瘴気の謎②~開拓都市アリテアスへ~

澄人が久しぶりにアリテアスへ足を踏み入れ、イアンさんと再会しました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 すぐに戻ってくると、手招きをされ、そのまま一緒に同じ建物内にある食堂へ向かう。


「改めて、お久しぶりです」


「本当に久しぶりだな。まさか、お前が帰ってくるとは思わなかったよ」


 椅子に座ると、机を挟んでイアンさんと向き合う。


 こうして面と向かって話すのはいつ以来だろうか。


 話したいことはたくさんあったが、こうして落ち着いて室内を見ると違和感しかない。


(明らかに人がいなさすぎる。俺が活動していた時の1割にも満たない)


 以前はもっと活気があり、人も多く、騒々しいほどだったギルド内が、今では静まり返っている。


「あの……ここはこんなに閑散としていましたっけ?」


「復興が終わってから開拓者がどんどん減っていったんだ」


「理由はモンスターと開拓場所の減少ですか?」


「……世界ハンター協会からの依頼を受けられなくなったんだよ」


 俺の言葉を聞いて、イアンさんは数回うなずいて自分の襟元を指でつまむ。


「開拓者として食っていけなくなったところを、ギルドに拾ってもらえたんだ……あの事件の時に色々あってな」


 あの事件というのはもちろん七色の森のことだろう。


「最後まで残ってよかった」と、つぶやくイアンさんの顔はどこか寂しげに見えた。


 しかし、すぐに表情を元に戻し、話を続ける。


「ところで、ジョンはあの事件のときはどこにいたんだ? 首都か?」


「そうです。リリ……シエンナさんと一緒に行動していました」


 この開拓者ギルドでリリアンさんは、シエンナという偽名で職員として働いていた。


 イアンさんもシエンナという名前しかしらないため、俺は慌てて言い直した。


「なるほどな……お互い苦労したな。蘇らせてくれた神の使者さまに感謝だ」


「え……ええ……」


 面と向かってこのように感謝を伝えられると照れてしまう。


 黙っていると、イアンさんは周りに人がいないことを確認してから俺と目を合わせる。


「それで、ここに戻ってきたということは、また活動するのか? お前だから言うが……正直お勧めできないぞ」


 最後はイアンさんの個人的な意見なのか、小声で心配するように伝えてくれた。


(開拓者として活動していた時もこんな感じだったな)


 すごく親身に俺のことを気遣ってくれているのがわかる。


 イアンさんなら雨についてなにか知っていると思い、相談をしてみることにした。


「いえ、今日は別件で来ました。雨についてなんですけど」


「雨? 雨って空から降ってくるあれだよな? 雨の予知なんてできるやつ、この街にはいないぞ?」


「そういうことではなくてですね――」


「こらー!! イアン!! 休憩時間とっくに過ぎているぞ!!」


 雨のことについて聞こうとした時、遠くで誰かの声が聞こえてきた。


 その声に反応して、イアンさんが急いで立ち上がり、直立不動で声の主を出迎える。


「ギルド長! 申し訳ございません! 懐かしい弟分が帰ってきたものですからつい……」


「ん? ああ……その少年か? ……んん!?」


 イアンさんが30代前半に見える女性へ謝っている。


 アリテアスのギルド長はもっと年上のふくよかな男性だったはずだ。


 変わったのかと驚きつつ、俺は立ち上がって軽く頭を下げる。


「初めまして、ジョンと申します。よろしくお願いします」


「私は臨時でアリテアスのギルドマスターをしている【エスリン】だ」


 差し出された手を握り返しつつ、エスリンの顔をよく見てみる。


 前のギルト長とは比較にならないほど鍛え抜かれた肉体で、背筋がピンと伸びている。


 事務作業で邪魔だからなのか、髪の毛を後ろで団子状にまとめており、とても強そうな印象を受ける。


 握手を終えながら挨拶を続けていると、突然エスリンさんは目を丸くして驚いている様子を見せた。


「イアン、君はジョンさ……とはどんな関係なんだ? 弟分と言っていたが……本当の兄弟なのか?」


「同じ日に開拓者になっただけです。それが縁で一緒に活動をしておりました」


「なるほど……な」


 エスリンさんは顎に手を当ててなにかを考えている様子だったが、しばらくしてイアンさんへ視線を向ける。


「今は何を?」


「ジョンが雨について知りたいというので話を聞いておりました」


「そうか。それならイアンは仕事に戻ってくれ。彼の話は私が聞こう」


「はい! 失礼いたしました!」


 イアンさんが離れていくのを確認してから、エスリンさんが俺へギルド長の部屋へ向かうようにうながしてきた。


 以前ここへ潜入したなと思いながら入室したら、扉の鍵が閉める音が響く。


 なぜカギを掛けたのか不思議に思っていると、エスリンさんが片膝を地面につけて頭を垂れていた。


「神の使者さまにご挨拶申し上げます」


「え゛っ!?」


 予想外すぎる言葉に戸惑う。


 俺が神の使者と呼ばれていることはリリアンさんを含めて一部の人しか知らないはずだ。


 神の使者として人の前に出ているときは必ず黒いフードを被っていたはずなので、顔がバレているはずがない。


 それなのに俺が見たことのないエスリンさんは、確信を持って俺を神の使者だと言い切っている。


「お忍びのところ大変申し訳ありません。ですが、私は貴方さまに心から感謝しているのです」


「……なんのことでしょうか?」


 俺は自分が神の使者である何も証拠を残していないという自信があるのでシラを切ることにした。


 しかし、そんな態度に怒りもせず、エスリンは話を続ける。


「過去に使者さまがジョンという名前で活動していたことを、リリアンから聞いております」


「リリアンさんとどのような関係なのですか?」


 俺は冷静さを装いながら質問を続ける。


 すると、エスリンは懐から何かを取り出した。


「リリアンと同じ、元特級開拓者であり……蟻に囲まれたところを助けていただいた騎士の一人です」


 俺に差し出されたのは開拓者証で、階級に特級という文字が書かれている。


 後でリリアンさんに【ジョン】のことを誰に話したのか問い詰めようと思った瞬間だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は【本当に】未定です。

更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。

これからも頑張りので応援よろしくお願いします。

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