草凪澄人の日常⑥~病院で検査をした澄人~

澄人が病院で健康診断を行いました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


──コンコン


 一通り検査が終わった後、俺に用意された病室のドアがノックされる。


「どうぞ」


「邪魔するわ」


「スミトー、元気?」


 俺が声を掛けると、目元が腫れているヘレンさんとソニアさんが中へ入ってくる。


 ヘレンさんはベッドの横にある椅子に座り、ソニアさんはベッドの俺のそばに腰かけた。


「さっきは……取り乱してしまってすまなかった」


「気にしないでください。成功したようで何よりです」


 俺は安心させるために笑みを浮かべながら答えた。


 俺の顔を見たヘレンさんが真剣な顔をした後、再び深く頭を下げられてしまった。


「ありがとう。君には感謝してもしきれない……」


「本当にありがとうスミト!! アラベラも喜ぶわ!!」


 ヘレンさんへ言葉をかけるまえに、そばに座っていたソニアさんがガバッと抱き着いてきた。


 柔らかな感触が体に当たり、赤みがかった長い金髪が鼻をくすぐる。


 俺は優しく背中を叩き、離れてもらうよう促したけれど一向に離れてくれない。


(ダメだな離れない……もういいか……)


 無理に引き離すと機嫌を損ねるため、放置してヘレンさんの方を向く。


「お二人のご両親は?」


「検査を受けている……過去のデータがあるから、本人であるとの確認も含めてな」


「過去のデータ……ですか? ここに?」


 この病院は日本にあるため、ヘレンさんたちのご両親が来たことがあるのかと疑問を持つ。


 すると、俺の疑問を感じ取ったソニアさんがクスリと笑う。


「ここは世界ハンター協会が管理をしている病院だから、DNAとかのデータを共有しているの」


「そういうことですか」


 俺の知らないことをスラっと教えてくれたソニアさんに感謝する。


 それと同時に、俺の両親のデータも残っているのではないかと考えた。


「ヘレンさん、個人のデータを閲覧することってできますか?」


「……相手によるが、難しい事じゃないと思う」


「では、後で俺の親のことが調べられないかどうか聞いてみてもらえませんか」


「わかった。名前はわかるか?」


「名前……すいません。わからないんです」


 残念ながらじいちゃんでさえも、俺の父さんや母さんの名前を失念している。


 関連する人に対して何かしらの力が働いていることは確かだが、コンピューターまでは誤魔化せないだろう。


 ヘレンさんは事情を深く聞くことなく、考え込むように顎に手を当てながら黙り込んでしまった。


 そのまま数分が経ち、難しい顔をしていたヘレンさんが「あれなら」と呟きながら表情を和らげる。


「澄人のDNAを鑑定して、血縁関係にある人物を割り出そう。この方法なら名前がわからなくても大丈夫だ」


「お願いします」


「手配をしておく」


 という言葉をがヘレンさんから出ると、ムーっとした顔をしながらソニアさんが俺のほっぺたを突いてきた。


「ねー、スミト。私に頼み事ないの?」


「ソニアさんにですか? 今のところは……」


「他に私ができることはないか?」


 急に頼みごとがないのかと催促されてキョトンとしていると、ヘレンさんからも要望が出てくる。


 何もないと口にしようとした時、ソニアさんが俺を自分の胸に埋めてきた。


「ヘレンはもう頼まれたでしょう? 横入りしてこないで」


「簡単なこと過ぎて手が空いているんだ」


 なぜか二人が俺の頼みごとを聞こうとして言い合いを始めてしまう。


(えぇ……どうしてこういう流れになった?)


 ソニアさんに捕まっているため逃げることもできず、頭に疑問符を浮かべ続けるしかない。


 とても柔らかいものに包み込まれており天国にいる気分になったため、身を委ねてみる。


 すると、ソニアさんが言い争いを止め、優しく俺の頭を撫でてきた。


「あら? 私に甘えてくれるの? こんなことするのスミトだけだからね?」


 優しい口調に変わったソニアさんが顔を上に向けたら視線を合わせてきた。


 ふわっといい匂いが漂ってきて鼻の奥まで届き、俺は心臓が爆発しそうなくらい脈打っていることに気付く。


(これは恥ずかしいな……というか、ヘレンさんの目が痛すぎる)


 そんなことを考えていると、コンコンと再びノック音が病室に響く。


 力を弱めたソニアさんから抜け出し、「どうぞ!!」と声を張った。


「今度は二人きりの時にね」


 ドアが開かれる直前、ソニアさんが俺だけに聞こえるように耳元で囁いてきた。


 その言葉を聞いて、俺は思わず固まってしまい言葉が出なくなる。


 ふと目線を上げると口を堅く結んでいるヘレンさんと目が合い、俺は息を飲み込んだ。


(な……なんだ!?)


 俺と目が合った途端ヘレンさんの口角が上がり、不敵な笑みを浮かべてくる。


「お待たせしました。昼食をお持ちしました」


「はい。ありがとうございます」


 看護婦さんの明るい声で緊張が解かれ、ヘレンさんたちは「明日迎えに来る」「またねー」と言い残して病室から出て行った。


 病院食とは思えないほど豪華な料理が並び、丁度お腹が減っている俺はナイフとフォークを手にする。


 扉が閉まる寸前、目を細めたヘレンさんの唇が動いているように見えたけど何と言っているか聞き取れなかった。


(……ん~、なんだったんだろう)


 ステーキを切り分けようとフォークを手に取りながら首を傾げていると、さっきのやり取りが脳内で再生されていた。


(あれってやっぱり……そういうことだよね)


 俺が頼めばいつでも体を捧げますよ。というような意味を孕んでいるのではないかと考える。


 ヘレンさんの言葉からそのようなことを想像してしまったため、食事中に思い出さないよう無心になって食べ進めた。


 食事を終えて一休みしていると、病室の扉がノックされる。


 ベッドから身を起こして返事をして、入ってくる人を待つ。


 扉が開かれると、どうしてあなたがという言葉が喉元まで出かけた。


「澄人くん、調子はどう?」


「ローレンさん……でしたよね? どうしたんですか?」


 返事を聞いて、部屋の中へ入ってきたのは前に異界で会ったローレンさんだった。


 今日はスーツを着ており、カツカツカツと高い靴音を立てて歩き、ベッドの横にある椅子へと腰かける。


「スミトさんのおかげであの日被害者が出ませんでした。本当に感謝しています」


 座ったまま頭を下げるローレンさんへ、俺はため息をついてから横になる。


「気にしないでください。ジェイソンさんとネッドさん……どちらにするか決めたんですか?」


「それは……」


「俺へ剣を向けたんです。代償は払ってもらいますよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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