6章 ~時代は変わる~

ASR1000年 とある学園の放課後

<講堂>


「どうしたの、ミレニア? ずっと窓の外見て。深窓の令嬢みたいよ」


「……」


「? ミレニア?」


「え? ……ああ、ごめんなさい、センチュリア。私、ちょっとボーッとしてて」


「別に謝らなくていいわよ。……何かあったの? 顔色が悪いわ」


「え? いえ、特に何も?」


「そう? なら、いいんだけど」


「うん」


「……話しにくいこと?」


「え?」


「ホント、すぐに顔に出るわね、ミレニアは」


「フフ、センチュリアにはすぐに分かっちゃうわね」


「相談なら乗るわよ」


「ええ、ありがとう」


「場所、移す?」


「……ええ」




<屋上>


「勇……者……ラスティス様が」


「ええ……」


「そんな……」


「私も、信じたくはないわ。でも……」


「パレス様がわざわざいらしてまでおっしゃっていかれたのですものね」


「ええ」




「ねえ、センチュリア。貴女は勇者って何だと思う?」


「え?それは……唯一魔王に対抗できる聖なる力をもつ……」


「そういうことじゃないの」


「?」


「勇者は本当に私達に必要なの?」


「ミレニア?」


「わかっているのよ。勇者がいなければ、勇者が魔王軍と戦っているから、今の平和があるって。でも、それは昔の話でしょう?」


「……」


「今は昔とは違う。聖教国の各領が相応の戦力を保持している。なのに今も魔王討伐に向かうのは勇者だけ」


「ミレニア……」


「今なら魔王にだって勝てるかもしれない。全軍で魔王国に向かえば勝てるんじゃないかしら」


「それは、そうかもしれないけど」


「教会は魔王を倒せるのは勇者だけだというの。でも、本当なの!? 勇者に力を与えられる自分たちの権力を守るために……」


「ミレニアッ!?」


「ッ!? ……」


「ミレニア、それ以上はダメ。駄目よ。いくら公爵家の娘でも、異端者の烙印を押されてしまえば、貴方は終わりなのよ」


「……」


「ラスティス様のことは私もどう思っていいかわからない……でも、お願い。それ以上言わないで」


「センチュリア……」


「ミレニア。私は貴女を親友だと思っているわ。だからお願い。私に親友を教会に告げ口させるようなことはしないで」


「……ええ、ごめんなさい、センチュリア」




<パレス公爵邸>


「チヨ」


「アナタ」


「顔色が優れんな」


「当たり前です!!ワタクシは、ワタクシの息子が……」


「チヨ……」


「……アナタは、アナタは平気なのですか?」


「おい、チヨ」


「愛する息子が……死ぬかもしれないのですよ? それなのに!!」


「平気なわけないだろう。だが……」


「ああ……ラスティス、ワタクシのラスティス」


「チヨ……何、ラスティスだ。アイツなら魔王とて討ち取ってこよう」


「よくもそのようなことを!!」


「落ち着けチヨ!! 誰か。誰か手を貸してくれ!!」




「チヨは?」


「ご命じの通り、少しお茶に睡眠薬を混ぜました。今は眠りに就かれております」


「そうか……」


「よろしい……のですか?」


「教会の選択は絶対だ」


「ですが!!」


「解っている!! 言われずともな……」


「……差し出がましい口を」


「解ればよい。そして以後この件はお前も口にするな。我が屋敷から異端者を出したくはないからな」


「……はい」


「よろしい。下がれ」




(私とて公爵の一人。そんなことは解っているのだ。


 勇者は魔王に抗し得る存在ではない。勇者は隠れ蓑にすぎん。

 勇者の力を民衆に見せつけ、その上で敗北すれば、民衆は恐れ、魔王国に近づこうとしなくなる。


 勇者は魔王を倒すために魔王国に向かうのではない。魔王国を国民の目に見せぬために定期的に出す犠牲だ。

 私とて、魔王国の実情を知らなければ、このような非道許しはせぬ。


 だが……どうしろというのだ。


 魔王と四天王。圧倒的な脅威だが、よほどのことがなければ魔王城から出てくることはない。

 サイズタイドを境に展開する黒騎士団も聖教国の軍をもってすれば打ち勝つこともできるやもしれぬ。


 国民たちは皆少しずつ異常に気がついている。教会が恐ろしくて声を挙げぬだけだ。

 サイズタイドをなぜ軍をもって落とさぬのかと。


 ずっと隠してきた。我々が隠してきた。

 魔王国有するサイズタイドの防衛線によって守られているのは我々の方なのだと。

 魔王国全土に巣くう異形の魔物達をサイズタイドが抑えているからこそ、今の平和があるのだと。


 これは罰か?

 国民を欺き続けた私への罰だというのか!?


 神よ……本当にいるなら教えてくれ。

 なぜ私の罪を息子が償わなければならぬというのだ!?)




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