それぞれの試験⑪~草地くんの行方~
草地さんが連絡をしてくれたおかげで、ハンター協会からも人が派遣され、聖奈の捜索を行ってくれている。
真さんとは無事に合流したが、聖奈の居場所に繋がるような手がかりはなく、連れ去った車の行方も分かっていないので、途方に暮れていた。
草地さんはこれまでの話を来てくれたハンター協会の人へ伝えてくれているため、姿が見えない。
そんな時、俺のスマホへ真友さんから電話がかかり、間髪入れずに通話ボタンをタップした。
「澄人くん助けて! 草地くんが!!」
「何があったの!?」
真由さんの声は大きく、横に座る真さんにも届き、驚きながら俺の方へ身を寄せてきた。
頭の中で、聖奈に続いて草地くんまで誘拐されてしまったという事態を想定する。
「草地くんが聖奈さんのいる草凪ギルドの拠点へ1人で向かっちゃったの!!」
「はあっ!? なんで1人で!?」
俺の想像をはるかに超えた状況になってしまい、真友さんの言葉を理解するのに時間がかかった。
(聖奈の場所がわかって、草地くんが1人で向かった!? なんで!?)
草地くんが聖奈へ特別な思いを持っており、それで先走ってしまったのかと思っていたら、真友さんが言葉を続ける。
「その……草地くんの様子が朝からおかしくて、さっきも境界へ入る準備をしていたんだけど……急に外へ出たと思ったら、スマホを投げ捨ててね……追いかけようとしたんだけど……」
真由さんは何かを言いたいのをためらっているようなテンポで話をしてきた。
伝わってくるのは草地くんの行動がおかしく、真友さんがそれを見ていたと言う事だ。
(こうしている間にも草地くんが危ない!!)
今、草地くんが聖奈をさらえる集団に対して1人で突っ込んでしまっている。
戦力的に考えて、すぐに真友さんの言う通り助けに行かないと殺されるかもしれない。
そう頭に思い浮かべた時、赤い画面が表示され、警告するように点滅する。
【複数の救助要請を受けました】
【緊急ミッション:要救助者を救いなさい】
成功報酬:1人につき貢献ポイント5000
失敗条件:要救助者の死亡
ミッションが発動してしまい、いち早く草地くんを追いかけるために真友さんへ場所の確認を行う。
「場所は草凪ギルドの拠点だったところなんだよね!? どこのことか分かる!?」
「工場ってメッセージには書いてあったけど……場所までは……」
「ありがとう、それだけ分かれば大丈夫だよ」
電話をしてきてくれたお礼を最後に言うため、語尾の口調を優しくするように心がけた。
すると、真友さんはまだ何かを言うのか迷っているような息づかいが聞こえてくる。
「澄人くん……その……」
「まだなにかあるの?」
「うん……草地くんのスマホへ、聖奈さんが拘束されている姿を撮影した写真が送られてきていたの……転送するね」
「……お願い」
最後までためらっていたような感じだったが、真友さんは聖奈の写真を俺へ送ってくれると言っていた。
なぜそんな写真を犯人が草地くんへ送ったのか、それを見た瞬間に理解してしまった。
(聖奈!!!!)
あられもない姿で両手足を拘束されて吊るされている聖奈を一刻も早く助け出す。
聖奈の居場所が分かったということをいち早く知らせるべく、周りにハンター協会の人を探すが見つからない。
真由さんが何をためらっていたのかわかり、これを見てしまったために草地くんを見失ったのだろう。
こんなことをしている時間がもったいないので、目が合った真さんに連絡を任せることにした。
「真さん、聖奈は最後に草凪ギルドが拠点にしていた廃工場にいるってことを誰でもいいから伝えていてくれる?」
「う、うん……澄人くんは?」
「先に向かうから、後はよろしく」
これだけ真さんへ伝えておけば大丈夫だと判断し、廃工場へ向かって走り出す。
走りながら、聖奈を誘拐した人たちへの怒りが感情を支配し、初めて人を殺したいと思うようになった。
ハンターが境界外で人を殺してしまった場合、状況説明等が求められ、潔白が証明されるまで武器を取り上げられてしまうことを知っている。
(そんなこと今はどうでもいい!!)
聖奈を助けられるなら武器を取り上げられるくらいどうでもよく、相手が先に手を出したのだから俺が遠慮することはない。
むしろ、聖奈を無力化するほどの実力者がいると考えれば、こちらが手を抜けば逆にやられてしまう。
廃工場が見える前からアイテムボックスを表示させておき、いつでも剣を抜き出せるように用意をする。
雷による気配察知を最大距離で行いながら、草凪ギルドが拠点にしていた使われなくなった工場へ近づくと、20名ほどの人が中にいることがわかった。
(草地くんの気配は……これか? なんで一方的に殴られているんだ!?)
草地くんは剣を持っているにもかかわらず、棒立ちで攻撃を受け続けている。
動いたら聖奈を殺すなどと脅されている可能性があるため、雷で聖奈のことも探し始めた。
「こら草地ぃ!! なにいっちょ前にミスリルの剣なんてもっていやがるんだぁ!? ハンターにでもなったつもりかぁ!?」
聖奈のことを探していたら、中からつぶれたような声が聞こえてくる。
その声と共に草地くんが無抵抗で殴られているが、倒れる気配がない。
(聖奈がいた……けど、どうやって吊るされているんだ!? なんにも感じないぞ!?)
雷による察知では、聖奈は自ら両手を上げてその場から動いていないようにしか気配を感じなかった。
写真では黒い布のようなものを巻かれているため、その正体がわからずにいる。
(もしかして、草地くんも聖奈と同じように感じない力で縛りつけられているのか?)
俺の気配察知では、攻撃魔法など魔力だけで構成されているモノはわからない。
頭にある可能性がよぎった時、工場の中から唸り声が聞こえてきた。
「やめろ!! その剣は俺の誇りだ!!」
集団が草地くんから剣を奪い取ろうとしており、このままでは切り殺されることも考えられる。
(このままだと草地くんが殺される!!)
スマホに多数の連絡が入っており、返信する余裕がないので最後に来ていた真さんのメッセージへ返信を打つ。
【草凪ギルドの拠点だった廃工場で草地くんと聖奈を発見。救援求む】
それだけを送信してから、アダマンタイトの剣を取り出し、入り口に近づきながら魔力を帯電させた。
中からは体格の大きな人が何度も草地くんを殴っている鈍い音が断続的に響く。
「なぁにを言ってやがる! お前は一生俺たちの奴隷なんだよ!!」
「うるせぇぞ豚が!! 俺はAクラスのみんなに仲間だって胸を張って言えるようにここへ来たんだ!! 今のままじゃ、聖奈さんや澄人くんに顔向けできない!!」
そう叫んでいるものの、草地くんは微動だに動こうとせず、戦うそぶりを見せていない。
(これでも動かない!? なんでだ!?)
どんな力が使われているのかわからないため、中で何が起こっているのか直接確認するために、周囲に目を走らせた。
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