他校交流戦②~平義先生より~

 天草先輩が部長になると決めた時から2人きりで話をすることが少なくなった。

 交わしている会話も部活の連絡等の最低限のことだけになっているため、今回も追い付いて横に並ぶことはしない。


(俺は避けているつもりはないけど、天草先輩はどう思っているのかわからない)


 日差しで肌が焼けるのを感じつつ、学校まで数分の道のりを天草先輩の背中を追いかけるように歩く。


 学校の敷地内へ入るまで、天草先輩は1度も後ろを振り返ることがなく、歩くペースも変わらなかった。


(天草先輩は直接部室へ向かったな。俺はこっちだ)


 外よりはましな蒸し暑い校舎に入って平義先生の待つ職員室へ向かうと、待ち構えるように誰かが廊下に立っていた。


「澄人、こっちだ」


 挨拶をすることなく、平義先生が踵を返して進み始める。

 どんな話をされるのか探るため、先生の思考を覗いたところ【不安】となっている。


 そんな先生の足取りも、観察するといつもより重いように見えてしまう。


(警戒とかじゃなくて不安か……どんな話なんだろう?)


 先生が俺の反応をうかがっているような心境なため、どんな話なのか興味が出てきた。

 無言で歩いているため、どこかの教室で行なっている欠点補習が微かに聞こえる。


「クーラーを効かせておいたから、この中で話をしよう」

「はい」


 準備室と書かれた札が掲げてある部屋の扉を開け、入るようにうながしてくる。

 ひんやりと涼しい風を感じながら入室すると、職員室で先生たちが使っている机が4つほど向かい合うように置かれていた。


「総合実習科目の準備室だ。今日は俺以外来る予定はない」


 平義先生がそう言いながら教員用の机の手前に置いてある椅子へ座る。

 向かい合うように椅子が置いてあったので、俺もそこへ座ると先生が軽く息を吐いてから口を開く。


「塞がっている異界の件だが……あそこ以外に何か知らないか?」

「…………なにかあったんですか?」


 条件に付いての話が行なわれると思っていたので、先生から出てきた言葉を理解するのに時間がかかった。

 俺が黙っているのをじっと見てきていた先生は、少しだけ首を縦に振る。


「1時間前に会長から3つ目のゲートが使えなくなったという連絡をもらった……何か知らないか?」

「分かっていたら昨日の会議で伝えています。今日の探索で自由にさせてくれるのなら、可能な範囲を探してきますよ?」


 俺が口を動かしている間、先生は俺の目から視線を外さず、真偽を確かめるように唇を噛み締める。


 3つ目のゲートを閉じたのは誰にも見られていないはずなので、俺が知らぬで通せばだれも確かめるすべがない。


(昨日のことがもう先生にまで伝わったのか。2つ目のゲートよりも反応が早いな)


 先生と同じように腕を組んで考え事をしていると、大きなため息が聞こえてきた。


「お前が知らないと言うのならそれでいい……ただ、こうなった以上、見つけたゲートの開放はしてほしい」

「条件をすべて叶えてくれるのなら、今日にでも直してきます」

「……それは難しい……特にA級ゲートの単独突入は例がないから、許可されないと思っていた方が良い」

「突入権以外は可能ってことですか?」


 間髪入れずに先生へ質問を行って反応を見るが、難しい顔のまま変わらない。

 俺がこの条件で引く気がないとわかったのか、先生は困ったように苦笑いを浮かる。


「どうしてそこまで金にこだわるんだ? 今でも不自由のないくらいあるだろう?」

「俺個人のためにこんなことを言っているんじゃないので、お金の方だけは必ずもらいたいです」

「お前のためじゃない?」


 ここ以外の異界へのゲートを塞ぐ前から草根高校の現状を変えなければ、ここに未来はないと感じていた。

 師匠が辞めさせた校長について調べた結果、俺は今回のような提案をすることにした。


「そうです。じいちゃん……前の理事長が失踪してから草根高校総合学科の生徒の質が極端に落ちたということを先生はもちろんご存知ですよね?」

「い、いや……俺は……」


 平義先生が去年まで中学の教員として働いていたことは知っている。

 ただ、キング級のハンターとして協会に所属していたため、このことを知らないというのはありえない。


「見て見ぬふりをしていたとでも言い換えましょうか?」

「それは……」


 先生が口を閉ざして顔をそらすので、草根高校について調べたことを口にする。


「特に、ミス研が年に3回行っている他校との交流戦で負け越すことが多くなっていますよね?」

「……それと金に関係があるのか?」


 絞り出すように発した先生の声は弱弱しく、目にも力がない。

 こんなことを平義先生へ突き付けるのも可笑しな話だが、俺の目的を共有するために必要なことだ。


「大ありです。むしろ、ミス研の部員が異界を十分に探索できなくなったから、総合学科の生徒が境界へ突入できなくなっています」

「境界突入権か……」

「そうです。以前はミス研が収集品で稼いだお金で総合学科の生徒へ突入権を購入していました。それがあるから総合学科の生徒でもハンターとしての能力を磨けていたんです」


 草根高校の資料を漁っていたら、じいちゃんがいなくなってからすぐ大量の用途不明金が表れた。

 おそらく前校長のような人たちが自分の懐にでもいれていたのだろう。


 その結果、ミス研が収集して得た金のほとんどがそれらに消え、学校へ還元されることがなくなった。


 俺はこの循環を復活させたいため、なんとしてでも異界から出る収集品の価値を高めようとした。


 お金ですべてを解決できるとは思っていないが、なければさらに弱体化することは間違いない。


「俺は再びミス研……草根高校出身のハンターが日本をけん引するハンター集団になることを目指しています」


 じいちゃんたち俺の祖先が築き上げてきたものが崩れ落ちる様を眺めているだけ人間になるつもりはない。

 俺はうつむいている先生へ向かって最後の質問を投げかける。


「草凪ギルドの弱体化もじいちゃんがいなくなってから始まっていますよね? なにかご存知のことはありませんか?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は5月19日に行う予定です。

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