魔王と舞神の神子の因縁
『ガァァァァ。セント・ルーナから呼び出しあり。至急向かうベシ! セント・ルーナから呼び出しあり。至急向かうベシ!!』
セラフィと、レリアと、ティールと、フィーネルと。結婚してから、特に鴉が鳴くこともなく。鳴いても、数時間で(転移神楽で行って、舞って、帰って)終るから、ずっといちゃいちゃして過ごしていた。
四六時中、いちゃいちゃしているから、そう言うタイミングに水を差す形で鴉が鳴くのは確率的に仕方のないこととは言え……
「今、良いところだったんだけど」
「そうです。……って言うか、セント・ルーナから呼び出しってなんでしょうか?」
少し面白くないのも事実だった。
とは言え、セント・ルーナから呼び出し。
あそこは気候に恵まれているから、雨乞いをする必要もないし。教皇を始めとして聖騎士たちのような悪魔狩りのプロがうようよいる都市。
よっぽどのことがなければ呼び出しなんてない。
それこそ、悪魔化した勇者の時のような何かがなければ……。
「セラフィ、レリア、ティール、フィーネル。ゴメン、行ってくるよ」
行為の最中だった四人に謝りつつ、俺はそそくさと神子の衣装を着始める。
「カグラ様! わ、私も連れて行ってください!」
セラフィが言うと、続いてフィーネルも「私もお願いします!!」と頼み込んでくる。――セント・ルーナは二人に取って故郷だ。
前回のこともあったし、行きたいのだろう。それ自体はやぶさかではないが
「カグラくん、安心して。神社は私たちが守るから」
「そうですっ! だから二人を連れて行ってあげてくださいカグラさんっ!!」
「レリア、ティール……ありがとう。セラフィ、フィーネルは急いで準備して」
「はい!」
「解りました!!」
そして、セラフィとフィーネルが着替え終わったのを見計らって『転移の舞』にてセント・ルーナまで移動した。
前回と違い、今回は呼び出しから到着まで10分も掛らなかった。
今度は間に合うはずだ――
◇
「教皇様、来ました」
「うおっ……早急な対応、大義だ」
「それで、用というのは……」
一瞬、表情を崩した教皇様になぜ俺が喚び出されたのかを聞く。
何せ、この都市に――俺の感覚に引っかかる物の怪の気配はないのだから。かといってもう倒した? 倒せるようなら八咫烏が察知できるほどの願いは届かないだろう。なら……
「そうだな。カグラよ。貴様には話さねばならぬ事があった。故に、貴様をこの場に呼び出した」
「話さねばならぬ事? って言うか呼び出した?」
え、なに? 八咫烏って任意で呼び出せるの? いや、教皇なら出来るか。
「……魔王と教皇と舞神の神子の血筋。それにまつわる因縁の話だ」
◇
時は遡って300年ほど前、当時世界は魔王によって大きく支配を受けていた。俺も聖騎士次代に習ったことがある。所謂『暗黒の時代』
そんな中、魔王を打ち滅ぼさんとする一人の勇者が生まれた。
伝承に伝わるその名前は『イノリ・マイガミ』――それは、二十一代目舞神の神子の名前であった。
歴代舞神の神子でも珍しい巫女だった彼女は道中で出会ったある戦士を伴い、魔王討伐の旅に出る。
舞神の伝承によると、イノリは確か祈祷の才能は歴代でもトップクラスだったが、剣術がてんでだめだったと聞いたことがある。
だから、戦士を雇ったのだろう。
そして、その戦士は魔王との激烈な戦闘で討ち死に。それでも何とか、魔王の封印に成功した。
仲間を失い、哀しみに暮れていたイノリは後追い自殺を考えるも自らがその戦士の子を身ごもっていることを知り、育てると決意。
そして、その子供は双子だった。
両方とも男の子。
しかし、神子の仕事は多忙である。特に魔王を封印したものの、その呪いは色濃く残っており、それでいて魔王の恐怖によって世界の悪魔は一層強くならしめていた。
故に、その容姿が似通った双子の子供は片方が舞神の当主として祈祷師として神楽を舞う神子となり、片方は魔王やそれに連なる悪魔を退治する勇者となる。
そして、悪魔が強くなる原因とは人の恐怖や不安などの感情。
その原因を経つために祈祷する神子がいる。しかし、全てを対処できるわけではないが故に苦肉の策として打ち出されたのは、その恐怖や不安を誤魔化せる『宗教』に頼ることだった。
2代目ルーナ教の教皇は十八代目舞神の神子だったのである。
そして、その神子は勇者を重宝し世界中に
「ここに勇者あり」と宣言した。悪魔も魔王も全ては、強く祈れば勇者が駆けつける。天災も飢饉も祈れば教皇が助ける。
ルーナ教の『ルーナ』は、当時の言葉で『救世主』の意味があったらしい。
そんなこんなで舞神の神子はその使命を『祈祷神楽』『勇者』『教皇』の三つに分担し、効率的により多くを救えるシステムを作り上げた。
まぁ、それも二十代に及ぶ永い時と歴史が風化させていったのだが。
なんとなく飛び出して、所属した教会と舞神の神子にそんな繋がりがあったとは……今まで知らなかった。
「しかし、この歴史には一つ隠された真実がある」
「隠された、真実」
「うむ。……封印された魔王。それが封印された媒体は何だと思う?」
「まさか」
「そうだ。イノリ様が愛した戦士だ。彼は戦いの最中魔王に肉体を乗っ取られ、そしてイノリにその肉体諸共魔王を封印して貰った。それまでは良かった。
しかし、それから時が経ち封印が風化した頃合いに魔王はその男の肉体を乗っ取って、世界を滅ぼそうとした。
三年前の話だ。そして、それを食い止めたのが……」
「親父……」
「そうだ。そしてその戦士は……私になった」
驚き過ぎて言葉が出なかった。いや、でも魔王と長らく封印されていたならそう言うこともありえるのか。
いや、でも、それだと……
「
故に、この――結界が張られた部屋から一歩たりともでることはできぬ」
亡霊、つまり肉体に別の魂が……いや、教皇が口寄せをしている形になるのか?
しかし、口寄せは一つの肉体に二つの魂を入れる危険な行為。だから、結界の外からは出られない。
「そして、今こそその因縁を晴らすときだ。カグラよ。私が死んだらその時は、魔王を私の代わりに倒してくれ。……『結界術式:魔王召喚』!!!」
教皇が祈り、杖を中心にこの部屋に――都市全体が聖域になっているこのセント・ルーナに魔王を呼ぶ術式を展開する。
でも、こんな処に魔王なんて呼び出したら
「セント・ルーナが滅ぶぞ!!」
「……世界が全て滅ぶよりは良い。それに、」
ちらりと、教皇は俺の後ろの二人に目配せする。
「そうですね。私が……」
「私たちがこの街を……守ります」
だから俺には心起きなく戦えと。そして、この部屋に魔王が呼び出される。
黒く赤い肌を持つ、親父の顔をした別の何か。
今、魔王との最終決戦が幕をあける―――!!
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