第27話 再出発

「では改めて、この2人を交えてもう一度確認しますね。」


エイダを診ていた、まだ若い女医のエリーは説明をし直す。


「エイダさん貴方は心臓を刺されたの、覚えてらっしゃる?」


「は、はい。」


「記憶の連続性を確認と…では今の段階で気分の悪いところはあるかしら。」


「無いです。」


エリーは手元にあるメモ帳の様なものに、エイダの状況を書き込んでいく。全て書き終えた後。エリーはドンキホーテの方へ向き直ると。


「ねぇ、この子本当に心臓を貫かれたの?何から何まで健康そのものよ。」


「ああ、不思議だよな。」


「不思議なんてものじゃ無いわ、かなりの出血もしてるはずなのにたった1日でここまですぐに回復してるなんて。」


「あの…」


エイダは気まずそうにエリーに声をかけた。


「私の怪我って誰が直してくれたんですか?」


それを聞くとエリーは、エイダを見て納得した様に「自覚無しね」と呟く。そして話を続けた。


「エイダさんよく聞いて。私は黒い羊の一員です。それ故にドンキホーテから一部始終は聞いています。貴方の特性のことも。」


「私の特性?」


エリーは一呼吸起きこう言った。


「貴方は不老不死の可能性があります。エイダ・マカロさん。」


エイダはその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。不老不死、死を超えたもの、死なないものそれが自分だというのか。あまりに夢のような話だ。エイダはそう感じた。


「詳しくはドンキホーテの方がわかるでしょうね。」


エリーはそうドンキホーテに促す。すると「わかった」と彼はエイダに自分の見たことを包み隠さず教えた。心臓の傷のこと、それが瞬く間に塞がったこと。そして何よりそうなることを、敵が知っていたことを。

エイダはただ黙って聞いていた。ただその情報を飲み込むだけの時間が欲しかったのだ。やがてエイダは1つのことを思い出す。


「そういえば、また男の子に会いました。夢で、3回目だねって。」


アレン先生は「そうか!」と肉球を叩く。


「ずっと不思議でだったんじゃ。不死のエネルギーは一体どこから来るのかと。つまり再生するためのエネルギーはどこから発生してるのかとな!見たところ、魔力を消費してるようには見えん、エイダはいま疲れておるか?」


「ううん、全然。大丈夫。」


「やはりそうじゃ、例の少年からエネルギーをもらっておるようじゃな。」


アレン先生はそう納得した。

エリーも頷く。


「私もさっき少し触診をさせてもらったけど。異常なんかは無かったわ。アレン先生の説が有力なようね。」


ドンキホーテは遅れて言う。


「つまり、不死自体もエイダの神の使者の力ってことでいいのか?」


「そう言うことになるの」


「じゃあ男の子の力が尽きちゃったら、私どうなるのかな?」


エイダはそう疑問を投げかけた。エリーはアレン先生の方を向き「どうなの先生」と聞く。この手の質問は魔法などに詳しいアレン先生がうってつけだ。


「そうじゃの。その少年は聞く限り神の一種の様じゃし、半永久的なエネルギーを、持っておるのではないかの?じゃから尽きると言うことはないじゃろう。仮に尽きてしまっても、加護が消えるだけとワシは見ておる。死にはせんじゃろう。なにぶん神の使者は最近になって出てきた概念じゃからのう。ワシもドンキホーテの娯楽小説の、話を聞くまで知らんかったからこれくらいのことしか言えんな。」


「そっか、考えてくれてありがとう先生。」


エイダは考える。神の使者の力は結局は誰も詳しいことはわからない、だからこそ知りたいと。この神の使者の力は自分の出生の秘密に直に関わってくる様な。そんな気がエイダにはしていた。

「さてと」とエリーは呟いた。


「エイダさんも起きたところだしご飯にしましょうか!」



美味しい、食欲がなかったのにいざ食べてみるとスプーンが進んでしまう。ここの病院食が美味しいせいもあるだろう。エイダはあっという間に用意された食事を食べてしまった。ベットの上での食事というのもなかなか珍しく新鮮な体験だった。


「美味しかった?」


エリーが顔を綻ばせ尋ねる。とても優しい表情だ。いつもこのように患者のことを気にかけて対応しているのだろう。


「はい!」


エイダは直ぐにそう答える。実際に料理は美味であったためお世辞などではなかった。「よかった」とエリーは言うと、持っていた籠から畳まれた服を出した。


「これ貴方の冒険用の服、使用人に縫ってもらったわ。」


「わぁ、ありがとうございます。」


エイダの服は敗れたところ完全に直され、購入時の時と遜色ない状態になっていた。


「そういえば確認していなかったわね。」


エリーは再びエイダに尋ねる。


「貴方、立てて?1人で着替えはできる?」


「大丈夫です!」


エイダは、ベットからすぐに起き上がり、自分の健康さをアピールする。


「それぐらいなら大丈夫そうね。退院しても平気そう!貴方多分、うちの病院で今まで、1番早い退院だわ。」


エリーが冗談言うと、思わずエイダも顔を綻ばせた。そしてエリーは話を続ける。


「ドンキホーテが話があるそうよ。準備ができたら行ってあげて?あの人、案外心配性だから。」


ドンキホーテの居場所を教えてもらうとエイダはエリーに今までの礼を言い。彼のいる客室へと向かう。

客室のドアをノックすると「エリーか?」と言う声とともにドンキホーテごドアの隙間から顔を出した。

するとドンキホーテはエイダの顔を見るなり目を皿のように大きくし、


「エイダ!立って大丈夫なのか!?」


と驚いた。エイダは頷く。


「うん、もう大丈夫。退院してもいいって言われたよ。」


そう言った。「そうなのか。」ドンキホーテはそう呟くとエイダを部屋の中に入れた。


「アレン先生思ったより早く行けそうだ。」


「何?もうまったりとできないのか?」


「ああ、エイダが今日中に退院することになったようだぜ。」


「そうかではもう行くかの。」


アレン先生は伸びをすると起き上がる。


「心配かけて、ごめんなさい。」


エイダはそう言って謝った。


「何を言うのじゃ!エイダが元気そうでワシら心底嬉しぞー、生徒が元気なのことは先生にとって嬉しいことじゃからな。」


「俺も同じ気持ちだぜ。先生の生徒仲間としてな。」


「さてと」とドンキホーテは話しを続ける。


「エイダが寝ている間な、ボスから連絡があった。俺たちの乗った観光用飛空挺がぶち壊れたのを報告したところ。予定を変更するそうでな。」


ドンキホーテは地図を広げた。


「ここの遺跡、カルエ遺跡で落ち合うらしい。」

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