第53話 暴走中な妹だけど、どうしよう……

 それは私が性欲で暴走するようになってから、一番酷い衝動がはしった日だった。


「ヤバい……」


 それは突然だった。

 授業中、ふと誠一さんの顔を浮かべていたら、したくなったのだ。

 顔がほてり、身体も熱を帯びている。

 何だろう、これはと。


「排卵日かな……」


 前回、学校のトイレでしてしまったのは半月前、つまり月経前だ。

 その時に調べたが、女性の発情期は排卵日と月経前が当たるらしい。

 前回よりも衝動が酷く、気をやってしまえば暴走しそうになる。

 初めて快楽を覚えた時のような、浮ついた感じだ。

 幸運なことに、今の授業が終われば生徒会もなく、家に帰れる。


「この問題を、初音君。

 前に出て解きなさい」


 そうは問屋が卸さないと、運命に言われた気がした。

 観れば数学の問題が黒板に書かれている。

 一番後ろの席の私は、深呼吸をし、一旦体を落ち着けて前に出る。


「……?」


 男性の横を通り過ぎると、私に目線を上げてくるのが判る。

 前みたいにフェルモンがでているみたいだ。


 ……嫌だなぁ。


 痴漢された時みたいに、男を引き寄せることに体が恐怖を覚える。

 叩きつけるように黒板を書いている間も、私のお尻の辺りに視線が集まっているのが判る。


「初音さんてあんなに何というか色気あったけ」「最近、コンタクトに変えたり、奇麗にし始めてからいいよなと思う」「巨乳だしな……」「最近、取り締まりも柔らかくなったしな」


 ひそひそ声が聞こえ嫌悪感と共に、熱くなっていく自分も居るのに気づく。


「出来ました」

「正解だ」


 そして席に戻る時にも男子生徒達の目線が私に向いてきて、今度は幾人かと眼が合う。

 どうしたものかと思うが、邪険にすることも出来ず、作った笑みで返す。


「「「……!」」」


 慌てて私から視線を外す彼ら。

 誠一さんと違って子供だなぁっと断じて、少し落ち着くことに成功する。

 とはいえ、性欲が収まったわけではない。

 キュンキュンと私の子宮が男を欲していて、狂ってしまいそうになる。

 人が居なければ、触りたくなってしまっている。

 ペンでスリスリとこすり付けたくなる。


『学校とか、外では自慰行為禁止』


 姉ぇの言葉が頭の中で思い返される。

 癖がついてしまうと、何処でもやるようになってしまい、最後には変質者になりかねないらしい。

 実際なった人が居るとか聞いた時は引いたものだが……自分が当事者に近い状況なのは笑えない。


「はぁはぁ……」


 何とか授業が終わり、私は帰り支度を始める。

 これは抑えきれないと思い、一旦、誠一さんの家によって解消させてもらうことにする。

 鍵は貰っている。


「あの初音さん」


 私を観ていた男子生徒の一人が声を掛けてくる。

 オズオズとした様子が勇気をふりしぼろうとしているようにも見える。


「な、何でしょうか?」

「これから皆で遊びに行くんだけど、どう?」


 初めての誘いだ。


「ご、ごめんなさい。

 ちょっと、今日は、あ、姉ぇに会わなきゃいけないんで。

 また、今度誘ってくださいね」

「あ……」


 そして立ち上がり、ふらふらとした足取りでクラスから出る。

 先ずは地下鉄へ向かう。


「……いや、歩こう」


 痴漢の経験が蘇った。

 今度、あんな目にあったらそれに引きずられてしまうかもしれない。

 私は誠一さんが良いのだ。

 身体だって誠一さんを思うたびに暖かくなって、求めている。

 それ以外の人にやられるのは嫌だ。


「はぁはぁ……」


 自分の体のことながら重病であると思う。

 辛い。

 唇を指でなぞりたい。

 胸を揉んできっさきを指で弄りたい。

 思いっきり、自分の下のポッチを軽いタッチで虐めたい。


「大丈夫かい?」

「大丈夫です……少し熱っぽいだけですから」


 っと、途中途中、フラフラしている所に声をかけられるのでそれを笑顔でかわしながら、ようやく最寄り駅。

 あと少しだ。

 そう油断してしまった。

 足元を段差に取られてしまい、


さん、大丈夫か?」


 誠一さんが私を受け止めてくれていた。

 不意な遭遇に体が抱きかかえられており、嬉しすぎて意識が飛んでしまう。


「……初音は買い物で寄り道してるし、一回、家か」


 ふわっとした感覚が私に襲い掛かり、完全に脱力してしまう。

 私を背負ってくれる大きな背中に嬉しい。


「はぁはぁ……誠一さん、すきぃ……しゅきぃ……♡」

「……困った奴だなぁ……」


 気付けば、慣れた誠一さんの家の匂い。

 ぽふっとソファーに下ろされる。

 私の事を呆れながら心配そうに見てくれている誠一さんが居て、うれしくなる。


「誠一さん……えへへへ。

 我慢できない……♡」


 ちゅっ。

 彼に抱き着いて、手を頬に当てて引き寄せて、唇を押し当てる。

 

「えへへー。

 もっと……するぅ……♡」


 抵抗が無く、彼は仕方ないなと受け入れてくれる。

 だから、私はもう一回と続ける。

 今度は舌を入れて、歯と歯の間へ割り込んでいく。

 ふにっとした舌を見つけて、トントンと叩く。


「あっ♡」


 それに反応するように私の舌に絡めてくれる。

 クチュクチュと淫靡な音が家に響く。


「あはっ……誠一さんすきぃ♡」


 離れると誠一さん口許から唾液が溢れるので、舐めとる。


「ほら、燦、落ち着け。

 初音が来るまではこうしててやるから」


 ポンポンと頭を撫でてくれるので、


「はいっ♡」


 嬉しくなって胸に抱き着き、頬ずりしてしまう。

 これだけだが、少しだけ私の体のほてりがマシになる。

 やっぱり誠一さんは特別なんだな、っと私は思う。


「理性が戻ってきたろ?

 初音も暴走した時はこうしたら直るからなあ」

「少しだけです。

 触りたい、犯されたい、と体が……んっ♡」


 ピクンと跳ねてしまう。

 出来るだけ痴態を見せないようにと誠一さんの旨に強く頭を埋め、抑えにかかる。

 自分で誘う状態ならまだコントロール出来る。だが、今はダメだ。

 何をしでかすか判らない状態で誠一さんに迷惑をかけられないと、残った理性がそうさせている。


「燦」


 ふと名前が呼ばれた。

 目線を向けた瞬間、チュッとおでこにキスが来た。


「へ?」


 私の意識が一瞬、空白になった。






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