第329話 訪問者
「じゃあ、またね」
それからしばらくして、外川は急に帰ると言い出した。俺は仕方なく玄関まで見送ることにした。
「……なるべくなら、もう来ないでほしいな」
「酷いなぁ。言ったでしょ? 僕は君の味方だ、って」
俺は何も言わずに思わず眉間に皺を寄せてしまう。しかし、外川は別に気にしていないようだった。
「あぁ。さっき言ったことだけど。せっかくなら、デートの時に確信してみたら?」
「……なんでわざわざそんな時に確認するんだよ」
「そういう時だからこそ、だよ。デートに来ているんだから、きっと、正直な気持ちを伝えてくれるはずさ」
正直な気持ち……真奈美が俺のことを、本当に好きかどうか、ってことか? 俺は確認したいなんてとても思えなかった。
「……確認なんてしなくていい」
「へぇ~。まぁ、後田君がしたくないならしない方がいいかもね。もし、それで本当の気持ちがわかっちゃったら……僕は、後田君が傷つくところは見たくないからね」
まるで本気でそう思っているかのように、外川はそう言った。まぁ、俺にとってはどうみても演技にしか見えない……いや、演技と思いたかった。
もし、本気で外川がそう言っているのだとすると……本当に俺はコイツのことを理解できないからだ。
「じゃあ、僕、今度こそ、本当に帰るね」
「……あぁ。じゃあな」
そう言って、外川が扉を開けた時だった。
「え」
思わず俺は声を漏らしてしまった。外川が開けた扉の先には……真奈美が立っていたのだ。
「え、あ……ま、前野さん、なんで……?」
あの外川が完全に動揺していた。流石に予想外のことだったように見える。
前野は外川のことを一瞥してから、俺の方に視線を向ける。
「湊君。外川さんがなんでいるの?」
冷たい響きの声だった。俺は思わず視線を反らしてしまう。しばらくの間、沈黙がその場を支配する。
「……あ。じゃあ、僕はこれで――」
「早く、帰って」
と、そう言ったのは真奈美だった。明らかにその雰囲気はそのままだと本当に外川に食って掛かりそうである。
「あ……じゃ、じゃあ、これで……」
そう言って、外川はまるで逃げるかのように、そのまま扉から出ていった。その代わりに、真奈美が玄関に入ってきたのだった。
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