開拓者⑦~開拓者実技試験に合格した澄人~
試験に合格した澄人(ジョン)が開拓者の説明を受けます。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シエンナさんに付いていきながら建物の中へ戻り、受付カウンターの横にある通路を通って集会所所長という札のかかった部屋へ入る。
中には40代くらいの男性が座っており、俺とイアンへ満面の笑みを向けた。
「よく来たな新人開拓者よ! きみの戦いは素晴らしかった!」
少しお腹が出ている所長は、興奮しながら俺の手を握ってきた。
いつまでも手を握られているため、何をしているのかと気になってくる。
「あの……」
「おっと、これは失礼。私はここの所長をしているグリーンバーグだ。さあ、座ってくれ」
グリーンバーグ所長は満足そうに手を離してから、机の上に置いてあった書類を手に取った。
俺とイアンが座るのを見計らい、グリーンバーグ所長が口を開く。
「さて、今後の説明をしよう。シエンナ、頼む」
「はい、わかりました」
グリーンバーグ所長は机の上にあった紙をシエンナさんへ渡す。
彼女はそれを受け取ってから、俺たちの前へ置いた。
「まずは、こちらが開拓者の登録証となります。身分証明にも使えますので、常に持ち歩いてください」
俺とイアンの前に【H級開拓者】と書かれたカードのようなものが置かれた。
それを手に取ろうとしたら、さらにシエンナさんが持っていた紙をテーブルへ置いた。
「次に、こちらが開拓者としての仕事が書かれている依頼書の例です。依頼を受注する際はこちらを受付へ提出をして、達成後にはサインをお願いします。その際に報酬をお渡しします」
一枚の紙を見つめる俺とイアンへシエンナさんが次々と言葉を浴びせてくる。
電子申請ができないと仕事の受注がこういう仕組みになるのかと、俺は現代社会のありがたみを実感していた。
「また、Dランク以上の方には指名依頼が入る場合がありますので、できるだけ集会所へ内容を報告するようにしてください」
息をつく間もなく説明を終えたシエンナさんは、満足気な表情を浮かべていた。
「以上で説明は終了です。ご質問はありますか?」
俺は手元に置かれたカードを眺めてから、イアンへ視線を移す。
すると、イアンは目を輝かせて開拓者カードを見つめていた。
「どうしたんですか?」
「いや、本当に開拓者になったんだなと思って……これから稼ぎまくるぜ!」
「頑張りましょう!」
俺が笑いかけると、イアンは嬉しそうに俺の肩を叩いてきた。
シエンナさんと所長も和やかにイアンを見てくれている。
「そうだ、ギルドのランクを上げる条件を教えてもらえますか?」
「それは、依頼の達成数と貢献度によって決まります。H級開拓者の場合は、依頼を50件達成するか、高難易度の依頼を1つでもクリアすることでランクが上がりますよ」
「わかった。ありがとう」
説明をしてくれた2人にイアンが礼を言うと、グリーンバーグさんが机に置かれたカードを俺たちへ差し出してくる。
「新人開拓者よ。きみたちの健闘を祈っている」
「はい! がんばります」
俺とイアンはそれぞれ受け取ったカードを持って、所長室を出た。
そのまま集会所にどんな依頼が来ているのか見に行こうとしたら、イアンも付いて来る。
「ジョン、お前も依頼を見に行くのか?」
「そのつもりです。簡単な依頼があったらやってみようかと思っています」
「そうか。すぐに動けるなんてジョンは凄いな」
「そんなことないですよ。ただ、僕は自分の力を試してみたいだけです」
2人で受付カウンターの横にある通路を通り、集会所の掲示板へ向かう。
先ほどと同じようにボードの前で人が群がっていたため、俺とイアンは顔を見合わせてその風景を眺めている。
「さっきよりも人が多いですね」
「うーん……たぶん、この位の時間に依頼が張り出されるんじゃないか? 職員の人が作業しているぜ?」
「なるほど」
確かに、掲示板の周辺に複数の職員さんが依頼書のようなものを貼ったり、剥がしたりしている。
こんな光景を見たことがなかったため新鮮だった。
本当に異世界では紙媒体で情報を共有するのか……まあ、一番確かだよな。
俺は壁一面に広がる大きなボードを見ながら感心する。
横にいるイアンも同じようで、口を半開きにして掲示板を見ていた。
「お兄ちゃんたち、依頼を受けに来たの?」
不意に声をかけられたと思ったら、いつの間にか目の前に小学生くらいの少女が立っていた。
茶色の髪を後ろで結んでおり、くりっとした茶色い瞳がかわいらしい。
「うん。君も?」
「私は【アルマ】。E級開拓者だよ」
少女は腰に手を当てて胸を張るように自己紹介をしてきた。
その仕草が可愛らしく、自然と笑みがこぼれてしまう。
そんな俺の横でイアンが目を疑うように見開き、口を開いて絶句していた。
アルマは最初から俺に話しかけてきており、横にいるイアンへは一切視線を向けていない。
「お兄ちゃんは?」
「ジョンだよ。さっき登録が終わったばかりのH級開拓者」
話をしやすい様に膝を曲げて、アルマと視線の高さを合わせる。
「えっ!? あんな戦いができるのにジョンはH級なの?」
アルマは口を手で覆い、驚いたような声を出す。
俺は苦笑いをしながら、彼女の反応について考えていた。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないんだけど……ジョンは今依頼を探しているの?」
「いや、今日が初めてだからどんなものがあるのか見ておきたかったんだけど……」
俺が人垣の奥にある掲示板を覗き見ようとしたら、【C級開拓者】と書かれた腕章を付けた人が俺の前に立っていた。
その人の背が高いため、俺が見上げると、身長は180cm以上あり、筋肉質な体付きのスキンヘッドの男性が声をかけてきていた。
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ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は12月21日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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