読書

 父の書斎には本が沢山あり、私はよく忍び込んで読んでいた。特に好きだったのは、書棚の最下段の左端にあった、灰色の背表紙の本だった。開くと美しい挿絵と、外国の文字が現れた。私は本の中に描かれた世界に強く心を惹かれた。私の知る世界とよく似ていたが、土が空の色をし、空が土の色をしていた。ある日夢中になって読みふけっていると、本の中の少年と目が合った。少年はこちらを振り向き、確かに私を見つめて言った、

「早くにげろ。とられるぞ」

 私ははっとして本を閉じた。


 それ以来、外を見るたびに、空の色と土の色が逆のような気がするのだが、怖くて母には聞けないでいる。



(了)

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