第36話 お友達になりたい

俺と琥珀が早い段階で部活を決めたことで、一先ずスケジュールは立てやすくなった。これで、琥珀を守るのにも多少余裕が出来る。


琥珀の行動がある程度決まってないと予想が立てずらいことが多いけど、まあ、どんなことになっても必ず琥珀は守ると誓っているのだ。


「……んで?だから、ボイスレコーダーとビデオカメラの持ち込みを認めろと?」

「ええ、お願いします」

「お前な……仮にも教師に言うセリフがそれか?」


呆れる担任に俺は大真面目に説明する。


「表向きは授業の記録ということで許可を貰えれば構いません。なんなら撮ったものを定期的に見せるのも構いません。とにかく許可だけは欲しいんです」

「ボイスレコーダーはともかくビデオカメラはなぁ……」

「携帯だってギリギリセーフじゃないですか」

「それは、緊急時の親御さんとの連絡用だ。ましてや、使っていいのはそういう家庭環境の生徒であって、お前とお前の彼女も本来許可が出せないんだがな……」


まあ、無理を言ってるのは分かってる。それでも、万が一の用心はしたい……というか、多分このままだとその最悪の想定も有り得ると踏んでるのだ。


だからこそ、こうして話したという事実を一つ持ち込むだけで後々の伏線にもなり得るだろう。そんな俺の思惑を悟ったように担任はため息混じりに言った。


「まあ、お前がそれで盗撮とかする奴ではないのは分かってるがな……バレた時はちゃんと処分受けろよ?」

「分かってます。用が済んだら持ち込みませんよ」






「じゃあ、2人1組になれよー」


それは体育の時間のことだった。いつもは組んでくれる女の子が体調不良で休んで誰と組もうかと琥珀が視線をさ迷わせてる時にその子を見かけた。


いつも大人しく1人でいることが多いその子に琥珀は勇気を持って話しかけることにした。


「あ、あの……一緒に組まない……?」

「……別にいいよ」

「あ………ありがとう」


嬉しそうに微笑む琥珀に、その子は不思議そうに聞いた。


「なんでお礼?」

「いや……浪川さん、なんだか人と話すのあんまり好きじゃないのかなって思って……」


それは琥珀の直観的なものと、観察による成果だった。その少女――浪川黒華なみかわくろかはどこか他人と関わるのを避けてる節があると感じたのだ。


まるで意図的に避けてるようにも思えると琥珀が言うと黒華は驚いたような表情を浮かべてから、ため息混じりに言った。


「まあ、間違ってないよ。小学校で友人関係には正直疲れちゃってさ。だから、中学ではそこそこ1人で行こうと思ってるだけ」

「じゃ、じゃあ……お友達にはなれないかな……?」

「私と?止めといた方がいいよ。それに無理に私と友達にならなくても、他にも友達はいるでしょ?」


その言葉に琥珀は少しだけ躊躇いそうになってから……心の中で暁斗のことを思い出して勇気を出して言った。


「でも、あの……私、浪川さんとお友達になりたい」

「……どうしてそこまで?」

「だって……仲良くなれそうって思うからか」


えへへと笑う琥珀に拒絶しようとしていた黒華は毒気を抜かれてくすりと笑って言った。


「好きにしなよ」

「うん、ありがとう、浪川さん」


それが、浪川黒華という少女が琥珀と最初に話した場面だった。この時は黒華もどうせすぐに忘れるだろうと思っていたが……暁斗という存在がいることで強くなった琥珀にそんなことが通用するわけ無かったのだった。




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