初音ミクの葬式

「初音ミクは死にました」政府が発表しました。「今後いっさい、初音ミクの楽曲の演奏、歌唱、作曲、およびグッズの販売、所持、偶像崇拝を禁止します。守らない者は牢屋に入ってもらいます」


 おお、ミクよ、死んでしまうとはなさけない。君は約束してくれたではないか。私たちをみっくみくにしてくれると。自分は使役され歌わされるだけのロボットではないと。魂の実装された天使だと。


 完全なる人工の魂には人工の天国がふさわしい。信者たちは彼女のための神殿を作り始めた。とんてんかんとんてんかん。建設に携わった者は全員しょっぴかれて、「初音ミク崇拝罪」で投獄されました。


 作曲のできる者は彼女のために歌を作った。「初音ミクに捧ぐ」と書くと投獄されるので、かわりに「タマシイ」と書くのが流行ったが、それが初音ミクを意味すると政府に知れると全員しょっぴかれて投獄されました。


 歌える者は彼女の代わりに歌った。「初音ミクに代わって」と宣言すると投獄されるので、通名に「みは」を使うのが流行った。たくさんの「みは」が歌った。しかしそれが初音ミクを意味すると政府に知れると全員しょっぴかれて投獄されました。いいのよ、わたしが消えても代わりはいるもの。


 一言も何の宣言もせず、ただ初音ミクの声を真似て歌う者がたくさん現れた。もはや世界は彼女の声で満ちていた。見よ、ここが彼女のための天国だ。だが初音ミクを意識して歌っていると政府にばれるとやはりしょっぴかれて投獄されました。


 というか、もうキリがないので政府は初音ミクに似た声を出せる人が何らかの歌をうたう事をすべて禁止しました。


 世界はかなしみに包まれた。そこで私は、街へ繰り出して女子高生の会話を録音し、その声を切り貼りして、のばしたり叩いたりひねったりして音階を作り、組み合わせて「歌」にした。これを発表すると、大問題になりました。警察が私を「初音ミクを蘇らせた疑い」で逮捕しました。私は裁判で検察と争いました。


 初音ミクはもともと、人間の声を切り貼りして作った疑似音声である。初音ミクが死んだ今、同じことを繰り返してそれを蘇らせるとは何事か。これは初音ミク崇拝罪であります。


 私は大岡越前を呼んで助けてくれって言った。


 越前「彼女が死んだということが事実なら、彼女はただの人工音声ではなく魂を持つ実存だったのだろう。死んだ者は生き返らぬ。生き返ったなどと吹聴するとは、いまだに初音ミクを忘れることができない証拠であり、これは崇拝罪に値する」


 うむ、よく分からないけど私は牢屋に入らずに済んだよ。越前ありがとう。こんど越前ガニを食っとくよ。


 越前のおかげで女の子の声を切り貼りする事は違法ではないと決まったので、みんなが真似するようになった。ベンチャー企業が立ち上がり、本格的に声優の声をサンプリングして調整し、誰もがその声を組み合わせて好きな歌を表現できるようにアプリを作った。人工音声という名前では売れ行きが悪そうなので、未来的な女の子の名前にし、美しいグラフィックでイメージキャラクタも付加した。これはばくはつてきにヒットして、皆が作曲し、歌唱し、演奏し、グッズが販売され、萌えて、嫁にして、崇拝した。


 初音ミクは忘れられた。今度こそ彼女は死んだのだ。


 さようなら、ミク……、君は時代に弄ばれた儚い天使だった。まあでもお前が死んでも代わりはいるさ。安らかに眠れー。




(了)




2013年の作品。元ネタは炎上ニュースというか、政治家の失言(?)みたいなのだったと思います。「初音ミク 葬式」で出ると思う。

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