第27話 理解の出来る大人

「さて……じゃあ、要件なんだが……」


放課後、琥珀には少しだけ待ってて貰うようにお願いしておいて俺は担任の待つ空き教室へと来ていた。


「琥珀との交際について……立場上、注意は必要ってことですよね?」

「……まあな。男女交際が禁止ではないが節度は必要と上は煩くてな。特に、入学直後にかなりの生徒に見せつけてるとどうしてもな」


予想通りなので頷くと、担任はため息をついてから、懐からタバコを取り出して火をつける。


「いいんですか?生徒の前で」

「固いこと言うな。どうせ話さんだろ?」

「それはこれからの俺の話に協力すればですかね」

「……話せ」


やはり勘づいていたようだ。俺はある程度伏せつつ琥珀の家庭環境のことと、俺のこれからのスタンスを話す。


「なるほど……お前の話は分かった。確かに今の情勢を踏まえると軽々に話せることではないな」

「ええ」

「とはいえ、これでも一応教師だ。一応聞いておくが……それは本当に本人の意思でいいんだな?」


琥珀の意思か。まあ、当然の疑問かもね。


「琥珀にとって、今の親は害以外の何ものでもありません。向き合うにしてもそれなりの準備は必要です。俺は琥珀が望むことを絶対に叶える。本人の意思を邪魔するものがあればそれを排除するのも俺の役目です」

「……まあ、過保護だとは言わんよ。好きな相手なら当然だ」

「ご協力頂けますね?」


そう言うと煙を吐いてから、携帯灰皿に吸い殻を仕舞って担任は言った。


「分かった。正直、俺も今の2組の担任はかなり不安だったからな。その辺は上手くしてやる。ただ……お前もそれだけに構わず将来をちゃんと見ろよ?」

「むしろ、俺は琥珀との将来しか見てませんよ」


琥珀と共に幸せになれる未来を目指す。それが俺のやるべき事だから。


「はぁ……全く、長いこと面倒な生徒には何度も当たってきたつもりだが……お前みたいなのは初めてだよ」

「そうですか?」

「年頃特有の子供らしさが皆無。どころか、まるで成人してる奴と話してる感覚になる」

「失礼な。これでも中学生ですよ?あ、あと、新聞配達のバイトの許可も貰えますよね?」

「分かった分かった……とりあえず、妊娠させて退学だけはやめてくれな。後が面倒だから」

「多分、大丈夫ですよ」


うん、日に日に琥珀への想いが募ってるけど、琥珀の同意なしじゃ襲う気はない。同意があればもちろん据え膳食わぬは男の恥だからやるかもだけど……それも、ある程度の範囲にしておく。


琥珀が何かなりたい未来があるかもだし、それなら軽いスキンシップ多めで愛でる方が良さげだろう。そうして俺は担任への根回しを済ませるのだった。さて、琥珀の元に戻らないと。






「桐生さん、またねー」

「うん、バイバイ」


隣の席の女子が帰るのを見送ってから、琥珀は大人しく机で暁斗の帰りを待つ。


徐々に人が減っていくのを眺めていた琥珀はふと、目の前を通った女子が暗い顔をしているのをたまたま見てしまった。琥珀の記憶が確かなら、その子は休み時間も1人でいたように思えたが……


(どうかしたのかな……?)


琥珀とて、あまり人付き合いは上手ではない。だから、なんとなく自分と同じ雰囲気を感じ取ってそう思ったが、声をかけることは出来なかった。


(でも、私もあっくんの彼女になったんだし、頑張らないと……!)


琥珀なりに変わろうと決意を固めつつも、琥珀は暁斗のことを考えてついついノートを取り出して余白のページに暁斗の似顔絵を書いていた。


幼い頃からずっと見てきたから、本人がいなくても細部まで思い出すことが出来る。話してなかった間も何度か見かけていたし、声はかけられなくても、琥珀はずっと暁斗のことを見てきた。


「……できた!」


しばらく頑張っていると、かなりクオリティの高い暁斗の絵が出来上がった。その絵を眺めて琥珀は満足気に微笑んでから、ハッとして、周りを見渡して誰も居ないのを確認して安心する。


(いくらあっくんが好きでも、こんなの見られたら引かれちゃうかも……うぅ、でもでも、早くあっくんに会いたいよぅ……)


そんな葛藤をしながら暁斗の似顔絵を眺めて時々笑みを浮かべる琥珀の姿を、もちろん暁斗は見逃すことはなく、それをしばらく悶えつつ眺めてから、こっそり持ってきていた携帯で動画を撮ってから琥珀の元に向かうのだった。










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