第42話 分析と予測

「うーん……」


把握してる内容を淡々とノートに書く作業というのが、現時点での授業へのスタンスだ。無論この程度なら今更覚える内容なのだが……後で琥珀に教える時にきちんと分かりやすくするために整理しておく。


しかし、その作業にも暇な時間があるわけで……俺は密かに琥珀のクラス内の事情を頭の中で整理していた。


まず、結論から言えば琥珀はクラスに馴染めている。隣の席の女子生徒の他にも数人クラスで話せる友達は出来てるようだ。男子に関しては余計な虫は今のところついてない。まあ、あれだけ頻繁に通って見せつければそうだろう。


琥珀は可愛いから、馬鹿な男子にちょっかい出される可能性も想定したが……まあ、その場合相手を本気で潰して可愛い琥珀たんを守るから心配ない。


班分けに関しても話せる友達と大人しい男子なので心配はない。まあ、これは席替えで代わることもあるから定期的にチェックだね。


そして、2人1組……実はこれが1番予想外というか、予想通りというか……


(浪川黒華ねぇ……)


表向き、普段は琥珀から積極的に話しかけはしないが、体育や美術などの授業で2人1組が必要になると必ずペアになるようになった女生徒だ。本人から琥珀への接触はあまりない。琥珀が普段話しかけることが少ないのはきっと、彼女の性格を理解してなのだろと俺は推察する。


そして、琥珀をいじめたクラスメイト……奴らの標的になりつつあるのがこの浪川黒華という人物だ。


本来ならこの女子生徒を助ける義理はない。ないが……


(琥珀の友達なんだよなぁ……)


幸い今のところ実害は少ないが、少しづつ地味な嫌がらせは始まってるようだ。それを琥珀が知ったら……


(あの優しい琥珀が助けないわけないしなぁ……)


思わずペンを回して思考してしまう。イジメというものには個人差がある。地味な嫌がらせから発展していくものと、最初から悪意全開の嫌がらせ。まあ、他にも色々あるが、琥珀をイジメた憎き奴らは琥珀への嫌がらせを徐々に重くしていったと想定される。


それは琥珀の内気な性格をからかってと……ウザく思ったからなのだろう。まったく、あんなに可愛いのに理解不能だよ。

ところが、この浪川黒華という生徒は琥珀とはある意味対称的な性格と言えるのだろう。


俺が以前の記憶で得てる情報と、同じ小学校の生徒に聞いて回った感じからの推察ではあるが、彼女は意図的に他人と距離を置いてると思われる。


人間関係が面倒になったタイプ。かなり大人びているし、奴らからしたら面白くないだろうが……くだらない嫌がらせ程度で折れそうな精神はしてない。


だからこそ……琥珀のような純粋なタイプとは相性がいいと思う。琥珀はきっとどうあっても、見かけたら助けてしまう。なら、それはいつ頃になるか。


(恐らくそう遠くないうち……だろうな)


奴らが勝手に自滅するなら万々歳だが……絶対琥珀は関わることになりそうだ。なら、こちらから先手を打つべきだろう。


チラッと外を見れば、丁度体育の授業が外で行われていた。琥珀はやはり件の女子生徒、浪川黒華と楽しそうにやっている。


「絶対……守るから」


思わず漏れたその言葉を聞いた人は誰もいない。それは俺の決意だから。





「変わってるね」

「何が?」


キョトンとする琥珀にボールを投げる黒華。現在は体育の授業中。男子と女子てやってる競技も違うのだが、今はソフトボールをやっていた。


黒華の柔いボールでも琥珀はおっかなびっくりにグローブを出して……思いっきり取りこぼしてしまう。


「はぅ……」

「桐生さん本当に運動神経ないね」

「うぅ……」


シュンとしてからボールを取ると、琥珀はふと校舎の方を見てからぱぁーっと顔を明るくした。不思議に思い、黒華は思わずそちらに視線を向けてから納得してしまう。


窓際の席に座って手を振るのは琥珀の彼氏である暁斗。いつもクラスまで来て琥珀とイチャイチャしてるので、他人への関心が薄い黒華でも把握していた。


「彼氏さん?」

「うん!あっくんはね、凄くカッコイイの〜」


嬉しそうに暁斗のことを語る琥珀。正直、黒華としてはどこがいいのかサッパリだが……


(なーんか……腹黒っぽいなぁ)


一件、紳士に見えるが、計算して動いてる面がありそうだと黒華は感じていた。ただ、その意図は全て琥珀のためなのだろうとも理解は出来た。まあ、黒華から見て琥珀はかなり変わっていたからだ。


黒華は少し特殊な家庭事情なので、小学生の頃はその関係で友人付き合いが面倒だった。皆が黒華に気を使う。現在のクラスでは、黒華は1人というなんとも心地いいポジションにいるのだが、面倒な連中というのはやはりいる。子供のような小さな嫌がらせ。本当に馬鹿らしいと思う。


そんな中で、琥珀だけはこうして裏表なく黒華と仲良くしたいと言ってくるのだ。確かに少し鈍臭いし、素直すぎると思うが……こういう人間は黒華は嫌いではなかった。


「いい彼氏なんだね」


相槌でそう返すと琥珀は少しだけ不安そうな表情で黒華に聞いた。


「あっくんは私の彼氏なの。だから……」

「分かってるよ。”友達”の彼氏に手は出さないって」

「……!うん!」


初めて黒華から聞けたその単語に嬉しそうにする琥珀。本当に変わってると思いながらも黒華はこの時間が嫌いではなかったのだった。




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