第51話 金髪お嬢との後半と風紀模範的キスですが、なにか……♡

「ちょっと待って、委員長、あれ絶対童貞じゃないわよ?

 というか、二重の意味で」


 私のビッチとしての勘からそう断定する。

 言い過ぎたかと思うが、


「そうでしょうね」


 っと、お嬢は自分のことのようにニコニコと笑みを浮かべと、その特徴的な雷眉毛が弓になる。

 どこに嬉しがる要素があったのだろうか……。


「……妹ちゃんともやってないって言ってたしなぁ……」


 頭の中で私は状況を整理していく。


「候補としては二人、一人は商店街で委員長とデートしていた金髪の中学生」

「その小娘は私の妹ですわね。

 また抜け駆けを……!」


 顔に笑みが張り付いたまま、凄みが増す。


「とはいえ、身体の関係は有り得ませんわね。

 性というモノ自体を知りませんし。

 で、もう片方は?」

「京都市内で見かけたとか聞いてる、小学生」

「……」


 頭を抱えるお嬢。

 どうやらスゴく心当たりがあるようだ。


「その人は色々例外ですし、違うので置いて置きましょう……」

「私の勘が「良いですわね?」……はい」


 凄みで私の言葉を潰される。

 委員長の時もそうだけど、なにかヤバい存在なのだろう。

 これ以上は突っ込んだら、消される予感がした。


「となると、何でこんな美人に手を出さないのか謎よね。

 据え膳なのよね?

 不能って訳でもなさそうだしなぁ……」

「性奴隷なら覚悟の上ですわよ?」

「を、をう……」


 愛が重い上に謎である。

 まさかホモかもしれないと浮かぶ。

 だって、委員長妹と良い、お嬢と良い、タイプの違う美少女だ。普通ならどっちかには手を出す。


「……何かしらトラウマ持ちで、あえて自らは求めないタイプとかなー」


 私が援助交際していた中に、ヌキが無かった人が居たのはそれだった。

 私の脳裏で警笛が鳴る。

 そういうタイプは自分を傷から守るためなら、行動力が上がる。

 それ以上、突っ込むと委員長と敵対する可能性がある。

 私からも二人に手を出していない事実は言わない方が良いだろう。

 危うい男の過去に近寄らずである。


「というか、クラスでの妹ちゃんや鳳凰寺さんに見せる好意がブラフだったりしたら、人間不信になるわ。

 切っ掛けがあれば、盛り上がったりするけど……」

「無いですわね……、誕生日は三人で迎えて満足してる感じがありますしね」


 お嬢の目線の先に、小指に指輪がある。


「三人とも同じ指輪を小指にしてるのはそういうことでしょ?」

「……はい♡

 私たちのは誕生日に頂いたモノです」


 羨ましい話だ。

 とはいえ、しどー君もプロポーズのすぐあと、指輪を買おうとしたことがある。

 親の脛かじりなのは貰っても嬉しくないと流石に止めた。

 しどー君はその後に何やら考えこんでいたが。

 さておき、


「ともあれ、一気にステップとばせないなら、少しづつ妥協を引き出すのが正解かなぁ……」

「今まで通りですわね……」


 手詰まり感がある。


「正直、鳳凰寺さんはセックスすることに義務感を感じてない?」


 ふと思ったことを言うと、お嬢が興味深そうに私を観てくる。


「だって、セックスは相手と自分の気持ちを実感しあうと言う意味なら手段の一つでしかないんだから。

 クラスカーストに焦ってえんこーで処女喪失しようとしていた私の実感よ」

「……成る程」


 シミジミと実感を込めてしまう。

 妹の場合、相手を意識させる手段として逆に早くセックスした方がいいワケだが。


「会話して、触れて、触って、お互いに気楽な形で求めあえれば良いわけよ。

 私なんかは求めすぎて彼の重荷になってないか常々心配してる。

 だからプロポーズされても、しどー君に幸せになって貰うための努力は欠かせないわけで、うん」


 これは私の根本部分である。


「しどー君も最初は難物かたぶつだったし、知っての通りのマジメガネよ。

 融通のきかなさでいえば、天下一品こってり味ね」


 クククと思い出し笑いをしながら続ける。


「見られてたキスなんかはようやく、あそこまで妥協させたものよ。

 最初は啄むようなバードキス。

 徐々に吸い付くようなディープな奴へと……!」


 思い出すだけで体がホンワカと暖かみを覚える。

 私、のろけている……!


「こんな話してたら私がキスしたくなった」

「へ?」


 妹が乗り移ったような悪魔的なアイディアが浮かんだ。

 非処女としてお嬢に見栄を張りたくなったのもあるだろう。


「……状況的になし崩しでいけるわよね……♪

 鳳凰寺さん、ちょっとビッチな攻め方見せてあげる♪」


 そしてお嬢の手を掴んで連れ出し、食堂を出る。

 人目が私たちを観るが気にするものか。


「どこへ……?」

「ここよ?」


 ついた先は、私たちの教室。

 流石にしどー君は戻ってきており、何やら委員長兄と話をしていたのか一緒に居る。

 最低でも委員長兄としどー君が教室に居れば策は叶ったわけで、


「ふふ、想定以上に良い状況ね」


 委員長の目線は鳳凰寺さんと隣り合っている事実に警戒し、メガネをしていないしどー君の視線が私達の手元を観、何をしたんだと問いかけてくる。

 失礼な。

 今からするのよ。


「しどー君!」


 私の声が教室中に響く。

 お嬢の手を放し、しどー君にズカズカと近づいていく。

 何事かとクラスメイトが視線を集めてくる。

 私の彼が、嫌な予感を感じた微妙な顔をしてくるが、構うモノか。


「今、ナウでキスして!」

「ちょっと待て!」


 抱き着きながらの私の叫びに、しどー君も叫び返しながら引きはがされる。

 ここまでは想定内。

 攻める。


「プロポーズしてくれたのに⁈

 不順異性交遊にはならないわよ!

 ちゃんとした付き合いの一環だから風紀の乱れにも当たらないし!

 委員長達だってそうでしょ⁈」


 その言葉をきっかけに爆発したようにガタタタタと、皆が私たちを中心に垣根を作る。

 全くもって仲が良いクラスだ。


「ぇ、マジ?」「マジメガネがプロポーズですと?」「知ってたけど、彼氏欲しい……」「キス叫んだの二人目だけど、破壊力あるな」「あれは家族キスだから別だろ」「クラスルームでキスは初めてではあるな?」「結婚決定二組目とかリア充どもめ……」「彼女欲しぃ」「マジメガネの裏切り者ぉ! 末永く爆発しろ!」


「学校規則上はだな……」

「それは理由にならないのは委員長に前論破されてるよね?」


 私は委員長を観て、説明を促す。

 彼は合点いったように、腕を組み、次の言葉を紡いていく。


「初音君の言う通りだ。

 許嫁の件で学則確認済みで生徒会長にも確認している。

 ちゃんとお互いに、本気での付き合いならキスぐらいならどうということは無い。後、家族はセーフ」


 相変わらず抜かりが無い委員長である。

 最後の一言は非常に蛇足な気がしないでも無いが。


「それに彼女の場合は、逆にそっちの方が安心できると学校側からもお墨付きだろう?

 確かに学生の本分である成績下がるようなら問題だとは思うが、逆だ。

 何か問題があるかい、マジメガネ君?」


 許嫁が居てタダでさえ風紀を乱れさせている委員長にも得がある話だ。

 予想通りにしどー君の説得に乗ってくれる。


「……それこそ、風紀の乱れが起こりやすくなり、皆の学業の妨げになる可能性がある。

 安易な性交渉に繋がりやすくなり、それこそ責任が取れない人が出る可能性がある。

 また、人間関係のこじれにより、不和を招く可能性がある」

「確かに起こるかもしれない。

 しかし、全ての可能性に対して個々の行いに対して責任を取ると言うのかね?

 例えば、ハサミを禁止しなかったために、間違って手に刺してしまったこともかい?

 君は神か何かかね?

 人間の自制心を軽んじるとも言うし、少し反省したまえ」

「ぐっ」


 とはいえ、あまり私の彼氏を虐めないで欲しい。最後の一言なんかは死体蹴りだ。


「ここで提案が一つある」


 私達が無視事件を誘導された時のような、悪魔の笑顔がそこにあった。

 禄でも無いことを考えている時の委員長だ。

 予想外の方向に進むのではと、私は警戒度を跳ね上げ、


「風紀委員として君が示せばいいのではないかね?

 高校生としての節度を保ちつつ、純粋な異性交遊というモノをだ」

「ナイスアイディアよ、委員長!」


 手のひらをひっくり返して迎合した。

 サムズアップで大歓迎だ。


「……はぁ……委員長。

 恨んでいいか?」


 マジメガネが、ため息一つ。

 とはいえ、反論が無い。

 自分の中で消化し、受け入れたのだろう。


「君が風紀の模範を示すことには変わらない。

 今までと一緒で、恨まれる筋合いはない。

 むしろ感謝して、思う存分したまえ。

 僕らも君を模範として従うからね!

 何、まだ時間は十分じゅっぷんある……十分じゅうぶんだね?」


 マジメガネが委員長に肩を叩かれ、私へと前に出される。


「あぁ、筋は通ったし、理解もした。

 納得だけはしてないが、それは委員長が悪いだけだから、初音は悪くない。

 ただ、ディープはしないぞ?

 あれは学内でやるもんじゃない」

「そこまでは求めてないわよ」


 真面目な顔で言われるので、吹き出しそうになりながら笑顔で返してあげる。


「「「「「「「「「「じー」」」」」」」」」


 とはいえ、私も流石にここまで大多数に見られながらのキスは初めてだ。

 緊張している。

 逆に私を真剣な眼差しで見てくるしどー君はいつも通りに思える。


「初音、好きだ」

「⁈」


 突然の好意の告白で頭が真っ白になった瞬間、口元に暖かい感触が軽く押し付けられた。

 そして離れた。

 余りの不意をついた出来事に、皆も静まり返っている。


「ふぁ⁈」


 私が事態を把握し、音を叫ぶと、爆発したようにクラスが騒がしくなった。


「こんなもんかな」


 それをやらかしたしどー君は、何とでも無いと言いたげに、私を抱き寄せる。

 ちょっと待て、こいつ。

 私、心臓がバクバクして口から出そうなんだけど、なんで静しい顔してられるのよ⁈


「なななななんで、キスだけじゃなかったのよ⁈」

「ぇ、ちゃんと好意があることを示さないとダメだろう?

 真剣な交際的に。

 委員長だって、前、自分のモノだと鳳凰寺さん相手に発言してたし。

 それにならった訳だが?」


 言われ思う、やはり私の彼氏はマジメガネであった。

 照れてはいるが落ち着いたままの彼に心臓がバクバクさせられたのが悔しくて、夜襲う決意をする。

 ともあれ、狙い以上であったと、鳳凰寺さんに向け、


『こんな感じよ』


 っと、軽くVサインを送ると、頭を一つ下げる礼が返ってきた。


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