第3話6 一つお願いがあるの

 正人の考えは当たっていた。やはり皆元が、〝バグ持ち〟だったのだ。


「俺の言ったこと、かなり穴だらけだと思うが、もっとトボけることもできたんだぞ。はっきり言うと、誰がやったのかお手上げ状態で、その中で少しでもそれっぽいのがお前だったってだけだ。もっと嘘つかれたら、これ以上追及できないレベルだった」


「何、トボけて良かったの?」


「いや、そういうわけじゃないが……思ったより素直に言ってくれたんでな」


「これ以上あんたにつきたくなかったのよ、嘘を」


「皆元……」


「……少し前になるわね。学校から帰って部屋でゴロゴロしてたら、突然この超能力に目覚めたの。というより、閃いたって感じに近いかな」


 皆元はバグのことを超能力と解釈しているようだ。


「閃いた……?」


「そう。〝苦しめることもなく、他者を存在ごと消すことができる〟って事実が、急に閃いたように知識として頭の中にあった。力の使い方も、使えばどうなるかも全部」


「突然芽生えるものなのか……」


 自分の場合はバグが発生していても、紙鳴先生に言われるまで全く気づかなかった。バグによってそのあたりは違うのかもしれない。


「あんたもこの力を使えるの? なんか詳しいみたいだったけど」


「そんなもんだ。俺の場合はそういった力の影響を受けない力……って言えばわかるか?」


「なるほどね……。だから来栖さんのことも幼馴染ちゃんのことも、覚えてたってことか。あれ? でも種類の違う力ってことは、どうやって消す相手の条件とかわかったわけ?」


 ふとそこで正人は、紙鳴先生のことやこの世界の成り立ちのことを話してしまっていいのか悩んだ。この問題解決の知識を得た経緯についてどう説明すべきだろうか。


(別に他人に言うなとは言われてないけど……)


 しかし彼女のことだ。言い忘れていたとあとから言われる可能性もゼロじゃない。そう思った正人はひとまず経緯については伏せることにした。


「……そういうのも、俺の力はわかるんだ」


 ということにした。


「そっかぁ……。まさかこんな身近に超能力者が自分以外にもいるなんて思わなかった」


「なあ、消した二人を元に戻してくれないか?」


 ここが一番大事なところだ。〝直してミカちゃん〟で〝修正〟を施す前に、あえてバグを行使して消した二人を元通りにしてもらわないといけない。


「うん、いいわよ」


「え、いいのか?」


 拒否どころか渋る様子すらなく、あっさり二つ返事で承諾の答えが返ってきて思わず聞き返してしまった。


「何よ、その意外そうな顔。どーせ、往生際悪く渋るとか思ったんでしょ?」


「あ、いや、そういうわけじゃないけど、あまりにもあっさり要望が通ったからさ……」


「まあ、元から最終的には戻す予定だったしね」


 と言いながらも、皆元は「でも」と付け加えた。


「……一つお願いがあるの」


「お願い?」


「たいしたことじゃないわ。もちろん、聞いてくれなくても二人は元に戻すし、完全にただのお願い」


「……とりあえず、聞こう」


「あたしをね、〝振って〟ほしいの」


 〝振る〟という言葉の意味を、正人はどう解釈していいか迷った。何かのたとえだろうか、あるいは自分の知らない、女子高生の間で当たり前のように使われている流行語だろうか。


 その意味についてあれこれ考えていると、皆元がある問いを投げかけてきた。


「そもそも、どうしてあたしが二人を消したんだと思う?」


「え?」


 唐突な問いに意識が〝振る〟から彼女の質問に切り替わる。しかしきっとこの両者が関係あるものなのだろうということは、正人にもわかった。


 彼女が、二人を消した理由。


 それはもし彼女が話してくれるなら、ぜひとも訊きたいと思っていたものだ。正直正人にはなぜなのかまったく予想できなかったから。


 正人は彼女が悪人ではないのを知っている。

 イタズラでこんなことをしたようには思えない。


「どうして……なんだ?」


 正人がそう返すと、彼女はポツリと語り始めた。


「結論から言うとね……すごく嫉妬したの」


「嫉妬?」


「あんたはあたしのこと〝友だち〟って言ってくれてる。すごく嬉しいことだけど、あたしはその関係じゃ不満だった。もっとそれ以上が良かったの」


「〝それ以上〟って……」


 もし勘違いでないのなら――、


「お前……」


 さすがにその言葉の意味するところを察することができないほど、正人は鈍感ではなかった。言葉にされないと気づけないことは多いが、ここまで言われると〝もしかして〟と思い至る。


「そういうことよ。あたし、赤土くんのことが――好き」


 その〝もしかして〟を彼女は言語化した。

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