第316話 不安

「ねぇ~、ちょっと待ってよ~」


 後ろから外川がしきりに話しかけてくる。俺は無視し続けて、時折、スマホを確認する。


 ……きっと、急用ができたのだろう。だから、真奈美は先に帰ってしまったのだ。


 だから、もうすぐ真奈美から連絡があるはず……俺はそう考えた。


 しかし……中々連絡は来なかった。


「前野さんからの連絡、待っているの?」


 俺がそう考えていると、いつの間にか俺の横から外川が俺にそう聞いてくる。


「……お前に関係ないだろ」


「関係あるよ~。修学旅行も一緒だったわけだし。心配だよね~」


 わざとらしくそういう外川。というか、なんでコイツは俺に付いてきているのだ……。


「……お前は何が目的なんだよ。これ以上俺に何か用があるのか?」


「ん~? 別にないよ~。ただ……後田君って、見ていると面白いなぁ~、って」


 ニヤニヤしながらそういう外川。やはりコイツは性格が悪いというか……。


 と、そんな折に、スマホに着信音があった。俺はすぐにスマホの画面を見る。


 そこには「ごめん。用事ができたから先に帰るね」という、真奈美からのメールだった。


 俺は思わず安堵してしまった。そうだよな……、俺は何を不安に思っていたのだろうか。


「ホッとしている?」


 と、外川が俺にそう聞いてくる。俺は思わずぎょっとしてしまった。


「前野さんから連絡が来て良かった、って? フフッ……後田君、可愛いね、ホント」


「……何が言いたい?」


「だってさ~、別に連絡するなら電話でもいいわけでしょ? それなのに、なんでメールなのかなぁ~。もしかして……今、電話できない状況だったりして」


 そう言って邪悪な笑みを浮かべる外川。俺は何も言えなくなってしまった。


 先程、外川が俺に見せてきた画像が脳裏によぎる。いやいや……あり得ない。真奈美はそんな……。


 ……だが、何を以て、そう考える? 俺は確信を以て、そう言えるのか? そもそも、真奈美みたいな美少女が俺のことを好きっていうのも、おかしな話だ。


 だとしたら、本当は真奈美は俺のことを――


「大丈夫だよ」


 と、いきなり外川の声が聞こえる。いつの間にか直ぐ側に外川がいた。そして、いきなり外川が俺の手を握ってくる。


「……な、なんだよ」


「不安だよね? 心配だよね? 大丈夫……後田君は僕のことをどう思っているか知らないけど、僕は君の味方だよ。不安なら僕のことを頼って――」


「……うるさい」


 俺は、それ以上先を言おうとする外川を遮る。外川は驚いたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


「……フフッ。いいよ。その強がり、どこまで続くかな……。君が僕に泣いて縋ってくるのを、僕はいつでも待っているよ」


 そう言って、外川は背を向けて、そのまま去っていってしまった。


 ……落ち着こう。何も不安なことはない。


 明日、真奈美に会えば、きっと、今日のことはどうでも良くなる……俺は自分にそう言い聞かせながら、家路を急いだのであった。

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