草凪澄人の決断⑨~はざまの世界の主~
澄人がはざまの世界にいる主と対峙します。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい……あれはなんだ?」
「瘴気を溜め込んでいる蛇だな……」
──シャー!!!!!!!!
巨大な黒い影は漆黒のまだら模様をした大蛇であり、俺たちを威嚇するように音を鳴らしてきた。
「ミュルミドネス!!」
「わかっている! 私は防御に専念する!!」
俺とミュルミドネスが見ている前で、大蛇は口を大きく開くと、口から真っ黒なブレスを吐き出してきた。
俺は反射的に世界樹の苗木の前に立ち、神性属性を付与した斬撃で応戦する。
ブレスへ斬撃がぶつかった瞬間、爆発を起こしたように衝撃が走った。
「これはっ!?」
衝撃で体を吹き飛ばされるのを雷の翼で防ぎ、ミュルミドネスの方を見る。
ミュルミドネスは世界樹の苗木を守りながら、周囲に結界を張り、ブレスの直撃を防いでいた。
俺は世界樹の苗木に被害が出ていないことに安堵しつつ、目の前の大蛇を睨む。
【モンスター情報】
カオスサーペントロード :混沌の主
状態異常:瘴気侵食(極)
(こいつが草凪澄がはざまの世界から帰れなくなった原因か)
なぜ神域に至った草凪澄が世界樹の苗木の成長を見届けられなかったのか、ずっと考えていた。
草凪澄はこいつを倒したのと同時に息絶え、神域へ到達したのだろう。
その結果、見守る存在がいないまま世界樹の苗木は成長してしまい、あのような結果になった。
(この黒い大蛇は今の草凪澄が命を懸けてようやく倒せる存在か)
俺は大蛇が発している圧力に気圧されないように、気合を入れなおす。
大蛇が吐き続けている黒いブレスは威力が高いものの、連射ができないようですぐに攻撃を止めてくる。
俺はその隙に懐へ潜り込み、ヒヒイロカネの剣で下腹部を斬り裂いた。
「シャアアァ!」
腹を切り裂かれたことで、大蛇は苦しそうな声をあげた。
大蛇は体を震わせてから自分の体の異変に気付き、怒り狂ったように尻尾を振り回し始める。
俺はその攻撃を紙一重で避けて、距離を取った。
尻尾は地面を豪快にえぐっており、当たったらひとたまりもないことがわかる。
黒い血を流していた大蛇の傷はみるみる塞がり、全くダメージを受けていないようだ。
「効いていないのか!?」
「いや……ダメージはある。ただ、回復が早すぎるだけだ」
ミュルミドネスが冷静な分析をしている間に、大蛇は俺を飲み込もうと大口を開けて迫ってくる。
俺は横に飛び退いて、回避行動をとる。
直前まで俺がいた場所は、大蛇の牙で貫かれており、地面に大きな穴ができていた。
俺も迎え撃つために構えた時、後ろからミュルミドネスの声が聞こえた。
「澄人! 大蛇が流した血を見ろ!!」
「なに!?」
俺は言われた通り、大蛇を警戒しながら切りつけた場所を見た。
なんと、大蛇の血が空中に浮き上がり、渦を巻いている。
その血はまるで生きているかのように動き、俺へ向かってきた。
「なにをするつもりだ?」
俺はその不気味な光景を見て、警戒を強める。
すると、宙に浮いていた血液が急に形を変え始めた。
「これは……魔法陣?」
血が姿を変えたのは複雑に絡み合った円形の模様で、それが光を放ち始める。
俺は嫌な予感がしたので、すぐにその場から離れた。
次の瞬間、轟音とともに黒い光が円の中心から放たれ、どんどん黒が濃くなっていく。
攻撃を見越してなのか、いつの間にか大蛇は俺たちから離れた場所で様子を伺っていた。
「ミュルミドネス!! 守れ!! 強烈なのが来る!!」
俺は叫びながら、ミュルミドネスの元へ駆け寄ろうとした。
しかし、黒い光の塊はいくつもすでに完成しており、もう止められない。
「澄人!! こっちのことはいい!! 自分を守れ!!」
ミュルミドネスは両手を前に突き出し、神性属性の巨大な結界を展開した。
それと同時に視界がすべて黒く染まるほどの爆発が起こり、何も見えなくなる。
「うおぉおお!!!」
雷の翼を展開して爆発の衝撃から逃れようとしたが、間に合わず吹き飛ばされてしまう。
爆風をもろに受けた俺の体を瘴気が蝕む。
(まずいっ!!)
神性属性を付与した魔力を体の中を循環させて、侵食してくるものを消し去る。
瘴気の対応へ意識が傾いた俺は地面へ叩きつけられた。
「シャーっ!!」
「グッ……」
倒れた俺に狙いを定めた大蛇が鋭い牙を見せつけるように口を開けた状態で飛びかかってくる。
俺は雷の翼を使って横に転がりながらなんとか避けつつ、剣を神器に持ち替えた。
「澄人!!」
ミュルミドネスの悲痛な声を聞きながらも、大蛇の攻撃は止まらない。
大蛇は体を回転させて勢いをつけると、そのまま地面をえぐり取り、再び俺に襲い掛かってきた。
「神の一太刀!!」
絶対に避けられないタイミングで、俺の眼前まで迫っていた大蛇を狙って必殺の一撃を放つ。
その斬撃を受けた大蛇は、口を大きく開き、真っ二つになったまま地面へ倒れた。
「澄人……無事か?」
ミュルミドネスは俺の名前を呼び、倒れた大蛇を警戒しながら近付いてくる。
俺は大蛇が倒れ込んだ衝撃でできた土煙の中から、ゆっくりと立ち上がった。
(この大蛇を倒すことができれば……瘴気の根絶が完了するはずだ……)
大蛇を倒したことで、ようやく異界ミッションが終わるかもしれない。
期待しながら振り返ると、ミュルミドネスが俺に向かって手を伸ばした。
「よくやった……さすが私のパートナーだ」
そう言ってくれたミュルミドネスの顔には笑顔が戻っており、手を握ってくれる。
俺は握ってくれた手に力を込めて立ち上がり、世界樹の苗木へ視線を向けた。
「無事でよかっ──」
安心したのも束の間、体を両断されて大量に流れ出た大蛇の血がうごめきながらこちらへ近づいてくる。
(この血が、またグラウンド・ゼロを発動したらまずい!)
横腹を切って出た量とは比較にならないほどに多く、グラウンド・ゼロが発動したらどれほどの威力になるのか想像もつかない。
大蛇は胴体が切断されているにもかかわらず、最後の抵抗をしようとしているらしい。
(まだ死んでいないのか?)
発動を阻止するため、確実に大蛇へ止めを刺そうとして一歩踏み出した時だった。
「澄人! 離れろ!!」
今まで聞いたことがないようなミュルミドネスの大声で、反射的に体が動く。
その瞬間、【二方向】から黒いブレスが俺に迫っていた。
俺が回避行動をするよりも早く、ミュルミドネスが結界を張る。
「澄人! 大丈夫か!?」
「あぁ、助かった。次が来るぞ!」
黒いブレスの直撃は避けられたものの、足元には大量の魔法陣が展開された。
俺たちの様子を胴体が短くなった【二匹】の大蛇がじっと見つめている。
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ご覧いただきありがとうございました。
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