めの印象でした。
しかし、これまで難民受け入れに寛容だった欧州各国が軒並み中東アフリカからの難民受け入れ拒否を打ち出し始めた昨今の報道を見ると、国境警備のスナイパーが難民を射殺し始めるのも時間の問題ように思えてきます。いや、すでに始まっている出来事なのかも?
3年前に書かれた作品ということですが、まさに時代の先を見通した視点……この世はどこに行っても所詮は地獄。楽園は死後の世界にしかない……そんな救いようのない世界が、我々の前に現れつつあることを示された気がします。
さりながら、そんな世界でも人は、傷つき、汚され、狂いながらも生きていく。
次から次へと登場する人物の多さに戸惑いながらも、それぞれに魅力ある人物造形の彫りこみの深さに大変関心いたしました。
やっぱり、「濃くてインパクトのあるキャラクター」は物語を面白くさせますね!
世界では様々な問題が発生し、何人もの人々がそれらをニュースや新聞など傍観者として見ている中で、この作品はより近く、より詳しく見ることができます。
世界に存在する不条理な現実。それらを筆者様の巧みな描写で描き出された作品。
とにかく場面に応じての書き込みがすごく、自分は見たこともない光景であるはずなのに頭の中で文字から生まれたイメージを組み合わせて、自然とそれを想像できるようでした。
特に銃への描写、こだわりにはすごいものを感じます。
特に好きな部分は「第27話・襲撃」
様々な人物にカメラのスポットが入れ替わり、登場人物それぞれの思考などが会話や行動で対比的に描かれている。素晴らしい技術だと思いました。杏珠の部分はとても彼女らしさがあって、美しい表現ですね。
文章力という言葉には様々な意味がありますが、間違いなく高い作品。ガッツリ面白いものを読みたい方に、特にオススメしたいです!
人類が抱えた問題を多くの国で共有する、グローバルな現代社会。各国の指導者たちの決断次第で、世界の流れは良い方にも悪い方にも変わるのだと━━たとえば命の価値さえも決まってしまうのだと━━そんなことを苦しいぐらいに考えさせられた作品でした。
全編を通して描かれているのは、難民のいる風景世界。寄る辺のひとつも見出せない、どこまでもどこまでも渇いた砂漠が広がっているような、そんな苦しくも厳しい世界に立つのは、三人の女。
皆殺しにされる運命からなぜか見放され、一人生き残った少女、杏珠。
信頼していた友人に裏切られ、国境警備隊に放り込まれた真衣香。
砂漠のエキスパートでもある、凄腕スナイパー、安。
三人の女たちがいったいどんな選択をして、物語の終わりにどんな結末を迎えるのか。それがこの作品の読みどころのひとつです。
そして、もうひとつ。タイトルにもなっている『カンダタ』にまつわる謎も、思わずページをめくらずにはいられない面白さでした。
正体不明の狙撃手『カンダタ』とは誰か?
なぜ、その者の名は『カンダタ』なのか?
あの『蜘蛛の糸』(芥川龍之介・作)を知っている読者なら、読みはじめてすぐに抱くだろう疑問は、きっとあなたを想像もしなかったラストまで連れて行ってくれるはずです。
あ、あと、忘れてはならない魅力ポイントをもうひとつ! 作者のまちかりさんが「銃が好き」なだけあって、銃の出てくるシーンはとてもリアルです。それがまたこの作品をより厚みのあるものにしているように思いました。