第39話 相合傘

「あれ……雨?」


下駄箱で靴を履き替えてから、帰ろうとするとポツポツと雨が降り始めていた。天気予報ではそこまで降水確率高くなかったけど……まあ、天気予報だし仕方ない。


「琥珀、傘ある?」

「うん、鞄の中に……」


ゴソゴソと鞄を漁ってから、無かったのかシュンとする琥珀。やだ、可愛い。まあ、大方間違えて置いてきたのだろう。そんなところも大好きだけどね。


「あっくん、ごめん……」

「いいよ。俺が持ってきてるからね」


鞄から折りたたみ傘を出して広げる。手招きすると琥珀は嬉しそうに俺に抱きついてきた。子供の頃は雨の日はよく相合傘をしてたものだ。まあ、子供の頃と決定的に違うのは俺達の関係性と……琥珀たんの発展途上ながらも大きくなってきてる柔らかい膨らみだろうか。


無論、琥珀的には俺を誘惑する気は全くなく、昔みたいに相合傘出来るのが本当に嬉しいのだろう。だからこそ、役得だと思うだけで我慢する。


カップルの相合傘は案外目立つもので、結構注目を浴びるが、むしろ俺としては琥珀とのラブラブをアピールしたいのでウェルカムだ。


「えへへ、こうやって帰るの久しぶりだね」


隣の琥珀がご機嫌そうにそう言う。


「だね。昔は雨の日はよくこうしてたっけ」

「うん、私が傘忘れるとあっくん、よくこうしてくれたよね」

「琥珀はうっかりさんだからね」

「むー、うっかりじゃないもん」


そんな風に笑い合う。と、車道側を歩いているとかなりのスピードで水たまりを通過する車がいたので、俺は咄嗟に琥珀を庇って飛んできた水を体に浴びる。


「琥珀、大丈夫?」

「うん……あっくんは?」

「俺もそこまで濡れてないよ」


とはいえ、そこそこ制服は濡れてたりする。全く……もう少し気をつけて欲しいものだ。まあ、ドライバーの気持ちも分からなくないから、そこまで非難はしないでおくけどね。


そんなことを思っていると琥珀はハンカチを取り出して軽く俺の服から水滴を取ろうとしてくれていた。何この天使様?いや、もう本気で俺の嫁凄ェ!的な感じだよね。


「ありがとう、琥珀」

「ううん、あっくんいつもこうやって守ってくれるから……私こそありがとう」

「当たり前だよ。大好きな人だからね」


そう言うと顔を赤くして微笑む琥珀。まあ、さりげなく昔から好意があったことを遠回しに伝えてしまったが……本当なので仕方ない。子供の頃なら絶対に認めないだろう、でも、琥珀のことは多分初めて会った時から一目惚れしてたんだと思う。


その話は……また、今度ゆっくり琥珀に話すとしようかね。そんな感じで濡れつつも俺は琥珀と相合傘を楽しむのだった。




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