闇墜ちした勇者
「祈祷神楽『豊穣の舞』」
枯れ果てた大地、ミルナス。
元来、魔法も祈りもハイエルフのレリアにしてみれば体内か体外かの違いはあれどマナを動かしたりして行われている魔術的現象に過ぎない。
だが、カグラの舞は違った。
水のマナも、雲もない枯れた大地なのに。
草木も生えないほど、痩せた大地なのに。
「祈祷神楽、合流『雨乞い』」
流々と、優雅に舞うカグラが。一言と同時に、型を変える。
雨が降り、枯れた大地には恵みがもたらされていく。
「……ありえない。マナが、カグラくんから発生してる?」
それは、明らかに無から有を生み出す現象。
確かに、魔法も体内のマナを元に行われる事象ではあるがカグラのは違う。
この現象は体内のマナだけで説明がつくものでもない。
つまり……
「はぁ、やっぱりカグラくんはスゴいよ!! ますます惚れ直しちゃう!!」
カグラの起こす神のごとき事象に、レリアはキュンキュンしていた。
◇
「レリアばっかりずるいです!!」
「そ、そうですっ! どうして、レリアさんだけ連れてったんですか?」
半日の空路を経て、ミルナスから帰り着くと置いていったセラフィとティールが詰め寄って抗議してきた。
「ふふん。それは、カグラくんの本命が僕だからってことに他ならないね」
「そ、そんなわけありませんっ!!」
「か、カグラ様。そうなんですか?」
「いや、違うけど」
って言うか、レリアもレリアで火に油を注がないで欲しかった。
俺の一言に、ティールとセラフィは目に見えて安堵し、レリアは「直接言われると結構くるなぁ」と涙目だった。
「では、なんでレリアだけ連れて行ったんですか?」
とセラフィ。
「いや。レミバーンに行った時、鴉の風圧が魔法で抑えられたのがすごく快適だったから」
「ふふん。つまり、カグラくんはあたしなしじゃ居られない身体になっちゃったんだね」
誤解を招きそうな言い方はやめて欲しかった。
ほら、言わんこっちゃない。
セラフィもティールも、悔しそうに、不服そうに頬を膨らませている。
「じ、事情は解りました。確かに、私たちにはあの風圧を防ぐ魔法は使えません。でも、それでも。私はカグラ様と一緒に居たかったです」
「そうですっ! それなら、みんなで行けば良いじゃないですかっ!!」
「え~、いや。毎回毎回ぞろぞろ行くのもって思ってたけど。……って、言うか。みんな行きたいの?」
「「「行きたいです!!!」」」
マジかよ。俺、鴉が鳴く度に行きたくねーって思ってるし、みんなもそうだと思って気を遣ったのに。
行きたいの? ……行きたいんだ。
だったら、俺の替わりに行ってきてほしいところだ。
「ご迷惑ですか?」
セラフィが聞いてくるが、迷惑なんてことはない。
セラフィもティールもレリアも強いし、居てくれたら心強いことには変わりない。
ただ、舞神の神子の使命はハードスケジュールだ。
流石に三人がバテてしまわないか心配だった。
「流石に毎度着いてきたら身体もたなくない?」
「だ、大丈夫ですっ! が、頑張って着いて行けるように精進しますっ!!」
と、ティールが言うけど。
「ティール、そう言って前も身体壊してたじゃないですか」
そうなのだ。
ティールはいつか、勇者パーティに居たときに「私も、カグラさんと一緒に見張りしますっ!」とか言って俺のペースに付き合ってたら一週間と持たずに身体を壊したのだ。
どうすればと考えていると、レリアが
「だったら交代交代にすればいいんじゃない? カグラくんと二人っきりになる時間も欲しいしね」
「そうですね。それに、毎回みんなで行っていたらこのお社を開けちゃうことにもなりますからね」
と、セラフィも続ける。
まぁ、確かにそれなら三人はバテることもないか。
うん。欲を言えば俺も、こっちに残るローテーションが欲しいけど。まぁ。雨乞いとか、痩せた土地を肥させるのは舞神の神子にしか出来ないから仕方がない。
今更になって、引き継ぎそうそう逃げた親父が憎たらしかった。
三回に一回で良いから交代して欲しい。
「そうだね。じゃあ、そうしようか」
「決まり! だったら次まではあたしで良いよね?」
「だっ、ダメです。次は私が良いですっ!」
「そうですよ。レリアは今回もいったでしょう? だから、次は私です」
……いや、まぁ。順番はアレだけど。
なんかこう、この状況はハーレムみたいで悪い気はしなかった。
◇
「勇者、いやレンヤよ。新しい力の具合はどうだ?」
「うん。悪くないな」
魔王城、魔王の間には黒い靄に包まれたような異形の化け物――魔王と。
見ているだけで鬱屈とした気分になるようなどす黒いオーラを放つ、聖剣だった何かをもつ――元勇者が対峙していた。
それは争うためではない。
悪魔の繁栄のため。復讐のため。目的は違えど、舞神の神子――カグラを倒すために、魔王と勇者は手を組んだのだ。
いや、それは勇者と形容して良いのだろうか?
どす黒く染まった、聖剣。禍々しく黒光りする、聖鎧。極めつけは、悪魔の如き、赤い瞳。勇者は、魔王と契約し、魂の一部を融合させ魔人と成り果てた。
「(レンヤ。こいつは未だ、技術、精神面共に未熟であるが。それ故に、利用も容易い。これは良い拾いものをしたかもしれん)
レンヤよ。その力、試してみたいとは思わぬか?」
「回りくどい言い方はよせ、魔王。頼み事があるなら、最初からそう言え。俺は回りくどいのは好かんから最初に言うが、俺を動かしたければ女をよこせ。器量の良い、女をな」
魔人化して有り余る力故か、元からなのか。下心を隠そうとしないレンヤの態度に魔王は少したじろいだ。
しかし、魔王であれば女を工面するのはそう難しいことではない。
「そうだな。では、勇者よ。手始めにルーナ大聖堂、その天辺にある鐘を破壊してきて貰おうか」
つまり、初陣にして。あのレンヤを死地に追いやった非道な教皇がいて、レンヤを散々馬鹿にした聖女が生まれ育った街。セント・ルーナに攻め入ろうってわけか。
「面白い。して、道ばたに墜ちてたシスターは拾ってきて良いのか」
「構わん。……そうだな。であれば、拾って来た女を発情させるサキュバスのメイドを用意して待ってよう」
魔王は話しが解る奴だった。
魔王討伐という過酷な旅路を要求してくるくせになんの報酬も出さない教会とは違う。愚民共に勇者様勇者様とちやほやされるのは悪くなかったが、発情した女とヤリまくれる生活に比べれば塵芥に等しい日々だった。
勇者はニヤリと悪い笑みを浮かべ。それを了承の合図と取ったのか、魔王の力によって、勇者はセント・ルーナの城門前に転移した。
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