国際ハンター会議へ⑨~異界都市アリテアス集会所へ~

澄人がアリテアスの住人を尾行しております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「くまなく探したがこの辺りにはいないな。新しい情報がないか確認するため、一度集会所へ戻るぞ」


 レックスと呼ばれていたまとめ役の男性の言葉に、集団は短い返事をした。


 その集団が《集会所》というところへ向かうようなので、見失わないように後を付ける。


 よほど探索作業に神経をすり減らしたのか、俺の前を歩く人たちの足取りが重い。


 遅いペースで30分ほど歩くと、集団がぞろぞろと建物の中へ入っていく。


 その人たちが入っていく扉の上に看板があり、それを読んで笑みがこぼれた。


 ビンゴだ! 開拓者の集会所だ!


【開拓者集会所】と書かれた看板が掲げられた建物は周りよりも二回り以上大きい。


 次にいつ扉が開くかわからないため、全員がこの中へ入る前に俺も建物の中へ体を滑り込ませた。


「シエンナ! 南門周辺の探索から帰ってきたが、モンスターの形跡はなかったぞ!」


 一早く報告をするためか、レックスさんが野太い声を張り上げて奥のカウンターへ手を振っていた。


「レックスさん! こちらで報告をお願いします!」


 レックスさんへ声を返した女性は、カウンターの向こう側から両手で手招きをしている。


 その女性の周りには同じような服装をした人が集まっており、全員の顔が険しい。


 カウンターへ向かうレックスさんの表情からも疲労は消え、戦地へ赴くような鋭い眼光で進んでいた。


 そのような人たちがいるからなのか、周辺にも多くの人がカウンターの動向を気にしており、物々しい雰囲気だ。


 ここに来るまで得た情報でも、モンスターに結界を通過されたというだけだ。


 モンスターに結界を通過されただけでこれ? そんなに警戒するようなことなのか?


 この街がどんな様子なのか非常時の今はあまり情報が得られそうにない。


 集会所にこれだけの人がいるにもかかわらず、ほとんど会話が交わされていないため、俺もカウンターへ向かった。


 カウンターでは、レックスさんの正面に俺よりも少し年齢が上に見える鼻の高い金髪女性がいる。


 その周りを3・4人の制服姿の男女が眉をひそませて囲っていた。


「その他の地区にもモンスターの形跡はなく、現在4組のPTが目下捜索中です」


「4組で大丈夫なのか? 空を飛ぶモンスターはそれだけで脅威だ。それに、これだけ見つからないとなると、かなり知性が高いだろう……」


「確かに……だが予算が……」


「シエンナ、この街の安全のためなら俺たち開拓者は無償でもいい。緊急事態なんだろう?」


「レックスさん……お願い……できますか?」


 シエンナと呼ばれた鼻の高い女性がレックスさんを涙目で見上げていた。


「ああ、任せな。今すぐ動くぜ」


 颯爽と踵を返すレックスさんを頼もしそうにカウンターの向こう側にいた人たちが見送る。


「聞いてくれ! 今、この街には恐怖が迫っている! 力を貸してくれる奴は聞いて欲しい!」


 レックスさんが両手を広げ、こちらを見ていた人たちへ語りかける。


 この状況を説明し、探索を無償でしてほしいと頼むと、我先にと建物の外へ飛び出していく。


 アリテアスを平和な街として維持させたい理由がどこかにある……それはなんだ?


 このような状況を1人冷静に眺めていると、そんなことを考えてしまう。


 建物を出ていく人を眺めつつ、ワープの実行先に自分の部屋を選択する。


 次は普通に門を通ってこよう。こうなるとゆっくり対応してもらえそうにない。


 開拓者になるという異界ミッションの解放条件が達成できる算段が付いた。


 それだけでも十分な成果なので、この騒動が収まったころを見計らってまた来ようと思う。


 ワープを実行して部屋へ戻った俺は、闇を解除してから布団へ寝転んだ。


 いつもはしない行動に俺も神経をすり減らしており、就寝時間を大幅に過ぎていることで抗えない眠気がやってくる。


 異界にも人がいる……それなら……可能性があるな……。


 寝落ちする直前にある考えが浮かぶが、詳細を詰める前に意識が落ちた。



「スミト! あれがマーライオン! すごいね!!」


 アラベラさんが俺の手を引き、異国の地を案内してくれようとしている。


 今回の国際ハンター会議はシンガポールで行われる。


 60以上の小規模な島々からなる島国で、世界的場貿易の中心だ。


 島国であることから文化も独特で、東洋と西洋を取り入れた独自のプラナカン文化だという。


 手を引いてくれていたアラベラさんが道路の脇にある建物に目を奪われていた。


 パステルカラーで縦長の建物が多く並び、細やかな装飾がなされている。


「アラベラさん、ここで写真撮らない?」


「撮りたい! ヘレンお姉ちゃん!!」


 アラベラさんが俺たちの後ろを歩いていたヘレンさんへ自分のスマホを渡す。


 他の観光客に混じりながら写真を撮ると、アラベラさんが遠くを見ながら走り出した。


「あっちが私たちのホテルだよ! 早く行こう!!」


「アラベラ! そんなに急がなくてもホテルは逃げないわよ!」


「わかっているよ! お姉ちゃん! 本当にホテルの上に船があるんだね!!」


 変装しているソニアさんはそんなアラベラさんを見ながら仕方がない子と楽しそうに微笑んでいる。


 アラベラさんは近くの手すりから身を乗り出して正面にそびえ立つホテルに目が釘づけだ。


日本では見たことがないような建造物に俺も目が奪われる。


 3棟のホテルが連なり、屋上が空中庭園で繋がっているシンガポールでも屈指の観光名所。


「あそこで国際ハンター会議が行なわれる予定だ。貸し切りだから周りの目を気にしなくても良い」


 ヘレンさんは騒ぎたくてソワソワしているソニアさんが聞こえるように俺へ話しかけてきていた。


「それなら早く行きましょう。私、カジノで思いっきり遊びたいの」


 ホテルへ向かって歩き出した俺の腕をソニアさんが自然にとり、並んで歩く。


「あー! お姉ちゃんずるい! スミトを取らないでよ!」


「今回の主役に花を添えた方がいいでしょ? 片側開いているわよ?」


 対抗するようにアラベラさんが逆の腕に抱き付き、非常に歩き辛くなった。


 助けを求めるためにヘレンさんを見るが、諦めろというように首を横に振られた。


 ホテルへ近づくにつれて徐々に人が多くなり、看板を持ってハンター活動に抗議している団体もいる。


「これだけ多いと正面から行くのは無理だな……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は11月9日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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