妹とアオハル

第52話 放課後な妹だけど、どうしようかな。

 私、初音・さんが誠一さんを好きなのは性欲からではない。

 大きいのは知っているし、想像するとお腹の奥が疼くが、それだけではない。

 助けて貰った事実はあれど、それはきっかけで、確かに彼が良いと運命めいたモノを感じたからだ。


「大好きですよ?」


 私はふとした拍子、例えば彼が私のことを観てくれている時に、好意を心から伝える。

 すると誠一さんは、困った顔と嬉しさを滲ませてくれる。そんな誠一さんを見てると楽しくなるのだ。

 とはいえ、


「姉ぇとメイドプレイしたそうで」


 今は某珈琲店、カウンター席で二人ならんでデート中。学校帰りに落ち合ったこともあり、私も彼も制服だ。

 他の女の話をするのはどうかと思うが、渋い顔で甘いフラペチーノをすする誠一さんが見れたのでヨシとする。


「初音から何を聞いた……」

「結構、誠一さんが独占欲強いんじゃないかって話をですね」


 頭を抱える誠一さんも微笑ましく思う。

 今日は私も彼もメガネをしており、端から見たらお堅い印象のカップルであろう。

 ただ中身はドギツイ内容で、


「姉ぇに、プレイ中に自分のモノだと言わせたとか?

 この前のプロポーズもそれがあったからとか」

「……初音は僕のモノさ」


 彼が絞り出すようにそう発言してくる。

 言葉だけで見れば、やはり最低だ。

 でも姉ぇも嬉しそうにのろけてくれちゃったので、羨ましくも思う。

 だから、


「私も誠一さんのモノに成れればなと、そう思うわけですが」


 そう更に最低な言葉で攻める。

 そして誠一さんを見ると、頭を抱えてくれている。

 まぁ、私も誠一さんのことと性欲以外を除けば常識で動くので、悩むのは良く判る。


「はぁ……僕はプレイボーイになりたいわけではないのだがな……」


 っと、呟いて私を観てくる。


「正直、言っておく。

 僕はまださん、君のことを決めかねている」

「でしょうね。

 こんなに熟れた処女を食べていただけないんですから」


 チラリとスカートたくし上げ中身をしどーさんに見えるようにし、挑発する。


「濡れてますよ?

 据え膳ですよ?」

「はぁ……」


 大きなため息。

 とはいえ、いつものことだ。

 性欲だけの人なら襲ってくれるシチュエーションだが、そもそもそんな人に私自身が好きになったりするかと言うと……無いだろう。

 私だって、こんな風に男を誘うようになるなんて、つい最近までは想像できなかった。


「マンネリ気味なんですかね、私のネタ」


 頬を膨らませながら、珈琲に口を付ける。


「……どういうことだい?」

「だってですね?

 姉ぇとは新しいプレイを開発しているのに、私はいつも発情ネタだけじゃないですか」

「自分で言うのか、それを……」

「夜だって……姉ぇと一緒しかしてませんし。

 そろそろ二人プレイを解禁して頂きたいかと」


 頭を抱えてくれるので、言うだけの価値はあったようだ。

 私の胸や口、手は誠一さんのモノを扱ったことがある。

 でも、処女だ。


「確かにデートは重ねていますし、普通の男女関係で言えば順調と言えるみたいです。

 この前も本屋さんで、お互いの趣味について理解しましたし」

さんが結構、ドロドロな恋愛本が好きなのは意外だったが……」

「ジャンルというよりは作者推しですね。

 ドラマを観て、そこからズブズブと」 


 脚本家を兼ねている作家先生の作品だ。

 著者近影に小学生が映っていたが、あれは多分、お子さんか何かだろう。


「誠一さんだって、漫画とか読まない感じがしたのに、結構読んでいて驚きましたが」

「学校の友達に勧められたりしたからな。

 とりあえず、有名どころは抑えているし、ある程度マイナーなモノも読んでる。

 初音と付き合う前までは、日曜日空いてる時間で漫画ミュージアム行ったり、スマホで読んでたりしたからなぁ……。

 最近、友達からは彼女持ちの裏切り者扱いだが」


 乾いた笑いをする誠一さん。

 誠一さんはオタクグループに属していたらしい。

 一方、姉ぇはカースト一番上。

 そりゃ、言われるだろう。


「クラスでキスをさせられた時なんかはもう、後で殺されるかと」

「ははは、何やってるんですかね、あのビッチ姉ぇ」


 羨ましすぎる。


「そしたら今日の終わり、私にもキスしてください」

「どうしてそしたらなんだか……」

「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし。

 ファーストもセカンドも、誠一さんにさしあげましたし、それに姉ぇとは違うことが理解出来るかもしれませんよ?」


 誠一さんは相変わらずお堅い。

 とはいえ、姉ぇが崩せてるように私との距離も少しずつ縮まっている。

 ちゃんと今もすぐに拒否は出さず考えてくれている。


「フラペチーノ少し貰いますね?」

「それは減ると思うが」

「良いじゃないですか。

 美少女との間接キスですよ?」


 こんな感じで間接キスとかも出来る。

 あまりそれで意識してくれていないようなのは悔しいが、意識の垣根を低くしていくのは順調だ。


「まぁ、美少女なのは認めるけどな」

「……そーいうとこズルいんですよね、誠一さん」


 とはいえ不意にこんなことを言われるので、嬉しくなってしまう。


「ここ数週間、私とのデートは楽しいですか?」

「楽しいのは否定出来ない。

 こんな風に誰かと経験を共有できるのは楽しい。

 後、やっぱり姉妹とはいえ、初音と燦は違うという所が良く判る」

「例えば?」

「燦は犬っぽい」


 雌犬という単語が浮かぶ頭はどうかした方がいいと思う、自分。


「構って欲しいと懐いてくれるのが、嬉しいわけでな」

「……えへへ」


 女性を扱うにしては最低な発言だが、私はどうしたって嬉しくなってしまう。

 

「わんわん。

 犬らしく、頭撫ででください」

「……まぁ、それぐらいなら良いさ」


 ポンと、頭に優しく手を乗っけてくれてサスリサスリとしてくれる。

 毛の先からサワサワと触ってくれる感触が気持ちよくて、ポフンと誠一さんの胸元に頭を寄せてしまう。

 拒否されるかな? っと思ったが、そのまま肩まである髪の毛をすいてくれる。

 こういう所、優しいし、嬉しい。


「初音といい、燦といい、奇麗な天然茶髪だよな……」

「最近はちゃんとトリートメントしてますから!

 昔はそれこそ、親のモノと一緒でしたが……」


 私は変わった。


「誠一さんのためです、そしてお陰です」


 本心からの笑顔を向ける。

 誠一さんに会わなければ、こんな私が居るとは気づかなかった。

 女である自分をだ。


「……それは光栄だな」


 見上げれば、顔を赤らめて照れてくれている。

 好意にちゃんと反応してくれる誠一さんが好きだ。


「誠一さんは私にして欲しい事とか無いんですか?

 何でもしちゃいますよ?」


 姉ぇみたいにエッチな事でもという言葉は飲み込んだ。

 今は私で勝負しているのだ。


「今のところはこのままで」

「わふっ」


 ポンっと私の頭に手を乗せてくれるので嬉しくなってしまう。


「んじゃ、そろそろ行こうか」

「はい」


 私の頭から手が離れる。

 今まであった温かみが消え、寂しく思える。

 ただ、次に私の手に温かみがくる。


「ふふっ」


 彼の手で私の心が嬉しくなる。

 だから、抱き着いて、私の大きな胸で彼の腕を包み込んでやる。

 少しでも私の高鳴った心臓の音が聞こえるようにだ。


「それじゃ、燦、ここで」


 しかし、その時間は短い。

 すぐに京都駅の一番奥まったホームについてしまう。


「楽しい時間はすぐ、過ぎてしまいますね」


 そう言いながら、私は彼から体を外す。

 ふと、ぐいっと手を引かれるので、見れば誠一さんが真面目な顔をして、私に眼鏡の奥から目線をぶつけてくれる。


「燦」

「はい……?

 んっ……♡」


 軽く触るだけのキス。

 離れる。

 私は驚きを隠せず、彼を観るだけだ。


「確かに初音とは違うよな。

 柔らかさが違う」

「あ……」


 この人、ホントに真面目である。

 私が言ったことを、ちゃんと彼が言ったことをしてくれた。

 そう、私を観てくれるためにキスをしてくれたのだ。

 嬉しくなり、女である部分を刺激される。


「燦、そろそろ電車だ」

「わふっ!」


 頭にポンと手を乗せられ、正気に戻される。

 危ない発情モードにはいりかけた。


「それじゃ、誠一さん、また土曜日!

 大好きです!」

「ああ」


 ブンブンと犬の尻尾のように手を振って別れる。


「……やっぱり誠一さん、ズルい。

 でも好き……♡」 

 

 私は誰に言うでもなく、電車の中で呟きながら、唇を小指でさすった。

 まだ、誠一さんの温かみが残っていた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る