いつか君のために ②
夏休みの話やテストの話をする雪乃に適当に相槌を打ちながら、僕は彼女の横顔を見ていた。
何度も見た横顔だが、やはりきれいだ。これはクラスの男子が好きになる理由にも納得がいく。
当の本人にそのことを伝えても、当たり前でしょ!としか言わないが、本当はその顔立ちの良さと物静かな女の子らしい雰囲気がセットになっており、僕が知っている彼女と違うことは公表しないようにしている。
「なによ」
返事が返ってこない僕を不審に思い見たのだろう。じっと見つめる僕に対し、威嚇するように眉をしかめて見上げる彼女。
「あ、いやなんでもない」
「なーによ。まさか、また私の情報でも売ったんじゃないでしょうね?!」
詰め寄る彼女をなだめつつ、誤解を解く。
同級生の人気ランキングとしては、雪乃は2位という話だった。1位は僕らとしては周知しているが、顔良し性格良しの元気活発系の女の子だが、校内全体ランキングでは5位に入るかどうかで、雪乃はその中ではほぼ1位という情報を聞いたことがある。
ゲームセンターもないような田舎ではこんなうわさ話が娯楽になるのだ。
クラスに1人はいる情報通の男子が良くそんな話をしている。
子供ながらも僕らにだって恋愛感情はあると思う。
誰かを好きで付き合いたい、という気持ちに敏感になったのは中学に入ってからだろう。
僕やヤマは付き合っても何をすればいいのかわからないし、そんな相手もいないので恋愛話にはかなり疎い。
女子でも男子とも仲良くしている僕ら二人は、だいたい好きな人に好きな人がいるかを聞くというよくわからないキューピッド役がほとんどだった。
「ハルは好きな女の子いないの?」
それを察してか彼女は意地悪そうな顔をこちらに向ける。
好きな女の子、それは恋愛対象として聞いているのだろう。僕にはいない。
でも気になる女の子というか、放っておけない女の子は今目の前にいる。伝えてもいいのだろうか。
本人が聞いているのだから、言ってもいいのだろう。
「好きな人は、いないよ。でも気になるというか友達として、というか」
「え、誰?!」
珍しく僕から垂れ下がる餌に勢いよく食いついてくる。恋愛に興味がなさそうな彼女の態度は初めてのことだった。
そんなに誰かが誰の事を好き、というのは重要なことなんだろうか。
「まあ、雪乃のことは好きだよ。恋愛とかわかんないけど、人として好きだと思う」
少し照れくさい。告白したときの気分とはこういうものなんだろうか。
雪乃のことは好きだ。でも、それは恋愛感情ではないとわかっている。
一緒にいて楽しいし、困っているなら助けてあげたい。
そういう意味ではヤマだって好きだ。そんな意味合いの好きなのに、彼女は顔を赤くして僕から少し離れた。
「・・・ばか。友達としての好きでも、簡単に言わないでよ。恥ずかしくなるじゃん」
「え、いや。だって聞いてきたの雪乃だし・・・」
ふん、と言ってさっさと歩いていく彼女を追う。
怒っているわけではないようだが、今顔を覗き込むと僕の顔面がすごいことになりそうなことだけは察した。
彼女の歩幅なんてたかが知れている。簡単に追いつけるとしても、そっとしておこう。
そうしているうちに彼女の家の通りまで着いてしまった。
ピタっと止まる彼女に恐る恐る鞄を渡すとぶっきらぼうに奪い取り、歩き出す。
悪いことをした覚えはないけれど謝ったほうがいいのだろうか。
彼女の背中を見送っていると、去っていくはずの背中は唐突にこちらを向いた。
「ばーか!女の子をからかうんじゃないっての!」
少ない民家にすら届きそうな大声で僕にそう伝え、手を振り去っていった。
女心って難しい。それがテスト前に僕が覚えた社会の理だった。
恋愛とは、と聞かれたなら僕はすぐに違う人に聞くことを勧める。
それくらいよくわからない感情。恋愛感情での好きっていうのはどういったものなんだろうか。
ただ一緒にいて楽しくて。
話していて自然に笑いがこぼれて。
何もしゃべらなくてもお互い気を使わないでもいい。
それらを好きという言葉でまとめなければ、なんという言葉で結んであげたらいいのだろう。
こんなに難しいことを大人になると実践していくのかと思うと、母が流しているテレビのドラマもよく観察した方が良いような気がした。
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