瘴気の謎③~エスリンさんの行動~
アリテアスのギルド長だというエスリンさんと澄人が話をしております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エスリンさんは膝を付いたまま、真剣な表情で話を続ける。
「この度、復興のためにヨルゼンさまからギルド長を任せられました。まだまだ未熟な身ではありますが、どうかこのアリテアスをご贔屓いただければ幸いでございます」
「あ、えっと、こちらこそよろしくお願いします?」
エスリンさんの丁寧な対応に戸惑いつつも、なにを贔屓すればよいのか聞きそうになった。
咳ばらいをしながら、部屋にあったソファーに腰かける。
俺が言わなければいつまでも同じ体勢のまま話をしそうなエスリンさんにも座るように促した。
「どうぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
エスリンさんは俺の指示通りに向かい合う形で座り、机を挟んで会話が始まった。
「さっそく本題に入りたいのですが、雨についてどのような情報をご存知ですか?」
「そうですね……まず、雨が降った後はモンスターが活性化します」
戸惑いながらも要件を伝えると、エスリンさんは姿勢はそのままだが、少しだけ表情を緩めてくれた。
エスリンさんが詳しい資料と共に、雨が降っている時のモンスターについて説明をしてくれる。
その説明によると、雨が降っている時は普段よりも多くのモンスターが出現するらしい。
また、モンスターの種類も豊富になるので、戦うのがより一層難しくなるそうだ。
雨はモンスターを活性化するだけではなく、人にとっても良い影響はないようだ。
「私からはこれくらいの情報しかお伝えできず、申し訳ございません」
エスリンさんが頭を下げたので慌てて手を振る。
そもそも、俺がここに来た理由は、何かわかればいいなーくらいの認識だった。
まさか急に押し掛けた俺へこんなに詳しく教えてくれるとは思ってもいなかったので、逆にこちらが申し訳ない気持ちになってしまう。
「いえ、貴重な情報を教えていただき、本当に助かりました」
「また、いつでもアリテアスにおいでください。神の使者さまであれば、いつでも歓迎いたします」
「……えっと、今の俺はジョンという名前です」
「このエスリン、神の使者であるジョンさまがお越しいただくのをお待ちしております」
エスリンさんが俺のことを見つめてくる。
その瞳は尊敬と感謝に満ち溢れているように見える。
(大っぴらに俺が神の使者であることは言ってほしくないんだよな……)
「あの……俺がジョンだってことは秘密にしてもらえると嬉しいのですが……」
「承知致しました。私の胸に秘めておくことにいたします」
エスリンさんが微笑みながら返事をしてくれた。
(エスリンさんからはこれ以上の情報を得ることはできないだろう)
一つでも多くの情報が欲しかったが、無理を言って迷惑をかけるわけにはいかない。
話を聞いていたら、雨とモンスターが無関係であると言う方が難しいということが分かった。
(あとは、リリアンさんが集めてくれている資料を見ようかな)
そう思いながら、ギルド長室を後にしようとした時──
「あの、ジョンさん。今夜はアリテアスの宿へ泊っていただけませんか?」
エスリンさんからの突然の提案に驚く。
なぜそのような提案をするのか理由を聞くことにした。
すると、先ほどまで話をしていたエスリンさんの表情が険しくなる。
言葉を口に出すことをためらうように唇をかみ、視線を俺から外しながらゆっくりと口を開いた。
「確信が持てませんが……個人的に相談したいことがあるんです……」
「…………」
「ダメでしょうか?」
正直なところ、エスリンさんの話を聞いてみたいと思っている自分がいる。
エスリンさんは答えを待つ間も不安げな様子でこちらを見ていた。
(今は少しでも多くの情報が欲しい……けどな……)
神の使者と呼ばれている俺へ、個人的に何かしらの便宜を図ってもらいたいと思ってる可能性もある。
エスリンさんが信頼に値する人物なのか確かめるためにも、この話に乗っかることにした。
「わかりました。今夜はこの街の宿に泊まろうと思います」
「あ、ありがとうございます!」
エスリンさんの顔に笑顔が戻り、嬉しさを隠しきれないと言った感じだ。
俺が泊まる宿の場所を確認してからエスリンさんのいるギルド長の部屋を後にした。
開拓者ギルドを出るときに横目でイアンさんの様子を見たが、相変わらず真剣な表情をしていた。
夜になり、俺はエスリンさんが紹介してくれた宿屋に向かう。
宿の中に入ると、従業員と思われる女性が出迎えてくれた。
「エスリンさまからお話をうかがっております。こちらへどうぞ」
女性はエスリンさんから頼まれて、すでに部屋を用意してあるらしい。
女性の後をついて行くと、離れの部屋へ案内された。
中へ入ると、部屋の中央にあるテーブルの上には食事が用意されている。
「もうしばらくしたらエスリンさまがいらっしゃる予定です。それまでごゆっくりお過ごしください」
そう言うと、女性は深々と頭を下げた。
俺は女性の言葉に甘えて椅子に座り、料理を食べ始める。
料理は美味しく、量も十分にあった。
(美味しい。アリテアスでこんな料理を食べたのは初めてだ)
エスリンさんが来るまでの間、俺は出された食事を楽しみながら待つことにする。
食事を終えてからしばらくして、扉を控えめにノックする音が聞こえてきた。
「どうぞー」
俺の声に反応して、ゆっくりと扉がが開かれる。
そこには、私服で髪を下ろしたエスリンさんの姿があった。
エスリンさんは緊張した面持ちで頭を下げた後、室内に入って来た。
「お待たせして申し訳ございませんでした」
「いえ、お気になさらず」
俺が答えると、エスリンさんは向かい合う形で座った。
仕事が終わってからお風呂にでも入ったのか、ほのかに石鹸の香りが漂ってくる。
「それで、俺に相談というのはなんですか?」
気を紛らわすように俺から本題を切り出すと、エスリンさんは表情を曇らせた。
少しだけ躊躇うような素振りを見せたが、すぐに顔を上げて俺の目を見つめてくる。
「今から申し上げるのは、あくまでも私の個人的な意見だと思ってください」
「分かりました」
エスリンさんがそう前置きをして、ゆっくりと話し出した。
「各地の結界が強固になったことは喜ばしいですが……このままではほとんどの開拓者が戦えなくなってしまいます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は【本当に】未定です。
更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。
これからも頑張るので応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます